7話 ベッドの下はバレている
キャパオーバーな事が起こり過ぎた所為か帰宅するなりベッドに倒れ込み意識を失っていた。
「健二~!ご飯は~?」
母親が呼ぶ声で目を覚ました。
「んんっ・・・食べるー」
食卓には既に料理が並び、父も手酌で晩酌を始めていた。
「あ、そうだ。これちょっと見て欲しいんだけどさ」
「ん?」
「DDで渡された誓約書?」
「何かしたのかっ!?」
「へっ?」
「ヤケを起こして・・・もしかして、損害賠償請求の書類かっ!?」
と、俺から書類を奪い取り必死に書面とにらめっこを始めた。
「健二、アンタ何したのよ?」
「何もしてねーよっ」
「石橋君のお母さんから聞いたわよ?」
またお母ちゃんネットワークか・・・。
ちなみに、石橋ってのは戦士の職業に転職したやつだ。
「まぁ・・・何もしてないってのは嘘だけど・・・」
「ほら見なさい」
「いや、だから違くて・・・」
いや、こういう時は何と言おうと聞き入れて貰えないのは分かっているので正解は1つ。
「ごめんなさい」
「アンタねぇ、お母さんに謝ってどうするの?ちゃんと皆に謝りなさい」
「うん」
「良いから座って食べなさい」
「うん」
ちゃんと正解だった様だ。
「おい、健二」
「ん?」
「お前・・・本当に何したんだ・・・?」
「え?」
「クソみたいなハズレ職引いて詰んだって聞いたぞ?」
クソみたいなハズレ職て・・・まぁ、否定は出来ないけど・・・言い方っ!
「めちゃくちゃ良い条件の契約じゃないか。何したんだ?」
「いや、何もしてないって・・・」
「お父さんももうご飯食べるでしょー?」
「あ、うん・・・貰おうかな・・・」
「はーい」
「この話は後でするか」
「え?うん」
夕食後、父親が俺の部屋に来た。
「なんか父さんが部屋に居るの違和感凄いんだけど」
「何時以来だ?にしてもゲームばっかだな」
「うっさいなぁ・・・」
「俺がお前くらいの時の部屋はな」
「あー、良いって勉強しまくってた自慢?」
「いや?漫画が積み上がってたな」
「へぇ~」
「今は電子書籍が主流だからなぁ」
「まぁ、そっちのが安いし嵩張らないしね」
「まぁな」
「で、話って?」
「あぁ、そうだったな」
父親が言うにはありえない程の好条件での契約らしく規約さえ守ればデメリットは存在しないとの事だった。
「じゃあ、普通に契約結んでいいんだよね?」
「情報漏洩にだけは気を付けろよ?」
「分かってるって」
「分かってない」
頭ごなしに否定されてちょっとイラっとする。
「1番の敵が家に居るの分かってるのか?」
「へ?」
「こういう書類も職業の事も能力も・・・ダンジョンであった事全て母さんに知られるなよ?」
「え?あ、母さん?」
「女って生き物の口程軽いモノは無いからな?」
「う、うん・・・」
「その中でも母さんはかなり上位に居る」
「うん・・・」
「普通の女の口の軽さが窒素くらいだとしたら母さんは水素だ」
いや、分からん。
「う、うん・・・」
「例えば、お前が産まれる少し前くらいの事だが・・・」
「いやいや、良い良い分かったからっ」
「そうか?本当にアイツの口の軽さときたら・・・」
「いやもう十分分かったからっ」
「ふむ」
当たり前の話だけど、俺が産まれる前からの付き合いなんだから・・・かれこれ20年以上とか一緒に居れば色々あったんだろう・・・って、そんなのはどうでも良くて。
「んじゃ、これってこのまま契約して問題無いんだよね?」
「無いな」
「うん、分かった」
「いや、待て待て」
「ん?」
「ちゃんと読んだか?」
「いや、んー、サラっと?目は通したけど」
嘘だ。
甲がどうの乙がどうの意味分からん過ぎて読んでも頭に入って来なくてほとんど読んでない。
「はぁ~・・・簡単に言うぞ?」
「うん」
「DDはお前に結構な期待をしてるっぽい」
「うん」
「レベル20で2次転職するのは知ってるな?」
「うん」
「そこまではレベル上げも手伝って貰えるみたいだ」
「おぉー」
「そこで最終的な判断をするみたいだが」
「うん」
「契約してから2次転職するまでの事は全て他言無用」
「うん」
「分かってるのか?」
「え?」
「俺にもだぞ?当然、友達にも知られてはいけない」
「あぁー、結構厳しい感じ?」
「故意に漏らした場合は発覚したその場で打ち切りになる」
「なるほど・・・」
「だから、お前がする事は」
「うん」
「書類を一切持ち帰らない」
「うん」
「情報は全てスマホで管理しろ」
「うん」
「連絡もな?」
「うん」
「アイツは機械音痴だからスマホの中までは見れないはずだからな」
「ん?」
「母さんだよ」
「え?」
「漏れるとしたら母さんからしか無いだろ」
「・・・・・・」
「そこさえ気を付けときゃ大丈夫だ」
母さん・・・何したんだよ・・・。
父さんの信用がここまで地に落ちてるとか・・・。
母さんにさえ気を付ければ良いのか・・・。