飯ませ!おかわり!
リアルで、正月早々エライこと起きてますが
日常ができるところは日常を過ごすべく
更新をいたします。
1人でも多くご無事であられますように。
「シャチョー。また来てますよー。どーします~?」
シャチョーと呼ばれた初老の男はメンドくさそうに、自分を呼んだ若い女の方へ目線を向けた。
英語ペラペラの帰国子女だから秘書で雇ったんだけどなー。日本語がなぁ。。。
変な長音の使い方覚えてんなぁ。総務の娘っこどもかな。
初老の男は、部署や肩書きにかかわらず社内が円満なようなので良しとして、のっそりと返事をする。
「今度はどっから?」
「genderFreeをシュー職差別テッパイに活かすmovementを起こす団体」
英語の部分はさすがだが、日本語がね。。と、思いつつ初老の男は書類を見せるように手を出した。
しかし。どっから湧いてくるんだ。。。
こいういう団体って。。。その前にいつ設立してんの?。。
見ている書類と雇用している社員のどちらに対して、眉間にしわを寄せているかわからない男は、飲食業で成功を収めていた。
多少お調子者なところがあるものの、それが愛嬌ととらえられ個客へのサービス精神へと昇華していた。
おかげで、小さな店からコツコツと店舗と従業員を増やし、美味しくたっぷり食べられるチェーン店として名を知られるようになっていた。
店主から社長へと業務が変わっても、店にきてくれる客にたくさん食べてもらいたいという気持ちは変わることがなかった。
変化があるとすれば、男や客ではなく、会社という存在に群がり取り巻く環境や人種だった。
迷惑なモンだよ。どこぞの大企業ほどデカくないのに。
国内の一部地域に根を張る一膳飯屋よ。俺ら。。。
A4サイズの書類に書かれた文字を目で追う度に、厨房でチキンライスを炒めキャベツを千切りにしていた頃を思い出した。
美味いものを美味いって言ってくれる人に夢中で出してたなぁ。。。
黒いフライパンを懐かしむのは贅沢なことだと男は理解していたが、懐かしむことすら許されないというには、目の前の書類に並ぶ文字列はあまりにも理不尽だった。
「。。。貴店で稼働中の「飯ませ!おかわり」のインターフェースに登場する美少女タイプの画面は、性別の社会的な役割を固定する恐れがあります。ひいては、特定の性別の就業差別を引き起こす可能性が。。。。。」
はぁ~。読みたくね~。。。。
男はさらに眉間のシワを深くすると、書類を机に滑らせた。
飯ませ!おかわり。とは、従業員不足から生じる業務過多の軽減、衛生面などを考えて男の会社が開発してもらった自動米飯給仕機のことだった。
男のチェーン店では、ランチや定食を頼めば白米がおかわり自由であった。
これは店が小さな頃から続けていたことで、店舗が増えたからと言って中止にするつもりは毛頭なかった。しかし、繁盛店ゆえの贅沢な悩みの一つである従業員の不足、それに繋がる業務の負荷、そしてその負荷がチリ積もった先に待ち受ける衛生の壁。これらを一つでも取りこぼしてしまえば、雪崩のように負の連鎖が襲いくる。
この負の連鎖を引き起こせば、いままで築いてきた信用は失墜。
今生では返しきれない借金が男にのしかかる。
じいちゃんがさぁ。男一匹、借金がなく健康であれば腕一本でなんとかなるものよ!
って言ってたからサァ。
俺、それを信じて今まで頑張ったのよ。
今更、輪廻転生を無限に繰り返さなきゃ返せないような借金はしたくないよ。
男は意外と小心であったが、その小心が会社の安定を維持していたのだと思う。
話を元に戻すが、その飯ませ!おかわりは、従業員不足と従業員の業務負荷、衛生の尊守を解決するために作られた。
客がおかわりを望む場合、通常従業員に頼む。
この機械があれば、従業員を介することなく客が設置されている機械の所定位置に茶碗を置いて、好みの量の米飯ををインターフェイスで選ぶだけで給仕される。
従業員の業務の負荷の回避、多人数で食品に接触するリスクの回避。尚且つ、客のニーズにも応えられる。という、誰もが万々歳のシステムだったはずだ。
そう、はずだった。
開発については社長はもちろん社内各部署、開発会社などの関係者一同苦労もあったが、皆ノリノリで業務の問題やリスクを解決すべく健闘した。
開発をして、店舗に導入して、軌道に乗せるまで、皆必死に頑張った。
各店舗に配置を進め、従業員が機械の操作に慣れ、客が話題にするようになり、そして、ようやく各店の店長がアルバイトのシフトを組むのに、心と時間のゆとりを持てるようになったのである。
「ここまで、皆どれだけ必死にやってきたと。。。。。俺は奴らの10円禿げに報いてやりたい一心で。。。。」
各店舗の店長やフロアマネージャーが、日付の変わる前に家に帰れると涙した頃に最初のイチャモンが本社に届いた。
最初にイチャモンを切ってきたのは、女性の権利向上委員会と名乗るどこぞの団体であった。
「。。。。。。何言ってるかわからんのだが」
「interfaceのジョセーゾーが、特定の性別をtargetにしてコビヘツラウ?シヨーになっています。と、言ってきてます」
「インターフェイスって、操作画面のことか?あれ、よくできてるけどアニメだぞ」
「はい、それが乳房を強調した若い女なのがダメだそーです」
開発と相談した時に、今時の若年層や子供に馴染みやすいようにゲームキャラのような感じにしよう。
接客だし可愛らしい方がいいよなって話をした。朗らかなイメージで作ろうと頑張ったはずだった。
それに、乳房って、そんなに強調してないはずだけど。
男が黙って眉間にしわを寄せているところに、秘書が付け加える。
「インターフェイスで最初から最後までニコニコしてるのもダメだそうです」
「接客業だぞ!苦虫噛み潰した面にでもしろっちゅーんか」
「私に言われても困ります。クレーム読んでるだけだから」
「そーだよね!」
男も秘書も仏頂面で要約を続ける。
「ジョセーをセー的なショー品として、イン食店のテントーに配置するのはダンセーシャ会のゴーマンさが浮き出た。。。」
「もう読まなくていいよ。俺んとこ飯屋だってわかってんのに、性的とかって何言ってんの、わけかんねー」
「インネンってやつじゃないですかー?シャチョー」
「インネン?」
「団体に寄付すれば治るよーな気がする」
「俺が若い頃に、ヤーさんがみかじめ料の隠れ蓑で年末に門松売ってきたけど、今はイチャモンだけで門松すら手に入らんのか?」
「よくわからないけど、ブッパンじゃないです」
品質と価格はともかく、なんで大昔のヤクザの方がまともに商売しようと努力してるように思えるんだ?
時代か?金利か?経済か?
男は商売以外で頭を抱える不遇を嘆く。
「。。。ご意見拝聴しました。企業としては誤解のないように公示していきます。誰が金払うかバーカって返事しといて。。。。」
「イエッサー」
「あ。まってまって、総務の大山さんに事情話してね。ちゃんと日本語でオブラートに包んでくれるから」
「イエッサー」
あったマイテー。。。。それが1回目のクレームだった。
「はい?」
「うちのメシませに、またクレームきました」
「もしかしてインネン?」
「maybe」
1回目のクレームをオブラートに包んだバーカを返して直ぐに2回目のクレームが来た。
今度は青少年保護団体を名乗っていた。
「interfaceのジョセーが若すぎる。子供のフホーシューローをジョチョーする。ミセイネンシャヘノリャクシュを防ぎ、権利を守るため貴社にコーギーする」
「最後犬になってるよ。コーギーじゃなくってコーギね」
「Thankyou sir」
なんで俺までカタカナにと思いつつ先を聞く。
「もういいや、うちのメシませって、そんなに子供っぽく見える?」
「海外なら子供です。東洋人皆若い」
ここは日本だよ!という言葉をゴクリと飲み込んだ男は、口をへの字に曲げて御託を並べることにした。
「。。。。。。ゴイケンハイチョウシマシタ。キギョーとしての説明責任を重く受け止めオキャクサマヘノコージをテッテーシテマイルショゾンデゴリマス。オメーらに金払うなら、10円ハゲ作った部下にカツラ買ってやらー。バーカって返事しといて」
「Mrsオーヤマ?」
「イエスイエス大山さん」
2回目だと、頭も痛くなんねーわ。。。。
そして、現在3回目である。
「なんか考えるのがメンドくさくなって来た」
「どーします?シャチョー。interface変えないと、クレームき続けるかもしれないです」
「。。。。。結構金かかってるし、お客の評判も悪くないしなぁ。。。でも。。」
数週間後、男の会社のホームページのトップに派手に彩られた「飯ませ!おかわり」のリニューアル広告が掲載された。
「メシませ!おかわり」のインターフェイスが変わりました。
創業以来の企業理念、お客様に美味しさを届け、家庭の安らぎを感じられるような店舗を目指す。
この初心へと立ち返り、この度メシませおかわりのインターフェイスをリニューアル!
真心と美味しさ、もちろん分量などはお好きなだけも変わりません。
結局、社長は苦渋の決断をしてインターフェイスを多少変更することにした。
いつまでも、妙なインネンに関わりあうより、少々腹立たしくはあるがインターフェイスの変更に金を払う方が、まだ溜飲が下げられるような気がしたからだった。
「お客様は新しいinterface喜んでるみたいですよ」
「そか」
「シャチョー?フキゲン?」
「ん~、まーなー。結局ゴイケンに屈しちゃったからなー」
上の空の男に、秘書はスマホの画面を見せる。
新しい、飯ませ!おかわりの動画が配信されていた。
「お客様、喜んでrepeatしてる」
画面には美少女ではなく、やたらとリアルな中年の婦人が真正面から眼ヂカラ強く客を見つめている。インターフェイスが映し出されている。その婦人の右側に配置されている大中小のボタンを押すと、キレのある動きでしゃもじを繰り出し
「ご飯くらい自分でツギな!」
という台詞とともに選択した量のご飯が茶碗に給仕された。
その様子を見ながら、客がママー、おカーンなどと、笑いながら茶碗を機械から取り出し席に戻っていくのを何度か繰り返していた。
男は動画を見ながら、秘書に目をやり少しおどけて変顔をしてみせる。
「おかわりは飯だけで十分だよ。。。。。」
イチャモンのおかわりはコリゴリだわ。。。。
男は一瞬だけ渋い顔をした。