113ー理由がね
だって父と母はラブラブだもの。俺が見てもそう思う。未だに父が任務に出る時は堂々と、俺の目の前でハグをしているからな。
「あらあら、ふふふ」
「私の分からない話をするのではない」
あ、また拗ねている。この魔王はちょっぴり面倒だ。
「まおうはきっととうしゃまと、きがあうとおもうんら」
「私とラウの父上がか?」
「しょう」
「そうか! 私と気が合うか!」
もう復活した。どうしてそれだけで復活できるのか理解できない。何が復活ポイントなのかも分からないぞ。俺の父と気が合うと嬉しいのか?
だけど父と会うのにも、理由付けが必要になってしまう。俺がどうして魔王と知り合いなのかだ。
「精霊女王の世界で会ったと言えば良いだろう?」
「あら~、それは無理があるわ~」
「しょうらよね」
だって精霊女王と魔王だぞ。どう考えても正反対の存在だろう? 正義と悪って感じだ。
「何? それは聞き捨てならんぞ。私は悪ではない」
「らってまじょくって、ひとのくにといくしゃしてたもの」
「それは前の時だろう? しかも人の国が戦を仕掛けたと言っていただろう」
「しょうらけろ」
「なら魔族は悪くないではないか」
「らって、しょのあと」
そのままの勢いで、隣国である俺の住んでる国に攻めてきたんだ。そこはどうなんだ?
「まあ、勢いがついたのと、ムカついていたのだろうな」
「ほらぁ」
関係ない国にまで攻め込んだんだ。それって俺達にとっては充分悪だ。その戦に駆り出されて俺は殺されたんだから。
「ラウ、問題をごっちゃにするでない。ラウのことは、戦を利用したに過ぎない」
まあ、そうなんだけど。でも、その戦がなければと思うだろう?
「戦がなくても、何か手を変えて仕掛けてきただろう。そういう奴はどこにでもいる」
「あー、しょうかな?」
「そうだ」
その時、精霊女王からとっても不穏な空気が漂ってきた。ふと見てみると、怖い顔をしている。怒っているような、遣り切れないような、複雑な表情だ。
「私は許さないわ。あの時ラウは、自分の全てを掛けて国を守ったのよ。しかも囮にされたのにも関わらずよ。なのに……あれは許されないわ」
「しぇいれいじょうおう……」
精霊女王は怒ってくれているんだ。俺はもう怒るなんて感情もなかった。とにかくあの結末を変えようと、それだけを考えていた。精霊女王はちゃんと怒ってくれているんだ。
「ありがと」
「ラウ! なんて良い子なのかしら! さすが私の愛し子だわ!」
パアーッと表情か変わったかと思ったら、俺は精霊女王に抱きしめられていた。
「あんなことにはしないわ! 私も協力する! もうあいつらに、あの時のジョブは与えていないもの!」
「みゃみゃみゃ! しぇいれいじょうおう! じゅっとらうみぃに、くっちゅいていたら、らめみゃ!」
「あら、そうだったわ」
そう言ってパッと離れた。え? くっついていたら駄目なのか?
「ふふふ、私の魔力が強すぎるのよ。人のラウに影響が出ちゃうわ」
「え、こわこわ」
「あら、怖くないわよ」
「私はくっついても平気だぞ!」
今度は魔王が抱きしめてきた。魔王なのに、なんだか爽やかな香りがするのは何故だ? 超イケメンは匂いも良いのか?
「ラウ、何を言っている。私は普通だ。何度も私に抱きついているだろう?」
「え? しょんなことないよ」
「あるだろう? ラウが転移して来る時はいつもだ」
「あー、お顔にね」
「アハハハ! 初めての時は本当に驚いた!」
そうだった。俺っていつも転移する場所は魔王の顔面だった。初めて転移した時もそうだった。おまけにお漏らししちゃっていたし。今となっては笑える思い出だ。
「とにかく魔王と会っていることが、不自然じゃないような理由を考えましょう。それからよ。慌てたなくてもいいわ」
「しょうらね」
「おう、楽しみにしておこう」
精霊女王と乱入してきた魔王と、楽しく過ごして俺は戻された。そのまま朝までぐっすりだ。もちろんミミは爆睡だ。
「坊ちゃま、そろそろ起きましょう」
おフクに声を掛けられて、やっと目を覚ました。
「ふく、おはよう」
「はい、おはようございます。よく眠れたみたいですね」
「うん、めっちゃねた」
「ふふふ、そうですか。着替えましょうね」
「うん」
と、この時点ではまだミミは寝ている。俺が着替えて、さあ朝食を食べに行くぞという直前まで寝ている。しかも、おフクに揺り起こされてやっと起きる。
「みゃ、ももじゅーしゅみゃ?」
寝起き一発目の言葉がこれだ。寝るか桃ジュースしかないのか? と、ふとその時バルコニーに出る大きな窓が視界に入った。よく見るとバルコニーの屋根から、小さな黒いものがぶら下がっている。
バットだ。こんなところにいたのか。俺はてっきり木の下にいると思っていた。
『それはイメージなのです』
お、直接頭に話し掛けてきた。これは時々ミミとも使う念話だな。
しかも俺が思っていることを読んでいる。小さくても能力は高いらしい。
『ばっと、おはよう。きょうはじゅっと、しょこにいるの?』
『ラウについて移動するのれす』
あー、それは魔王に言われているからだな。トイレとお風呂は付いてくるんじゃないぞ。
『分かっているのれす!』
本当かよ、怪しいな。