101ーラウの影響
「ラウが初めて来た時は、とんでもない登場だったな。アハハハ」
「なんれらよ。てんしゃいてきな、とうじょうら」
「どこがだ、お濡らししていたのに。あれで私の顔の上に転移してきたんだ。それはもう、驚いたんだぞ」
「ちょっと、りきんだらああなるの」
「まあ0歳で転移できる者なんていないだろう」
「しょうかな?」
「そうだぞ」
あの頃はよく、出ちゃったとか思っていた。懐かしい。笑い話になっているのだから、良しとしよう。今はもう転移しても、力んでも出ちゃったりはしないぞ。
「もう3歳か」
「しょうなんら」
あの国が戦を起こすまで13年を切った。どうするかなぁ……やっぱ直接行くのが一番手っ取り早いと思うんだ。
「何を考えている?」
「らからね、あのくにに」
「あの国?」
「しょう、えっちょ……なんらっけ?」
「私の嫌いな国か?」
「しょうしょう」
精霊女王だけじゃなく、魔王まであの国が嫌いだと言うんだ。どこまでも嫌われ者の国だ。
デオレグーノ神王国、あの国に行くか。
「ラウ、それは性急というものだ」
「え、しょう? ろうして?」
「ラウはまだちゃんと話せないだろう?」
「らって、まおうとは、はなしぇるじゃない」
「それは私がラウの考えを読み取れるからだ。だが、人だとそうはいかない」
「あー、しょこかぁ」
「そうだ。意思疎通が取り難いぞ」
「しょっか」
「せめてもう少し普通に話せるようになるまで待つ方が良いぞ」
普通に話せるって何だよ。俺、今でも普通に話してるっての。
「ラウ、それで普通か?」
「え……」
違う? マジで? 俺、超普通に話してるんだぞ。
「まだまだ、舌足らずですね。慣れないと、聞き取り難い言葉もありますよ」
アースランさんがそう言うなら、そうなのだろう。自分ではかなりちゃんと、喋れるようになったつもりなんだけど。
「あー、しょうかな?」
「そうだ。3歳だからな」
「しゃんしゃいにしては、おしょいかな?」
「さあ、それは私には分からん。何しろ人の世界のことだからな」
「しょっか。じゃあ、しょうしようかな」
「ああ、それが良い。精霊女王も心配していたぞ」
精霊女王とそんな話をしたのか? もしかして今まで、少しくらいは交流があったりして?
「あるものか。正反対の理の中で生きているのに、あるはずがない」
だって今、精霊女王が心配してるって言ったじゃないか。
「ラウの影響だ。ラウと話すようになってからだ」
「しょうなの?」
「ああ、そうだな。こんなことは前代未聞だろう」
それってあれか? それも俺が変えたことの一つになっちゃうのかな?
「変えたというのなら、そうだろう。ラウとこうして話さなかったら、精霊女王とも話すことなど絶対にないだろうからな」
「ほう」
俺は短い腕を組んで、手を額にピトッと当てる。考える時の俺の癖だ。
「また、何を考えている?」
「ぼくがかえたのなら、いいことなのかなって」
だって前の時は、そんなことはなかっただろうと思うから。
「その話も信じ難いのだが、真実なのだろう?」
「ほんとうらよ。ぼくは2かいめなんら」
俺は一度殺されてやり直していると、魔王にも話してある。だからその結末を変えたくて、今色々考えているのだと。
その最後の時の話をしたら、魔王は涙ぐんでいたりしたんだ。一緒に話を聞いていたアースランさんは、号泣していたっけ。
「人というものは、残酷だ」
「ええ、本当に。なんて酷いことをと思いましたね」
「まじょくらって、しょうらろ?」
「まあな、どこにでも馬鹿はいる」
「しょうなんらよな」
「みみは、ももじゅーしゅがのみたいみゃ」
「ですから、ミミ。魔国に桃ジュースはないと言ったでしょう」
「あははは、みみの、だいこうぶちゅらから」
精霊は桃ジュースしか飲まない。そして大好きだ。だからどこに行っても、桃ジュースを要求する。この国に来てもそうだった。
その度にアースランさんに、却下されている。
「そうだ、ラウにペットを一匹あげよう」
「え、あれ? あのとんれるくろいの?」
「そうだ。便利だぞ」
魔王城の周りを飛んでいる小さな蝙蝠だ。見た目は蝙蝠なんだけど、喋ることができる。
うう~ん、どうしよう。それって母や父に何て言われるか分からないぞ。
下手したら、母には魔王に会いに来ているとバレてしまうかもしれない。それは困るなぁ。
「らうみぃ、こまるみゃ?」
「らって、こまらない?」
「しかられるみゃ」
「れしょう?」
と、ミミと相談だ。確かに、叱られるけど困りはしないのか? え? どうなんだ?
「なんだ? 何を考えている?」
「まおうにあいにきてるのは、ないしょらから」
「誰にだ?」
「魔王様、ラウのご両親にではないですか? なにしろ転移してきているのですから」
「なるほど、そうなのか?」
「しょうしょう」
アースランさんは流石だね。よく分かっている。