8話 希少職
翌日、豊田さんの送迎でDD本部に来たが。
「こちらに」
「はい・・・」
「こことこことここにもお願いします」
「はい・・・」
引き続き今日もあれやこれやと自分の名前を書き続けている・・・。
「今更なんですけど・・・」
「はい」
「内容も知らずにサインしまくってますけど大丈夫なんですか・・・?」
本当に今更な質問だとは思うが・・・。
「ほぼ問題は無いかと」
「ほぼ・・・」
「私を信用して頂ければ」
「まぁ、読んでもちゃんとは理解出来ないんですけどね」
「出来れば今日中に終わらせたいので、こちらにもお願いします」
「は、はい」
「お待たせしました」
「あ、すいません」
「それだけで足りますか?」
「あ、はい」
「遠慮しなくて良いんですよ?」
「あー、何か状況に気持ちが着いて行ってなくて・・・お腹空いてないんですよね」
「お腹空いたら何時でも仰って下さい」
DD本部にある社食で1杯200円のきつねうどんを啜りながらサイン会が何時まで続くのかとゲンナリとしていたら。
「美味しくありませんでしたか?」
「あ、いや、美味しいですよ」
「値段の割には」
「いや、美味しいですよっ」
「大丈夫です」
「え?」
「もうサインして頂く書類も数える程ですので」
「あ、ホントですかっ」
「はい。ですので、もうしばらくお付き合い下さい」
山本さんの奢りで済ませた昼食後。
「はい。これで最後になります。ここに」
「はい」
「お疲れ様でした」
「山本さんこそお疲れ様でした」
それは、本当にそうで。俺はただただ言われるがままに自分の名前を書いていくだけだが山本さんは書類の内容を理解した上でここにサイン、ここにハンコ、ここに拇印。と、的確にロスなく指示を出してくれていたので実際問題疲れたのは山本さんだけだろう。
「私は慣れておりますので」
「やっぱ社会人って大変ですね・・・」
「佐々木さんもこれで半分は踏み入れましたけどね」
「たしかに・・・」
「これからは責任も伴いますので行動・発言等々には気を付けて下さいね」
「ぜ、善処します・・・」
「それでは矢継ぎ早で申し訳ありませんがPTメンバーの紹介をさせて頂いても宜しいですか?」
「はいっ」
昨日も訪れた訓練室。
そこに向かうと既にジャージ姿の屈強な大人が数名待機していた。
「お待たせ致しました」
「そちらが?」
「はい。希少職をお持ちの佐々木さんです」
「なるほど。タンクでPTリーダーの本田です」
「あ、佐々木です。よろしくお願いします」
タンクは戦士の2次職だ。という事はレベルは20以上か。
「向かって右から前衛アタッカーで剣士の松田」
「松田です。よろしく」
「佐々木です。よろしくお願いします」
ソードマンも戦士の2次職で、戦士から派生する防御型の定番がタンクで攻撃型が剣士だったはず。
攻撃型は他にも双剣使いとかソードマンもあるけど、剣士が1番の定番だったはずだ。
「続いて、後衛アタッカーで雷使いの由良」
「由良です。因みに正式な職名は紫電です」
「初めて聞きましたシデンってどんな字書くんですか?」
「紫の電気で紫電ですよ。僕も希少職なんで佐々木君とはお仲間ですね」
「あ、そうなんですね。よろしくお願いします」
「続いて、ヒーラーの高橋」
「高橋です。よろしくお願いしますね」
「よろしくお願いします」
「最後はタンクの加藤」
「加藤です。ダンジョンでは後方に下がって佐々木さんを警護する予定です」
「そ、それは・・・是非ともよろしくお願いしますっ」
紫電か・・・俺とは桁違いに格好良いな・・・。
そして、加藤さんにはしっかり守って貰いたいけど高橋さんのお世話になる様な事は極力無い方がありがたい。
「自己紹介も済みましたし。早速、ダンジョンに行かれますか?」
「え?もうですかっ?」
「流石に本格的なアタックという訳ではなく。これからどういった感じでダンジョンに潜るかの予行練習ですね」
「あー、なるほど」
ようやくデスクワーク?から開放されたと思ったら今度はダンジョンに潜らないといけないようだ。
送迎をしてくれている豊田さんの運転でダンジョンへと向かったが今回は黒塗りの外車では無く大型のワンボックスカー。
皆、手慣れた様子で荷物を積み込み車へと乗り込んで行く。
「佐々木さん」
「はい、えっと・・・本田さんどうしました?」
危うく名前が出て来ないところだったが何とかひねり出せた。
「こちらが佐々木さんの防具になります」
「あ、はい。ありがとうございます」
「装着は高橋と加藤に手伝って貰って下さい」
「はい」
「武器の説明はダンジョンに入ってからしますね」
「はい、お願いします」
そんなこんなで1次転職後初のダンジョンへとやってきた。
ブチかませ!俺のひきこもりっ!