108ー敵国確定
「精霊女王はラウが可愛くて仕方ないのね」
「ぼく、とくべちゅなことは、してないれしゅ」
「あら、そうかしら? 0歳から色々やっていると思うわよ」
「え?」
そうか? 普通のちびっ子だぞ。最近なんてとってもお利口なちびっ子だ。
「ラウ、0歳で転移できる者などこの世にはいない」
この世と言われてしまった。それはさ、必要だったんだ。魔王に会いに行きたかったから。それは秘密なんだけど。
だからミミと練習したんだ。その成果なのだぞ。
「見ているのなら出てくれば良いのよ」
母が投げやりに言った。あれ? 母って精霊女王と仲良しなんじゃないのか? だって、エレメンタラーなのに。
「仲良しではないわね」
「えー」
「ふふふ、アリシアも譲らないところがあるからよ~」
「あら、リンリン。だって理の違う世界で生きているのよ。相容れないところがあって当然だわ」
「そうね~」
でもこうして使い魔を出してくれているんだ。それなりに関係は良好なのだろう?
「と、いうか……そうね、敢えて例えるなら戦友かしら?」
戦友? いったい何と戦っているんだ? 俺には意味が分からない。
「旦那様を助ける時にね、ちょっとね~」
「リンリン、余計なことを言わなくて良いのよ」
「あら、はいはい」
なんだ? 父を助け出した時のことが関係あるのか。まあ、いいや。後で精霊女王に聞いてみようっと。
「ラウ、聞かなくてもいいのよ」
「えー、らってかあしゃま。きになりましゅ」
「そうッスよね」
「うん」
「もう、貴方達ったら……」
渋りながら、母が教えてくれた。詳しくは教えてくれなかったのだけど、精霊女王がこの世界に関与することはないのだそうだ。それを父を助け出したいからと、協力を仰いだ。
思い切り、この世界に関与している。だから、その時に一悶着あったらしい。
「それからよ、仲が悪い訳ではないのよ。ちょっと、ぎこちないというか……ね」
ね、じゃない。精霊女王は母の願いを聞いてくれたのだろう? なら、一悶着の内容は知らないけど感謝しないといけない。
そのお陰で父はこうして元気にここにいるのだから。
「かあしゃま、なかよくしましょう」
「ええ、そうね。ラウ。精霊女王のお陰ですものね」
「しょうれしゅ。れないと、ぼくがうまれてないれしゅ」
「ラウゥーッ!」
ずっと俺の前でしゃがんで話を聞いていた父が、また俺に抱きついてきた。
はいはい、とっても熱い父だ。
「ラウが生まれてないなんて言うんじゃないぃッ!」
ええー……そこなのか? ちょっと呆れてしまうぞ。いや、そんなことを言っては駄目だ。俺を愛してくれているんだから。
「とうしゃま、らいじょぶれしゅよ」
「ああ、ラウ」
俺は今回やり直すチャンスをもらって本当に感謝している。
父と母との関係が前とは全く違う。俺の気持ちもだ。こんな両親がとっても好きだと思えるんだ。
「ふふふ、とうしゃま、かあしゃま」
俺は眼の前の父と隣にいる母の手を握った。まだ俺の手は小さい。けど、俺が守るよ。頑張るよ、きっと。
「いっしょにいきましょう。しぇいれいじょうおうに、あいにいきましょう」
「そうね、ちゃんと有難うといわなきゃいけないわね」
「あい」
「アリシアァ! ラウゥ!」
それにしても、父は強いはずだ。その父を拘束した国ってどこの国なんだ?
今後、俺の要注意リストに入れておかないと。
「とうしゃまがちゅかまったのは、どのくにれしゅか?」
「ラウ、それを聞くのか?」
「え、らめれしゅか?」
「ふふふ、あなた」
「うむ……仕方ない。あの国だ」
「れしゅから、あのくにって……え? ましゃか」
「デオレグーノ神王国だ」
マジかよー!? あの国なのかよ! あの国、碌な事をしないな!
もう完璧に俺の中では敵国確定だぞ。俺もあの国には言いたいことがあるんだ。あの国が魔族に戦を仕掛けた所為で、俺はあんなことになったんだからな。
マジ、とんでもない国だ。全然関係のない俺達を巻き込むんじゃない。
決りだ。ぜってーに行ってやる。あの国の王に会ってやるぞ。と、俺は決意を新たにした。
その決意の証に思わず拳を掲げてしまった。
「ラウ、また何か考えているのね?」
「えっちょぉ……」
「ラウ、その手は何だ?」
「え、えっちょぉ……」
掲げた手をそっと下ろす。何をやっているんだ。どうしてここで手なんか上げるかなぁ。ついやっちゃったんだけど。
「なんれもないれしゅ」
全く言い訳が思いつかなかった。
「何でもないことはないだろう? 何を考えているんだ?」
「なんれもないれしゅ」
これで通すしかない。まさかデオレグーノ神王国に行って、王に直談判するつもりだなんて言えない。その理由が、まだ起こっていない戦なのだから。
そう、起こっていないんだ。だからデオレグーノ神王国の王に話すのも、何をどう話すか考えものだ。俺は腕を組みながら、額にピトッを手を当てた。
「今度は何なの、ラウ?」
おっと、しまった。俺の考える時のポーズを思わずしてしまった。これはいかん。この癖も治さないとな。
「えっちょぉ……ろうやって、しぇいれいじょうおうにいおうかなって」
「本当かしら? そうは思えないけど」
きっと母は何か勘付いている。