17話 まだダメ
失意の中帰宅し、玄関の扉を開けると父親が飛んで来た。
「あ、ただい・・・」
「シーッ」
と、人差し指を口に当てた後、胸の前でバツをした。
そして、2階の俺の部屋を指さした。
なるほど・・・まだ母さんは怒っていてバレない内に部屋に行けって事か。
無言で頷き、足音を殺して部屋に逃げ込んだ。
「あー、疲れた・・・」
連日、慣れない事が続いた。緊張もあって肉体的にも精神的にも疲れが出ている。
「しばらくゆっくりするか」
夏休みもまだしばらくある。バイトは冒険者になるタイミングで辞めた。冒険者になってガッポリ稼ぐっていう漠然とした将来の夢も失った。
そして、友達も失った。
「明日からどうしよ・・・」
やりたい事とやらなければいけない事が合致していたので余計な事を考える暇も無かったが、これからはやらなければいけない事をやり、余裕があればやりたい事をやる。そんな生活が待っている。
「受験勉強か・・・」
いや、その前に夏休みの宿題か・・・。
と、言っても・・・今すぐなんてやる気も起きない。
風呂も入ってないし晩ご飯も食べてないけど今日の所は寝てしまおう。
翌朝、コピペの様にトイレから出ると父親が洗面所に待っていた。
「今日もダンジョンか?」
「あ、いや、昨日で終わり」
「ん?もう終わり?」
「うん、やっぱ俺の職って微妙だったみたいで・・・」
「そうか・・・。じゃあ、どうするんだ?」
「まだ分かんない・・・けど、まずは受験を考えて動かないとかなー。って」
「ふむ。まぁ、好きにしたら良い」
「うん」
「健二」
「ん?」
「着替えて来い」
「え?」
「飯でも食いに行こう」
「え?今から?」
「昨日も食ってないだろ?」
「うん、着替えて来る」
「表で待ってる」
「うん」
父親と2人並んで駅に向かって歩く。目的地は駅前にある牛丼チェーン店。
沈黙に耐えかねて口を開いた。
「何も聞かないの?」
「んー?言いたかったらお前から言うだろ?」
「まぁ、そうだけど・・・」
「と、言うのは建前で」
「うん?」
「何から聞けば良いのか分からん」
そう言って父さんは笑った。
そして、順を追って今回のあらましを語った。
食い違い、思い違いがあってアイツらを見捨てる形になってしまった事。
そして、その事に腹を立てたであろうアイツらがある事無い事を配信した事。
その配信は契約違反で賠償問題に発展するであろう事。
そして、俺の職はクソみたいなハズレ職だった事。
「なるほどなぁ」
そう呟いて父さんは黙り込んだ。
「まずはアレだ」
「うん」
「飯食ってから考えよう」
説明した所為で事細かに思い出して食欲も失せたわ・・・。
「落ち込んでる時に腹減ってると余計に悪く考えてしまうモンだからな」
「そう?」
「腹が膨れたら意外と大抵の事はどうでも良くなる。良い意味でな」
「だったら母さんにも・・・」
「いやぁ・・・あいつはしつこいからなぁ・・・」
万能では無かったみたいだ・・・。
そんなこんなで牛丼チェーン店の朝定食を親子で並んで食べた。
「ごちそうさま」
「意外と良いだろ?」
「うん。牛丼しか食べた事無かったけど、定食も結構良かったんだね」
「俺はこのまま仕事に行くけど、お前はどうする?」
「うーん・・・どうしよっかなー」
「学校にバイトにダンジョンにとここ最近はやる事尽く目だっただろ?」
「うん」
「ここはパーッと遊んで来たらどうだ?」
「んじゃ、そうしよっかな」
「おう」
「それじゃ、ごちそうさま、いってらっしゃい」
「おう」
父親を見送り、何をするかどこで遊ぶかを思案しながら歩いていると見慣れた場所に自然と足が向いていた。
「あー・・・ここに来るのも久しぶりだな・・・」
駅近くにあるビルのテナントに入っているネットカフェを見上げながら呟いた。
キンコーン───。
「さーせー」
「6時間パックで」
「会員証はお持ちっすかー?」
「はい」
中学時代この店にはかなりお世話になった。
何時来ても空席だらけでお気に入りの部屋に何時でも入れたというのも大きい。
「お、まだ入ってんじゃん」
その頃ハマっていたネットゲームもまだパソコンにダウンロードされたままだった。
「とりあえずアプデするか」
1からダウンロードすれば1時間以上は掛かるはずだけどアップデートだけなら30分も掛からないはずだ。
ダウンロードを待つ間にネカフェの斜向いにあるコンビニに向かいお菓子をいくつか購入し、トイレを済ませた。
そして、このネカフェがお気に入りの理由として、パック料金に無料のドリンクバーが含まれている所だ。
食べ物も確保し飲み物もある。
後はもう全力でネトゲをやるだけだ。