119ー早く過ぎる
アコレーシアは、俺から1本のフリージアの花を受け取って恥ずかしそうに言った。
「らう、ありがと。うれしいわ」
「ほんと? いやじゃない?」
「いやじゃないわ。いっしょにごほんよむ?」
「うん、あこちゃん」
やった。少しほっぺをピンク色に染めながら、嬉しそうにしてくれた。しかも、一緒にご本だって。えへへ、やったね。
「まあ、ふふふ。じゃあ、おやつを用意するわね」
俺は応接室に案内された。アコレーシアが本を持ってくるのを待つ。
まだドキドキしている、手に汗握るぜ。じっと座っていられないくらいだ。お膝の上にギュッと握った手を置いてそれをじっと見る。
「坊ちゃま、良かったですね」
「うん、ふく」
「お優しそうなお嬢様ですね」
「さいらす、しょうおもう?」
「はい」
「みみは、ももじゅーしゅがいいみゃ」
あ、しまった。ミミを忘れていた。今日は言い聞かせてないじゃないか。よく今まで喋らなかったな。
「みみ、しゃべったら、らめらよ」
「みゃ? しょうみゃ?」
「しょうしょう。いえをでたら、しゃべったららめ」
「わかったみゃ。けろ、ももじゅーしゅはほしいみゃ」
「きいてあげるから、しゃべらないれね」
「しかたないみゃ。ぴよ」
なにが、ぴよだ。とっても太々しい態度に出られてしまった。俺はいっぱいいっぱいで、ミミにまで気が回らなかった。
まあ、アコレーシアにはバレても良いんだけど。でもまだしばらくは秘密だ。
「おまたしぇ。らう、このごほんを、いまよんでいるの」
「どれ? なんのごほんなの?」
アコレーシアが持ってきたのは、いわゆる絵本だ。前世にあったような可愛らしいものではないのだけど、この世界では子供用に絵を多く描いてある本が少しだけある。そんな本を持っているのは貴族だけなのだけど。
ご本を持ってきて、俺が座っている隣にストンと座るアコレーシア。今日も隣に座ってくれる。そして一冊の本を二人一緒に見る。ふふふ、それがとっても嬉しい。
アコレーシアが喋っている、動いている、俺の隣に座ってくれた。そんな些細なことがとっても嬉しくて大切で、涙が出そうになってしまう。
前の時は守れなくてごめん。帰って来られなくてごめん。辛い思いをさせたかも知れない、ごめん。そんな気持ちが溢れてくるんだ。
「らう、ろうしたの?」
「ううん、なんれもないよ。いっしょによもう」
「うん」
このままずっと一緒にいたい。でも、幸せな時間は無情にも早く過ぎるんだ。
「ラウ君、そろそろ帰らないとお母様が心配しておられるわ」
「あ、あい。しょうれすね」
仕方ない。俺はソファーから腰を上げた。
「あこちゃん、またあしたね」
「ええ、ラウ。まってるわ」
「うん」
俺は小さな手を、アコレーシアにフリフリとした。アコレーシアも振り返してくれる。
ね、聞いた? 聞いたかな? 「まってるわ」だって!
俺が行くのを待っていてくれるんだって。うひょひょひょ!
「らうみぃ、きもちわるいみゃ」
「みみ、まらおうちじゃないから、しゃべったららめらよ」
「しょうらったみゃ。ぴよ」
またピヨだよ。すっごい態とらしい。
本当に俺は浮かれていたんだ。おフクとサイラスが一緒だから、安心していたのもある。
俺達が家の門の前に着いた時だ。建物の陰からドサッという音がした。
「ラウ坊ちゃん、そのままお邸に入ってください」
「さいらす、いまのなに?」
「私が見てきます。フクさん、坊ちゃんを」
「はい!」
俺をヒョイと抱き上げたおフクは、ダッシュで邸に入って行った。
「ラウ! フク! どうした!?」
玄関の前に父がいた。母もだ。もしかして二人揃って、俺が帰って来るのを待っていたのか?
「旦那様! サイラスさんが!」
「何!? フクはラウを連れて中に入るんだ! アリシアも中へ!」
俺達にそう指示すると、父は門の外へと走って行った。
「殿下! 殿下も中に入っていてください! 俺が行きます!」
父の後を、アンジーさんが追う。だけど父はそんなの聞いちゃいない。もう門の外に出ている。
そこにサイラスさんが、男を一人担いで戻ってきた。大人の男を軽々と肩に担いでいるんだ。どんな力なんだよ。
後ろで一つに結んだストレートの長い黒髪を靡かせながら、執事服に枠のない眼鏡。肩に男を担いでなかったら、どう見ても有能そうな執事さんだ。白い手袋をした手でクイッと眼鏡を上げたりなんかして、男を担いでいるというのに余裕だ。
「そこのお邸の陰に倒れていました。一体何なのでしょう? 多分坊ちゃんを付けていたのだと思うのですが」
どうして倒れていたのか? 不思議だな~なんて思っていると、眼の端を小さな黒い物がピューッと過った。え……!? あれって……バットだよな? 何してんだ?
『ラウの後を付けていたのれしゅ!』
あ、バットの念話だ。俺の後を付けていただって? それがどうして倒れていたんだ?
『倒したのれしゅ!』
え……!? バットが倒したのかな?
『そうなのれしゅ! 怪しい奴なのれしゅ!』
マ、マジかよ!? バットってそんなこともできんの!?
『だからバットは強いのれしゅ!』
お、おう。バットの話だと、頭についている小さな角からビビビーッと衝撃波を飛ばしたらしい。それも『ちょ~っとだけ飛ばしたのれしゅ』なんて言っていた。
お読みいただき有難うございます!
今日で119話です。ここにきて、実はの事実を。
実はラウのお話は某ネト◯ン様向けに急遽考えたものなのです。
あまり…いえ、全く先を考えていませんッ!(開き直っている^^;)
書き溜めもありませんッ!(ヤケクソになっている^^;)
魔王の顔面に転移する事だけは決めていたので、そこに向かって書いてきたのです。が、もうそれも終わり。さて、どうしようかと(・・;)
これから考えまっす!
こんなラウを応援して頂き、毎日感想を頂き、本当に感謝しております。有難うございます!
励みに頑張りますよ〜!
宜しければ、是非ブクマや評価をして頂けると嬉しいです!
宜しくお願いします。
ボクは光の国の転生皇子さま!を書く時、最初に決めていたのはラストでした。あのラスト目指して書いていました。
10歳から一気に話が飛んだので、ラストまでの間のリリも読みたいとご意見を頂いた事もあります。
今後、発売記念SS等で学生のリリとかも書けたらなぁと思います。
5巻発売中です!宜しくお願いします!