103ー魔王のペット
魔王と愉快な会談を終えた俺は、精霊界に戻ってきた。呼び出すほどの用事なんて、何もなかった。だけど『しばらくこなかったな』なんて、言ってもらえると嬉しい。
「ぴーちりん、たべるみゃ! いいみゃ!?」
「うん、いっこらけね。まってるよ」
「みゃみゃみゃ!」
大きな鳥さんに戻っているミミが、バッサバッサと翼を羽搏かせてピーチリンの樹に直行だ。たわわに生っている大ぶりな実を吟味し、一つを嘴で捥ぎそれを突いて食べ出した。
精霊って本当にピーチリンが好きなんだ。リンリンや父の使い魔のフェンも大好物だ。
「で、魔王と会ってきたのでしょう?」
「うん、ひしゃしぶりらっていわれた」
「そうよ、態々私にまで連絡してくるくらいなんだから」
「ねー」
ねー、じゃない。それは画期的なことなんだ。
それまで何千年と交流なんてなかった二つの種族の長が、連絡を取り合うなんてさ。しかも俺のことでだぞ。
「ふふふ、まおうもかわいいね」
「あら、可愛いかしら? ふふふ」
ちょっぴりツンデレさんで、とっても可愛い魔王だ。
見た目は、普通なら引いてしまうような怖さがあるのに性格はあれだもの。
「ねえ、しぇいれいじょうおう。かあしゃまととうしゃまも、ちゅれていけないかな?」
「えッ!?」
精霊女王が大きく眼を見開いて、俺をガン見している。え? そんなに驚くようなことなのか?
ちょぉ~ッとミミに乗って、魔族の国までお邪魔しようっかな~ッてだけなんだけど。
「ラウ、ちょぉ~ッとなんてものじゃないでしょう!?」
「え? しょうなの?」
だって、俺はとっても気軽に訪問しているぞ?
0歳の時から、もう何回行っただろう。数えきれないくらいお邪魔している。
「だからね、ラウは特別なのよ」
「え? しょう?」
「そうよ」
まず何をおいてもシールドだ。ミミに乗っている間は、ミミがちゃんとシールドを展開してくれている。そして俺が風属性魔法で風圧を遮断している。
だから空中から魔王城に転移するまでの間だけだ。
魔王と会ったら、後は魔王がシールドを張ってくれる。だから転移する一瞬の間だけ俺がシールドを張れば良い。な、楽勝じゃないか。
「ラウ、アリシア達は転移できないわよ」
「あ……しょうらった」
「ね、ラウが転移させるのにも、それはまだ習得していないでしょう?」
「うん、まら。とりあえじゅ、まおうにはあえるから、いいかっておもって」
「ね、練習していなかったでしょう?」
「うん、してなかった」
そっか、転移させないといけない。って、え? ミミがいるじゃん。
「みみが、れきるれしょう?」
「あぁー、ミミね」
「しょうしょう」
よし、これで解決じゃないか?
「じゃあ、どうして魔王に会おうと思ったのか、その理由は話してしまうの?」
「あー、しょれはいわない。じゅっといわない」
「ならわざわざ危険を冒してまで、魔王に会いに行った理由付けができないわね」
「しょうらねー」
そうか、そこか。それって理由が必要なのか? なんとな~く、魔王ってどんな人なのかな~なんて思ったから。じゃ、駄目?
「ラウ……」
精霊女王は俺の気持ちを読んで、とっても呆れた顔をした。ああ、駄目らしい。
そっか、良い考えだと思ったんだけど。
「何を考えて連れて行こうと思ったのかしら?」
「え……」
いや……その……単純に一緒に行ってしまえば、今後魔王に会いに行く時に楽かな~なんてさ。
ちょっと魔王のところに遊びに行ってくるね〜。なんて出掛けられちゃうかな~ってね。えへッ。
「ラウ……」
精霊女王が、またもや俺を呆れた眼でみている。これは、あれか。ジト目というヤツか。ごめんね。もう言わない。
「そうね、それが良いわ。でも良い考えよね」
「しょう?」
「ええ、だってこの先あの国が何をしてくるのか分からないでしょう? アリシア達を巻き込んでおく方が良いとは思うのよ。だってラウはまだ3歳だから」
そうなんだよ、俺ってまだ3歳なんだ。この舌足らずな喋り方だけでも、どうにかならないものか。
「あら、とっても可愛いわよ。ふふふ」
そう? じゃあその可愛さを武器にしてさ。
「でもあの国に行くのはまだ早いわ」
「まおうも、しょういってた」
「あら、そうなの?」
「うん」
もっとちゃんと意思疎通ができるまで待てと言われた。それは客観的に見て当然だと俺も思う。だからもう少し大人しくしておこうと思った。
「あらあら。ラウが大人しくなんて。ふふふふ」
「ええー。ぼくいま、とってもおとなしくしてるの」
「そうね、お利口さんだわ」
「れしょう?」
「それにしても、ラウ。それは、何かしら?」
精霊女王が『それ』といったもの。それは、あれだ。魔王が一匹連れて行けと言った黒い奴だ。
「まおーさまのペットなのれしゅ!」
ああまた、舌足らずな仲間が増えてしまった。益々読み難い。
「まあ! 魔王のペットなの!?」
「しょうなのれしゅ! まおーさまが、ラウのやくに立つようにといってたのれしゅ!」
俺やミミよりは、まだ少しだけしっかり喋る。ちびっ子のような高い声だ。
黒い羽を広げて、パタパタと飛び俺の肩に着地した。
慣れると小さくて可愛いんだ。お目々がパッチリとクリクリとしている。