14話 はんにゃ
「それではそろそろ佐々木さんの2次職業をお教え頂けますか?」
と、コーヒー問題が落ち着いて早々に山本さんが口を開いた。
「それではそろそろ」の「そろそろ」に山本さんの感情の大半が詰まっている気はするが敢えて気付かない方向で行こう。
「はい。ステータスオープン」
一応、ステータスウィンドウを開き質問に直ぐ答えられる様にしておく。
「えっとですね・・・」
そう。
ソシャゲのガチャの時、ガチャを回してから目を瞑り、お祈りをしてから目を開く。
細かく言うとその時点ではまだ結果を見ない。
視界の端に入るか入らないかくらいの所から一気に画面を見る。そんな変なルーティーンがある。
そして、それは1次転職をした時にも行った。
勿論、それは今回の2次転職でも行う予定だったが機密事項だからと止められたので実はまだ俺も結果を知らない。
「へぁ・・・?」
「どうかされました?」
「いや・・・ふふ・・・ははは・・・」
「???」
「廃ゲーマー」
「はい?」
「2次職ですよ」
「はいげーまー?どういった意味なんですか?」
「廃人のゲーマーですよ」
「えっと・・・」
山本さんには馴染みが無い言葉なのか、いまいち理解出来ていないっぽい。
「ネットゲームとかで寝ても覚めてもゲームに入り浸って人生の全てをゲームに捧げる。そんな勢いで狂った様にゲームをする人に贈られる称号ですね」
「なるほど・・・それで、どういった職業なんでしょう?」
それは俺の方こそ聞きたい・・・。
「さ、さぁ・・・?」
「ま、ま、ま、まぁ・・・それを検証していくのが私の仕事ですね・・・」
「は、はい・・・ご迷惑をお掛けします・・・」
ステータスウィンドウを端から端まで見ても・・・レベルは20。スキルは発生していない。職業がひきこもりから廃ゲーマーに変わっただけで他に変化は無い。
「なるほど・・・では、明日も引き続きダンジョンでレベル上げをして頂いても宜しいですか?」
「はい・・・それは構わないんですけど・・・」
「何か問題が?」
「あ、いや、こんなんで支援をして貰っても大丈夫なんですか・・・?」
「未確認の職業やスキルについて解明していくのも重要ですし」
「だったら俺としては全然ありがたいです」
「ですが」
「!?」
「今日中にある程度の概要が掴めると思ってましたので・・・」
「で、ですよね・・・」
「いえ、佐々木さんを責めている訳では無いので」
「はい・・・」
「まぁ、ただ・・・上からも多少は責付かれているのもありますので」
「はい・・・」
「佐々木さんに言っても仕方の無い事ですが、なるべく早く結果を上に報告出来ます様お願い致します」
武器防具の貸出。護衛の配置。車による送迎。その他諸々お金が発生している以上結果を求められるのは仕方ない。
「ぜ、善処します・・・」
「では、明日も今日と同様に朝からダンジョンでレベル上げをお願いします」
「はい」
DDからの帰り道、豊田さんの運転する車の中で何の気無しにスマホを取り出した。
ダンジョンにスマホは持ち込んでおらず鞄の中に入れてあったのでガサゴソと奥の方までひっくり返しながら取り出したので鞄の中はグチャグチャになってしまった・・・。
「えっ?」
「どうかされました?」
「あ、いや、着信が」
「電話ですか。気にせず出て頂いて結構ですよ」
「あ、いや、じゃなくて・・・」
「???」
母親からの鬼電。普段は一切送って来ないメッセージも山の様に送って来ていた。
「あー・・・親からだったんで大丈夫です」
「そうですか。後、10分程で着くと思います」
「はい」
メッセージは、早く帰って来い、連絡しろ、といった事がスクロールしても並んでいるだけだったので途中でスクロールするのを諦め、もうすぐ帰る。とだけメッセージを送った。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございます。明日もよろしくお願いします」
「はい。では失礼します」
「はーい」
豊田さんを見送り家に入ろうと振り返るとそこには鬼が居た。
いや、正確には鬼の形相の母親が居た。
まぁ・・・四捨五入すれば鬼だから鬼で間違いはない。
「た、ただいま・・・」
無言で首根っこを掴まれ家の中に引き摺り込まれた。
玄関の扉を閉め鍵を掛け、大きく息を吸い込み・・・ヒステリックに何かを叫び立てているがテンションが上がり過ぎていて何を言っているのかいまいち聞き取れない。
ギリギリ聞き取れた単語としては「仲直り」とか「石橋君」とかがあったのでお母ちゃんネットワークで何かあったのかもしれない。
かもしれないというか、昨日の配信の賠償云々だろうとは思う・・・。
見かねた父親が母親を羽交い締めにして寝室に消えていった。
その際に父親から「風呂入って寝ろ」と一言だけ言われた。
えっと・・・朝ご飯以降10秒チャージしかしてないだけど・・・俺の晩ご飯は・・・?