125ー諦めない
「ふふふ、あなたの血を継いでますわね」
「アリシア、それを言うんじゃない」
そうそう、俺は父の子だからね。父だって母に猛アタックしたのだろう? 同じだ。
「でもラウ、あちらがどう考えておられるかは分からないわ。お断りされちゃったら、もう会いに行けないわよ」
「え、しょうなのれしゅか?」
「そうなっちゃうわね」
「しょれれも、あいにいきましゅ。ぼく、がんばりましゅ」
「あら! ラウったら」
「アハハハ! ラウ、そうだな! 1度くらい断られたからと言って直ぐに諦める必要はないぞ!」
「あい、とうしゃま」
前の時に、俺とアコレーシアが婚約をしたのは7歳の時だ。それまでまだ4年もある。今断られたって、それで諦めたりなんかしないさ。毎日お花を1本持って通おうと思う。
デオレグーノ神王国の間者の件は、この国各地に散っている父の部下が捜索することになった。
間者なんかではなく、大使や仕事で他国からこの国にきている人達はいる。その人達は当然、自分の国に有利な情報を流す。
それは仕方のないことだ。この国だって同じことをしている。
だが、あの国は違う。あの真紅の髪の女性が起こした事件だってそうだ。敢えてこの国の人達を傷付けて、自分達が有利な物を持ち出す。それは反則だ。
そんなことを許してはおけない。あの女性だって二度とデオレグーノ神王国の地を踏むことはないだろう。今、どこでどうしているのか、俺は知らないけど。
そして、アコレーシアだ。明日、俺達は登城しなければならない。
その後、母と一緒にまた訪問することになった。
俺が、毎日会いに行きたいと言ったから、それを汲んでくれたんだ。そして、母からアコレーシアの母親に内密に話をしてくれる。まだ、内密にだ。だって3歳だから。
貴族によっては生まれてすぐや、生まれる前から婚約者が決まっている者もいる。だけど、うちはそうじゃない。アコレーシアの家もだ。
ある程度自分で、判断できる歳になるまでは決めない。
親も選ぶが、本人同士の気持ちも考えてくれるんだ。
俺とアコレーシアの相性は良いと思うぞ。俺が毎日行っても、嬉しそうに出迎えてくれるし。一緒にご本を読んでいるだけだけど、楽しそうにしている。
だから大丈夫だと思いたいのだけど、何しろ俺の父は王弟殿下で公爵だ。しかもどんな仕事をしているのか、公になっていないという特殊な家だ。
仕事柄、一応外交を担っていることにはなっているが、それも父の仕事の一側面だ。それがメインではない。
夫人が母の友人で、危険なのは分かっている。そこに可愛い娘を嫁入りさせても良いのか? と、当然そうなるだろう。
「ラウ、どうしたの?」
「かあしゃま、ふあんれしゅ。ことわられたら、どうしましょう」
「あら、断られても諦めないのでしょう?」
「しょうらけろ……」
「そのラウの気持ちを、分かってもらうしかないわね」
「あい」
「アコちゃんが良いのでしょう?」
「あい。かわいいれしゅ。おりこうしゃんれしゅ」
「あら、そうなのね」
「あい」
前の時に俺との婚約を受け入れてくれた。だから大丈夫だとは思うんだ。だけどなぁ、まだ3歳だからな。
そんなことを考えていたけども、翌日は両親と一緒に登城だ。
お出掛け用のフリフリの洋服を着せられて馬車に揺られている。
「ミミ、また喋ったら駄目よ」
「またみゃ!? みみはとりしゃんじゃないみゃ!」
「できないなら、お留守番していなさいな」
「みゃみゃみゃ! れきるみゃ! みみはれきる、しぇいれいみゃ!」
「そうね、ミミはお利口ですものね」
「おりこうじゃないみゃ。てんしゃいみゃ」
「はいはい、天才ね」
ミミは文句があるらしい。出掛けるとなると、必ず喋ったら駄目と言われるからだ。
「みみはしぇいれいみゃ」
「わかってるよ。けろ、しかたないれしょう?」
「しかたないみゃ。こわいからみゃ」
またそんなことを言う。それを母の前で言ったら駄目だと学習しないと。
「みみ、誰が怖いのかしら?」
ほら、突っ込まれちゃったじゃないか。母は鋭いから駄目だぞ。
「みゃ! なんれもないみゃ。みみはおとなしく、しとくみゃ」
「ええ、そうしてちょうだい」
「みみ、ぴよだよ」
「わかってるみゃ。ぴよ」
不貞腐れている。とっても不満そうだ。鳥さんの見た目だから、表情が変わるわけじゃないのだけど。
「ももじゅーしゅは、もらえるみゃ?」
「用意してくれていると思うわよ」
「じゃあ、いいみゃ」
良いのかよ。桃ジュースが最優先なのか?
「ももじゅーしゅは、おいしいみゃ」
「ふふふ、そうね」
リンリンやフェンが、こんなに桃ジュースと言っている覚えがないんだけど。もしかしてミミは特別に好きなのじゃないか?
「あら、リンリンとフェンもいつももらっているわよ。精霊は好きなのね、桃ジュースが」
「しょうなのれしゅか?」
「ええ、ラウが知らないだけよ。リンリンも何かといえば桃ジュースって言うのよ」
「あら~、だって桃ジュースは美味しいもの~」
キララ~ンと母の肩のところに姿を現したリンリン。母の使い魔で精霊だ。ミミよりずっとお姉さんらしい。
それでも、ミミの方が能力は上だという。そうは見えないんだけど。