104ーバレちゃった
「あら、でもこの子をアリシアにどう説明するの? まさか魔王に貰ったなんて言えないでしょう?」
「ぼくは木の下にでもたいきしているのれしゅ。ごようじのあるときに呼んでくれればいいのれしゅ」
「あら、そうなの?」
「はいなのれしゅ。まおーさまからのれんらくも、つたえるのれしゅ」
魔王との連絡要員みたいなもんだ。俺と連絡が取れないのが、もどかしいらしい。
「ぼくはいらないっていったんらよ」
「ぴきぃッ!?」
俺がいらないと言ったら、この世の終わりのような顔をしてブルブルと震え出し涙目になっている。
「い、い、いらないれしゅか!?」
「えっちょ、しょんなことないよ。いてくれたら、べんりら」
「ふゅぅ~、やくに立つなのれしゅ」
すぐに立ち直って、小さな胸を張っている。まあ、ミミみたいにいつも一緒にいるわけじゃないから、大丈夫だろう。
「ふふふ、ラウのお友達が増えたわね」
「ひみちゅが、ふえたんら」
「そうね」
「おなまえが、ほしいのれしゅ!」
「え……」
「だって、しぇいれーも、おなまえがあるのれしゅ! ふこうへいなのれしゅ!」
ああ、俺って名前を考えるのは苦手なんだよ。
とっても期待に満ちたキラキラとした眼で、見つめられている。仕方ない。一層の事、まんまでいくか。でないと覚えられない。
「ばっと」
「バットなのれしゅ!」
蝙蝠を英語でバットというだろう? そのまんまだ。
本人は喜んでいるから、良いだろう。
「ラウ、名前を付ける意味を分かっていないでしょう?」
「え? いみがあるの?」
「そうよ、ほら。見てみなさい。蝙蝠ちゃんが光っちゃったわ」
「あ……」
俺がバットと言って、それを蝙蝠が受け入れた。次の瞬間に蝙蝠の小さな体が光ったんだ。一瞬だけどペカーッとさ。
「きっと少し進化しているわね」
「ええー」
進化ってなんだよ。俺にそんな力はないぞ。
「あるのよ。何しろ大賢者だもの」
「ええぇー」
もう何でも有りだ。大賢者だとまだ鑑定されてないってのに。
「鑑定されていないだけでしょう? ラウにはその能力があるのですもの」
精霊女王とそんな話をしていると、バットと名付けた蝙蝠がパタパタと俺の頭上を、キュルキュルと鳴きながら飛び回っていた。
「体が軽いのれしゅ! すごく速く飛べるのれしゅ!」
おや? なんだか少し喋り方もしっかりしたような気がする。
「だって進化したもの」
「あー……」
とにかく、魔王に連れていけと言われた蝙蝠くん。一応男の子だそうだ。バットと名付けた。
これから魔王と俺の連絡係りをしてくれる。あと夜に限るのだけど、多少の情報収集も頼めばしてくれる。だから連れていけと魔王に言われたんだ。
「ラウと連絡を取るのに、毎回精霊女王の手を煩わせる訳にはいかないだろう?」
と、言われ押し付けられた。わざわざ俺に連絡を取る必要があるのか? て、話なんだけど。それは言わないでおこう。
さて、ミミもピーチリンを食べ終わったみたいだし、帰ってお昼寝の続きをしよう。
「みゃ! もういっこたべたいみゃ!」
「ミミ、また今度にしなさい」
「みゃ~、わかったみゃ」
精霊女王に送ってもらい、俺は自分のベッドに戻る。バットは庭の木の下でお休みだ。蝙蝠だけあって、昼間はお休みらしい。
シュンッとベッドの上に下りた俺とミミ。だけど、なんだか視線をビシバシ感じるぞ。そっちをゆっくりと首を動かして、恐々見てみる。
「ラウ、どこに行っていたのかしら?」
母だ。ああ、バレてしまった。どうして母が部屋にいるんだ?
「フクが見つけたのよ。ラウがいないって大騒ぎだったのよ」
「ラウ坊ちゃま! どこに行ってらしたのですか! フクはもうびっくりして心配で!」
「ごめん、ふく」
サラッとバレちゃった。仕方がない。精霊女王と会っていたことだけを母に話した。
魔王に会いに行ったことはまだ秘密だ。精霊女王とそう相談したから。
「精霊女王なの?」
「うん、しぇいれいかいにいってた」
「ミミとかしら?」
「うん」
そのミミはもう大の字になって爆睡している。こいつ、一瞬で寝たぞ。
魔王城まで頑張って飛んでもらったから、寝かせておいてあげよう。
それにしても、母の眼が怖い。どうしてだ? 母はエレメンタラーだ。精霊女王とも交流がある。
そんなに怖い顔をするほどのことなのか?
「ラウ、精霊界って普通じゃないのよ」
「うん、じぇんじぇんちがうしぇかいらね」
「そこに長時間いたらラウの身体に、どんな影響があるのか分からないでしょう?」
「らいじょぶらよ」
「精霊女王がそう言ったの?」
「ちがうけろ……なんろもいってるから、らいじょぶ」
「何度も行っているの!?」
あ、しまった。これは言ったら駄目だった感じだ。母の顔が余計に怖くなった。
おフクが母の後ろで、ひょえーッと驚いた表情をしている。多分あれは理解できていないと思うぞ。精霊界なんて行けるものなのか? て、感じではないだろうか? いや、精霊界があること自体を知らないか?
「しぇいれいじょうおうが、ちゅれてってくれるの」
「そうでしょうね。ラウの力だけじゃ行けないわ」
「しょうしょう」
そうだ、母だって行ったことがあるんだろう?