106ーちょくちょくね
「本当に異例だったのよ。なのに、ラウ」
「あい」
父と母にジトッと見られてしまった。
「ラウ、今日お昼寝の時にどこに行っていたのか話してちょうだい」
え……俺が話すのか? この舌足らずな喋りでか?
父と母は変わらずジトッと俺を見ている。部屋の隅に控えているおフクまで俺を見ている。仕方ない。
「みみといっしょに、しぇいれいじょうおうに、あいにいってました」
俺の言葉で皆理解できたらしい。アンジーさんがあんぐりと口を開いて驚いている。母の侍女コニスはピクッと頬が動いた。
「ラウ、いつからだ?」
「えっちょ……」
「ラウ、もう誤魔化せないわよ」
「あい、かあしゃま」
二人共、とっても眼が怖い。誤魔化そうとしているのではないのだけど、やっぱ怒られちゃうかな~なんて思って。
「えっちょ、じぇろしゃいかられしゅ」
俺がそう言った途端に、父と母が顔を見合わせ息をのんだ。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。ラウ坊ちゃん、本当ッスか? 本当に0歳の時から精霊女王に会ってるんッスか!?」
「うん、ちょくちょく」
「ちょくちょくッスか!?」
アンジーさんが信じられないと、眼を白黒させている。
「ラウ、ちょくちょくなのか?」
「あい」
そう、ちょくちょく精霊女王に精霊界に連れてってもらって魔王に会っていた。魔王に会っているのは内緒だけど。精霊女王に、上手く話を合わせてもらわないといけない。
どうしよう、先に精霊女王にコンタクトを取らないと。
「ラウ、精霊界に行っていたのね?」
「あい」
「精霊界なんて本当にあるんッスか!?」
「アンジー、煩いぞ」
「だって殿下! そんなのおとぎ話なんじゃないんッスか!?」
あるんだよ、アンジーさん。君も今度一緒に行くか? なんてな。
「ラウ、何をのんびりしている。これは大変なことなのだぞ」
父が言うには、今まで精霊界に行ったことがあるのは母だけらしい……母だけ。
「え……」
「そうだ」
「そうなのよ」
この国の建国以来の史実を紐解いても、精霊界に行った者がいたという事実はない。それどころか、精霊界自体を確認できていない。その精霊界に初めて行ったのが、母だった。
そんなことは全く知らない俺は、0歳の時からホイホイと精霊界に行っていた。
しかも、精霊界を経由すると便利だよね~なんて安易な考えでだ。
「ラウ、精霊界に行って何をしていたの?」
「しぇいれいじょうおうと、お話しして、みみがぴーちりんたべて」
「まさか、ピーチリンだと!?」
「あい。ぴかぴかなきになってる、おおきなもも」
「いやいや、ラウ。待て。まさかラウは食べていないだろうな?」
「あい、しぇいれいじょうおうに、たべたららめっていわれて」
「そうか……ふぅ~、良かった」
「ええ、冷や汗が出ましたわ」
え? どうしてだ? ピーチリンを食べたら不死身になっちゃうらしいぞ。
一口くらいだったら、寿命が延びちゃうかもな。
「ラウ、私達が食べてどうなるのか分からないのよ。もしラウに何かあったら」
「かあしゃま、じゅみょうがのびるってききました」
「あら、そうなの?」
「あい。けろ、どれらけのびるか、わからないから、たべたららめらって」
「ふふふ、そうね。ラウは食べない方が良いわ~。とっても美味しいのだけど~」
ほら、リンリンも言っているだろう。とっても美味しいらしいんだ。だからちょっと興味がある。
「ラウ、駄目なのよ~」
「うん、リンリン。わかってる」
「ちょ、ちょっと待ってください。ラウ坊ちゃん、リンリンと話せるんッスか!?」
え? アンジーさんは何を言っているんだ? 普通にリンリンは喋っているじゃないか。
「俺達にはリンリンが何を言っているのか、全然理解できないんですよ。頭に入ってこないんッス。コニスは奥様の侍女だから分かるようにしてもらってるんです。俺も分かるのは、殿下の使い魔のフェンだけッス」
「え? しょうなの? ぼくじぇろしゃいからわかってたよ?」
「ええッ!?」
あれ? みんな分かるんだと思っていたから、普通にリンリンやフェンと喋っていたぞ。今更じゃないか?
「アリシア、どういうことだろうか?」
「実は、ラウは精霊女王の愛し子なのよ。だから精霊の言葉が分かるの。コニスやアンジーは、分からないと不便だからコニスはリンリンの加護を、アンジーはフェンの加護を与えてもらったの。それで言葉が理解できているのよ」
「ラウは、精霊女王の愛し子だから全精霊の言葉が分かると言うことか?」
「ええ、そうなるわね」
え? そんなの全然知らなかったぞ。そうなのか? 俺って精霊女王の愛し子なのか?
ちょっとまて、じゃあミミはどうなるんだ? みんなミミが喋っていることを分かっているじゃないか。
「ラウ、だからミミは天才なのよ」
「ええー」
本当にミミは天才らしい。この世界に実際に生息している鳥さんの恰好をして、実体を常に見せている。その上、ミミが話すことは誰にでも分かる。そんなことができるのは精霊の中でも数少ないらしい。
「らから、みみはてんしゃいみゃ」
ミミが俺の肩の上で鳩胸を張った。フワッフワでモフモフの胸だ。鳥さんのこの部分の羽はとっても柔らかくてフワフワなんだ。