114ーフリージア
いつも通り朝ごはんを食べて、お庭を散歩していた時だ。
「あら、ラウ坊ちゃま。奥様がお呼びみたいですよ」
「え、しょう?」
お邸を振り返ると、メイドさんがペコリと頭を下げた。母が呼んでいると伝えに来たのだろう。
なんだろう? また精霊界に行っていたこととか聞かれるのかな? なんて、俺は少し覚悟して母が呼んでいるという部屋に向かったんだ。
「まあ、ラウったら何を着ても可愛いわ!」
手を胸の前で会わせて、ニコニコご満悦な母だ。俺は明日出掛ける時に来ていく服選びで、着せ替え人形状態になっている。何を聞かれるのだろうと、ビクビクしていたのに。
「かあしゃま、なんれもいいれしゅ」
「あら、そんなことを言っては駄目よ。あちらのご令嬢に失礼だわ」
「しょうれしゅか?」
「そうよ。ちゃんと準備して行かなきゃ」
準備か……そういえば、前の時にアコレーシアが好きな花があった。それを持って行こうかな。今も好きなのかな?
「かあしゃま、おはなもっていきましゅ」
「まあ! それは良いわね! お庭で見繕いましょうか?」
「あい」
それにしても、俺のお出掛け用の服だ。どれもみなフリフリ仕様だ。これってどうにかならないのか?
特に首元の、ネクタイの代わりのふんわりとしたおリボン。こんなフリフリ邪魔なんだ。食べる時にも気を使う。
「ラウ、次はこっちのを着てみましょうね。フク、お願い」
「はい、奥様」
まただ。これで何着めだ? おフクが俺をまた着替えさせる。どれも似たようなものなのに。
「坊ちゃま、これもお似合いですね」
「なんれもいいよ」
「あらあら、飽きてしまいましたか?」
「うん、もうおしょとにいきたい」
「お花ですか?」
「しょう。みたいのがあるんら」
「あら、もう何のお花を持っていくか決めているのですか?」
「うん。しゃいてたらね」
「ふふふ、楽しみですね。きっと喜ばれますよ」
「しょうらといいけろ」
この後、何着か着替えて結局決まらなかった。明日まで母が考えるらしい。本当、どれでも良いぞ。
その母と一緒に庭に出てきている。アコレーシアが好きだった花。
小さな花だけど色んな色があって、淡い色合いが可愛らしい花だ。フリージア、この季節にあるのかな?
なかったら似た感じの花をチョイスするか。そんなことを考えながら母と庭を歩く。
「どんな花が良いかしらね」
「しょんなにおっきくなくて」
「あら、もしかしてもう決めているの?」
「あい」
えっとぉ……俺は庭の花壇を見る。色取り取りの花が咲いている。そこをパタパタと飛ぶ白い奴がいた。ミミだ。
「みみ、なにやってんの?」
「ももじゅーしゅもらうのは、あっちなのみゃ」
いつも花壇の向こうにある四阿で、桃ジュースを貰うからそこに行こうとしているんだな。本当、桃ジュース一筋だ。
「みみ、いまは、ももじゅーしゅじゃないよ」
「みゃ!? しょうなのみゃ!?」
パタパタと俺の肩に飛んできた。止まった途端に文句を言っている。
「ろうしてみゃ!? ももじゅーしゅじゃないみゃ!?」
「いまはおはなを、しゃがしてるの」
「みゃ? みみは、おはなはたべられないみゃ?」
何を言っているんだ。食い気かよ。
「あしたもっていくの」
「あした、ろこいくみゃ?」
「ミミはまた鳥さんの振りをしておくのよ。喋ったら駄目よ」
「また、おしろみゃ? めんろうみゃ」
「ちがうよ。およばれしてるの」
「およばれみゃ? ももじゅーしゅはあるみゃ?」
「ふふふ、きっとあるわよ」
「みゃみゃみゃ! しょうみゃ! たのしみみゃ!」
結局、桃ジュースがあれば何でも良いんだ。ミミってそういう奴だ。
「だからミミ。桃ジュースより、喋ったら駄目だってちゃんと覚えてちょうだいね」
「わかったみゃ! まかしぇるみゃ! もうなれっこみゃ!」
何度か城に行っているからだろう。また、ピヨって言っておくんだぞ。
「わかってるみゃ。しちゅこいみゃ」
「ミミ、なんですって?」
「みゃみゃみゃ! なんれもないみゃ。おぼえておくみゃ」
「そうね、絶対に喋ったら駄目よ」
「じぇったいみゃ!?」
「そう、絶対なの」
「きんちょうしゅるみゃ」
嘘つけ。ミミは緊張なんて関係ないだろう。
「また、しちゅれいなことを、おもってるみゃ」
「しょんなことないよ」
「しょうみゃ?」
「しょうしょう」
四阿近くまできてみた。ちょっと見渡してみる。俺ってあんまり知らないからなぁ。
「かあしゃま、ちいしゃくて、いろんないろのおはなはありましゅか?」
「小さいの?」
「あい」
「そうね……あの辺りかしら?」
母が指した方を見ると、咲いていた。ちょうど良い感じに咲いている。満開ではなく、少し蕾が残る程度だ。これって明日持って行くのにちょうど良いんじゃないか?
トコトコとそばに行って見る。この花だ。アコレーシアが前の時に好きだった花、フリージア。
どうしてこの花が好きなのかは忘れちゃったけど。いつも俺は花と言えばフリージアを持って行っていた。だから花に詳しくない俺でも覚えている。
「かあしゃま、これにしましゅ」
「あら、フリージアね。良いわね」
「あい、かわいいれしゅ」
「ふふふ、そうね。じゃあこれで小さな花束を作ってもらいましょうね」
「あい」
喜んでくれると良いのだけど。