109ーいつも見ている
母が疑いの眼をしているから、一応言っておこう。
「かあしゃま、しょんなことないれしゅ」
「はいはい、そういうことにしておいてあげましょう。でも約束してちょうだい」
「あい、なんれしゅか?」
「黙って精霊界に行かないこと。危ないことは絶対にしないこと。分かった?」
「あい」
ヒョイと手を上げる。精霊界に行っていることにできるなら、堂々とできる。その後、まさか魔王と会ってるなんて言えないけど。
でも魔王も良い奴なんだ。ちょっとツンデレさんだけど。父と仲良くできたら良いなと思ったりして。
「らうみぃ、しょうなのみゃ?」
「うん、しょうらね」
その話は後でな。今ここで話すとミミは喋ったらいけないことまで言いそうだから。
「あら、ラウ。私も分かっているわよ~」
「え……」
「もちろん、俺もだぞッ」
「えー、しょうなの?」
「もう、貴方達、何なの?」
「ふふふ、きっと精霊女王は今も見ているわねって話よ~」
「あら、なんだか無理矢理だわ」
「そうかしら~?」
母は鋭いからな。それも踏まえて作戦を考えないと。また精霊女王と相談だ。
「こんろ、しぇいれいじょうおうにしょうだんしましゅ」
「そうね、一度相談してみましょうか。私もまたあの世界に行くのね」
「あい」
前の時にも、母は精霊界に行っていたのだろうか? 父が拉致されて助け出したなんて聞いたことがないけど。もしかして、もうそこから違っていたりするのかな?
そうだとしても、俺はもっと変えるぞ。あの最悪の結末を変えるんだ。
両親やこの家の者、そして婚約者も守ってみせる。
ああ、それで思い出したぞ。俺にとっては大切なことがあった。
「かあしゃま、おでかけはいちゅれしゅか?」
「あら、お出掛け? ああ、そうだったわね」
もしかして、母は忘れていたとか言う?
「だって今日はラウがいなくなったと思って、もう心臓が止まりそうだったのよ」
「あー、ごめんなしゃい」
「ふふふ、お出掛けはね明後日ね」
な、な、なんですと!? ちょっと待って、もっと先だと思っていた。俺、心の準備ができていないぞ。3歳のアコはどれだけ可愛いだろうと、想像できていないし。
「らうみぃ、なにいってるみゃ?」
「みみ、いろいろおもうの」
「しょんなことより、みみはももじゅーしゅがのみたいみゃ」
とうとう我慢できなくなったか。出たよ、ミミの桃ジュース攻撃が。
「フク、この子達に桃ジュースをあげてちょうだい」
「はい、奥様」
それを聞いた、ミミ、リンリン、フェンが一斉にピューッとおフクの元に移動した。
速いね。やっぱみんな好きなんだ。精霊はみんな大好き、桃ジュース。
「ふく、ぼくもじゅーしゅちょうらい」
「はいはい、お待ちくださいね」
俺もお喉が渇いたぞ。他の皆には、コニスとアンジーさんがお茶を用意している。
「ふう……それにしても驚いた。まさかラウまで精霊界に行っていたなんて」
「本当ですわね」
「さすが、アリシアの子だ」
「あら、貴方の子でもありますわよ」
「ああ。私達の大事な子だ」
「ええ」
俺も父と母が大事だよ。こんなに可愛がってくれていたなんて、前の時は全然気付かなかった。だからちょっと冷たい態度だったけどごめんね。
「かあしゃま、とうしゃま、ぼくもらいじれしゅよ」
「あら、ラウったら」
「ラウゥーッ! アリシアァー!」
ほら、熱血漢な父だ。太陽に向かって海辺を走るか? 外では『氷霧公爵』なんて呼ばれているのに、家ではとっても熱い。俺や母を愛していると身体全部で伝えてくれる。こんな父も大好きだ。
「とうしゃま、ぼくもとうしゃまらいしゅきれしゅ」
「ラ、ラ、ラウーッ!」
これはいかん。父が号泣してしまいそうな勢いだ。
「ラウ、それを言う時は少し考えないといけないわね」
「かんがえるのれしゅか?」
「そうなのよ、時と場所を考えるの」
「あー」
アハハハ、母は父の性格をよく理解している。でもさ。
「かあしゃまも、らいしゅきれしゅよ」
「ラ、ラ、ラウッ!」
おいおい、父と全く同じ反応をしているじゃないか。流石、夫婦だ。
「ラウ坊ちゃま、奥様に仰る時も考えないといけませんね」
「ふく、しょうみたいらね」
俺は両親に前からと後ろから抱きしめられて身動きができない。しかも、ジュースのコップを持ったまんまだ。溢しちゃうぞ。
「ラウ、今度精霊女王からコンタクトがあったら、私にも知らせてくれるかしら?」
「あい」
まあ、きっとこれも精霊界で見ていると思うぞ。なんなら、今出て来てくれても……いやいや、精霊女王には口止めしておく事があるから今は駄目だ。また今度だ。
これもきっと読んでいるのだろう? 精霊女王。
『あら、ラウったらお利口さんじゃない』
突然俺の頭の中に、精霊女王の声が響いた。頭の中に直接響いてくる。なんだかとっても不思議な感じだ。
「あー……」
「ラウ?」
「あ、なんれもないれしゅ」
おっと、普通に喋るところだった。精霊女王、見ていたのだろう? また近いうちにミーティングだ。秘密にしてもらうことと話を合わせてもらうことを、ちゃんと打ち合わせしておかないと。
『はいはい、分かったわよ』
精霊女王って本当にいつも見ているんだな。ちょっと気をつけよう。あんなことや、こんなことをね。