16話 Q.E.D.
ステータスウィンドウを端から端まで何度も見返す。
ステータスは4P増えている。俺が冒険者になって初めてのスキルも発生している。
「スキルは発生してます・・・」
「おぉ!おめでとうございます」
「でも・・・」
「???」
「レベルが・・・」
「上がったんですよね?」
「20のままです・・・」
「え?」
「それは・・・どういう・・・?」
「そんなの俺にも・・・」
「いや、待ってください」
「はい・・・」
「本部に戻りましょう。私では判断しきれません」
全員でDD本部に戻ると連絡がいっていたのか山本さんが建物の外に出て待っていた。
「お疲れ様です。皆さんは一先ず休憩してください」
「はい」
「佐々木さんはお話を伺わせて下さい」
「はい」
応接室に入り席に着くとオレンジジュースが出てきた。
この子供はコーヒーが飲めないという事が分かった様だ・・・。
「では、順を追ってお話をお願いします」
「はい」
順調に狩りを進め、さっきレベルが上がった事。ステータスウィンドウをチェックした所、スキルが発生していた事。
そして、何故かレベルが上がっていなかった事を伝えた。
「なるほど・・・それで、そのスキルというのは?」
「レベルが上がるとレベルが下がる」
「あ、はい。それは先程伺いました」
「あ、いや、って名前のスキルです」
「はい?」
「レベルが上がるとレベルが下がる」
「それがスキル名ですか・・・」
「みたいです・・・」
「異例づくしですね。1次転職でスキルが発生しなかったのも、Lv.20でスキルが発生せずLv.21で発生したのも初だと思われます」
「はい」
「スキル名が単語ではなく文章の形態を取っているというのも初かと」
「あの・・・」
「はい」
「俺はどうなるんでしょう?」
「う~~~~~~ん・・・」
山本さんは頭を抱えてしまった。
「恐らくですが」
「はい」
「これで支援は打ち切りになるかと思われます」
「・・・・・・」
まぁ、それはそうか・・・。
レベルが上がらないという事はこの先スキルが増える事も無い。
レベルが上がらなければ強くなる事もない。
即ち・・・ひきこもりって職業になったヤツはゴミって検証結果が出た訳だし・・・。
結局は父さんの言った通り、クソみたいなハズレ職だったって訳だ。
「あー・・・アレかもですね」
「はい?」
「ネトゲとかで言われてる事なんですけど」
「はい」
「ゲーム内でレベルが1上がると生活レベルが1下がる。って」
「そんな格言があるんですね」
「まぁ、それだけゲームに没入というかハマって抜け出せなくなってる人に対して言う言葉ですけど」
「ふむ」
「2次職の廃ゲーマーってのもそう考えたら合ってますし」
「なるほど」
レベルが上がったのに下がるってのはそれ以外に思い当たらない。
「質問なんですが」
「はい」
「佐々木さんはそこまでゲームに対して思い入れがおありで?」
「好きですよ」
とはいえ、世界ランク何位とか日本ランクがどうのって程ではなく下手の横好きってヤツだけど好きは好きだ。
というか、この世代の男でゲームが嫌いなヤツ自体珍しいだろうとは思う。
「でも、そんな廃ゲーマーって程では無いと思います」
「ふむ」
「好きなだけでそこまで上手い訳でも無いですし」
「そうですか。では、1・2次職の条件という訳ではなさそうですね」
「はい」
「何か思い当たる事があれば連絡して頂いても宜しいですか?時間は掛かっても構いませんので」
「分かりました」
見捨てるクセに?と、一瞬思ったが・・・思ってしまったが、普通に考えてこの短期間で2次職まで安全に引き上げて貰えて文句を言うのは筋違いってヤツだ。
「これからどうされるおつもりですか?」
「冒険者を続けるかどうかって事ですか?」
「はい」
「どうでしょう・・・特殊なスキルも無くて強くなれないのが分かってますから・・・」
「そうですね」
「今から頑張れば大学受験も間に合うと思いますし」
「はい。正しい選択だと思います」
「ですよね」
「はい。冒険者はブームになっていて稼げる職業ですがそれ以外にもいくらでも仕事はありますし」
「はい」
「その地に足の付いた考え方はこれからも大事にして下さいね」
「分かりました」
「それではひきこもり及び廃ゲーマーの検証にお付き合い頂きありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました」
「では下に車を待たせてありますので」
「ありがとうございます」
これが最後となる豊田さんの送迎で帰途に着いた。
そして、今の俺の気分同様に陽も沈み切っていた。