19話 逃避
「いや、あの・・・それって・・・どういう・・・」
「佐々木さん以外のPTメンバーの方々とも契約は結んでおりまして」
「はい」
「明確な契約違反がありましたので、その違約金ですね」
ありえない大金が舞い込んで来ると言われパニックに陥っていたが少しづつ頭が回り始めて来た。
「それってアイツらが払うって事ですよね?」
「はい。未成年である事や支払い能力から考えて親御さんが支払う事になるかとは思いますが」
「なる・・・ほど・・・」
俺達だけの事では無く、家族も巻き込んだ大事になっている・・・。
「他にご質問はございますか?」
「いや、あのそれって・・・いや・・・えっと・・・」
「何かございましたらご連絡下さい」
「え、あ・・・。はい・・・」
情報量の多さ・・・は、そこまで多くないか・・・。
情報の濃さと問題点の多さに頭がフリーズして考えが一向に纏まらない。
思考の迷路に迷い込み堂々巡りをしている内にダウンロードが完了した。
そんな追い詰められた状況でもマウスをポチポチとクリックしアップデートを進めていく。
そして、考えが纏まらないままアップデートも完了してしまった。
「と、とりあえず・・・」
逃避だとは分かっているがスタートをクリックしてログインした。
そう。
逃避した結果・・・その後はこれといって大きな問題も無く夏休みが明けた。
「いってきまーす」
夏休み明けの始業式。
ネトゲの所為で昼夜逆転生活が当たり前になってしまった廃ゲーマー(笑)にはこの時間からの登校はかなり辛い。
とはいえ、冒険者としてやっていけない事も確定した以上は大学に行き何とか就職をしない事には生活していく事もままならない。
そんなこんなで眠い目を燃やし尽くさんとする朝日の攻撃に耐えながら学校へと辿り着いた。
ガラガラ───。
教室の扉を開けて久しぶりに会うクラスメイト達に挨拶をする。
「はよーっす」
が・・・返事が無い。
「???」
別にクラスの人気者と言う訳では無いし、クラスメイト全員と仲が良いという訳でも無い。
でも、誰かしら挨拶を返して来るだろうと思ったが・・・教室に居る全員が遠巻きに俺の事を見てヒソヒソと話している。
意味が分からないが自分の机に向かった。
ガラッ───。
椅子を引き腰を下ろす。
すると、隣の席の女子が急に席を立ち俺から離れていった。
うん。
鈍感で考えなしの俺でも流石に分かる。これは確実に避けられてる。
考えられるのは・・・あの配信を皆も観ていた。それも考えられるがアイツらが配信で言っていた様なある事無い事を言い触らしたのだろう。
その事が俺の耳に入らない様に。
その考えに思い至ったタイミングで教室の扉が開き、アイツらが入って来た。
「おい!よく学校に顔なんて出せたな!」
「お前らか・・・」
「あ?」
「ある事無い事言い触らしたんだろ?どうせ」
「はぁ?お前の所為で俺等は借金も背負わされたしダンジョンも出禁だ!どうしてくれんだよっ!」
「それはお前らの自業自得だろ」
「あぁ?」
「お前の所為だろっ!」
「はぁ・・・もう良いよ・・・」
「はぁ?」
話にならない。
俺にも悪かった所はあるけどやり方が陰湿過ぎる。
俺は鞄を持ち椅子から立ち上がった。
「おい、待てよ!」
「・・・・・・」
もう話をする気にもならない。
「逃げんのかよ!」
おう、全然逃げるよ。
お前らの相手をする時間が無駄で仕方ないからな。
「二度とそのツラ見せんなよっ」
怒声もいつの間にか嘲笑に変わっていたが気にならない。
そして、俺は1次職が予言だったかの様にひきこもった。
ひきこもっていても恨みの対象なのは健在らしく。家の塀に落書きをされたり汚物を庭に投げ込まれたりした。
勿論、警察に相談はしたが「警邏の頻度を上げます」くらいにしか取り合って貰えなかった。
その嫌がらせだけではなく、お母ちゃんネットワークでも嫌がらせがあったのだろう。
母さんのヒステリーは増していき、耐えられなくなった俺達家族はこの家を売って引っ越す事になった。
正しくは、俺達ではなく父さんと母さんが引っ越す事になった。
母さんが俺の顔を見るとヒステリーを起こすので、話し合った結果落ち着くまでは離れて暮らそうとなったのだ。
家も余裕があって買ったのでは無く、結構無理をして買ったらしく売値も芳しくない。
なので俺への支援は一切ナシ。
ただ、アイツらから入って来た1000万があるので当面の生活には困らない。
そんな俺が選んだ生活は・・・その貯金を食い潰しながらネカフェで生活する事だった。