112ー魔王だから
「みゃみゃみゃ! なにいうみゃ! なんれいるみゃ!」
「まおうが、きたんら」
「しぇいれいじょうおうの、しぇかいなのにみゃ?」
「しょうしょう」
「みみ、私が来たら悪いのか?」
「らって、まおうみゃ」
「おう、魔王だぞ」
「しぇいれいとは、ちがうみゃ」
「こいつは何を言っている?」
呆れた顔をして、ミミを指さしている魔王。魔王より今はミミの方が大きいのだけど、態度は断然魔王の方がデカイ。
「ふふふ、別世界の魔王がと言いたいのよ」
「なるほど。だが、私はここに来るのは初めてではないぞ」
「みゃ!? しょうなのみゃ!?」
ああ、確か俺が暫く行かないから、精霊女王と連絡を取ったと言っていたか。その時にでも来たのだろう。しかし、どうやってここが分かったんだ?
「それは私が魔王だからなッ!」
全然分からない。こいつもミミと同じなのか? 言いたいことが分からないぞ。
「ミミと一緒にするでないッ」
「みゃ!? しちゅれいみゃ!」
どっちもどっちだよ。俺の周りってこんなのばっかなのか? 父も少し同じ匂いがすると思ってしまったのは、気の所為だと思いたい。
そんなことよりも相談があるんだ。俺の両親も精霊界に連れて行って良いかな? なんなら魔王は父と会ってみて欲しいんだけど。
「ああ、昼間にみんなで話していたわね」
「しょうしょう。バレちゃったから」
「何? バレたのか? 私の城へ来ていることをか?」
「ちがうの。しぇいれいかいにいってるって、ことになってるの」
「そうか」
なんだか複雑そうな顔をする魔王。どうした? ちょっぴり残念そうに見えるのは気の所為かな?
その魔王が戸惑いながら聞いてきた。ちょっぴりモジモジしている。魔王なのに、こんなところが憎めない。
「いや、私はラウと友達だよな?」
「うん、おともらちらよ」
「だなッ! ふふふん」
え、そこでどうして胸を張る? 満足そうな顔をするんだ? さっきの残念そうだったのはどこいった?
「友達なのに隠されるというのもな。いや、仲が良いと言って欲しいわけではないのだぞッ!」
だからそこで、意味不明なツンデレを発動するのはやめてくれ。理解できないぞ。
「ふふふ、自分を秘密にされているのが嫌なのね。私は秘密なんかじゃないから」
どう? 私は家族みんなに知られているもの。使い魔だって出しているし、頼りにされているのよ。みたいな勝ち誇った表情で、魔王を見ている精霊女王。そこでどうして対抗意識を燃やすんだ。意味が分からない。
「そ、そ、そんなことはないぞ。友達と言ってほしいとか、思ってないんだからなッ」
もう言ってしまってるじゃないか。そんなことを思っていたのか?
だって、魔王に会いに行った理由を話したくないんだ。
「ああ、ラウの前の時を話したくないのだな」
「しょうしょう。しゅごいね」
「なにがだ?」
「しょれらけれ、わかるなんて、しゃしゅが、まおうらね。しゅごいね」
「ふふふん、私は魔王でラウの親友だからなッ! ラウの事情はちゃんと理解しているのだ」
友達から親友にランクアップしてしまっているぞ。いつから親友になった? 俺は両足を投げ出して座ったままで、魔王を見上げた。
それにしても、ちょろい。チョロ松さんだ。
「なに? 違うのか……?」
悲しそうな顔をするんじゃないよ。縋る様な眼でこっちを見るんじゃない。
羽織っているマントの裾を手で弄っている。魔王って慣れてくると印象が変わるよね。可愛らしいと思ってしまう。
「しんゆうらね」
「な、そうだなッ!」
パアッと表情を明るくして笑った。な、こんなところが可愛らしい。
「まあ、ふふふ」
「精霊女王、何を笑っているのだ?」
「魔王なのに、ラウには敵わないのね」
「そうではない! そうではないのだ! ただラウが可愛いのだッ!」
はいはい、有難う。俺は恵まれているよ。精霊女王だけじゃなく、魔王ともこんな関係になれるなんてな。前の時だと考えられない。
俺達の国を攻めてきた魔族の王、単純に敵の大将だと思っていた。当然だ、接点なんて何もなかったのだから。
「私は戦は好まない。あれは失うものが多すぎる。なのに得るものは何もない」
「そうね、その通りだわ」
精霊界の長と、魔族の長がこうして同じ考えでいてくれると安心だ。
その戦を起こさないために、色々やっているんだ。
「ラウの父上とは、どんな人物なんだ?」
「とっても、あちゅいひとらよ」
「熱いのか?」
「そうね、外ではクールで通しているみたいだけど、本当は愛情深い温かい人ね」
精霊女王は会ったことがないだろう? ああそうか、いつも見ているからか。
「一瞬だけど、会ったのよ。あの時よ」
あの時って、母が無理矢理父を助け出した時だ。デオレグーノ神王国に父が捕らわれてしまって、救い出すために母が精霊女王の力を借りた。
「向こうは覚えてないけれど」
「え、しょうなの?」
「そうよ。アリシア以外の者の、私に関する記憶は消しているもの」
ひょえーッ! 記憶を消すだと。そんな怖いことができるのか? 怖いねー、怖い怖い。
「あら、それが決まりなのよ。私は本当は関与しないのだもの」
「とくべちゅなの?」
「そうね、あの時はアリシアの気持ちに負けちゃったの。とっても特別なのよ」
それだけ母は何をしても、父を救い出したかったんだ。