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生意気従者とマグナム令嬢  作者: ミドリ


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74 マグナム令嬢マーリカの提案

 引き続き翌日に、今度はウィスロー王国のふた領に対しての、帝国メグダボル・ゴルゴア王国両国からの賠償について協議が行われた。


 メイテール領からは、死者も出ている。帝国メグダボルの第四皇子の身勝手な行動から多大な被害を受けたことに対し、恨みがないとは言えない。お金だけで解決出来る問題ではないが、遺族に対する補償は当然ながら必要だ。


 その為、メイテール領領主代理オージンは、賠償金及び各国から遺族への謝罪を以て、この件を閉じることにした。


 続いてムーンシュタイナー領についての話し合いに移る。ここでようやく、マーリカもムーンシュタイナー代表として協議に参加することになった。


 魔泉の封印や領地の復旧、家屋の再建設などが議論にあがる。マーリカは暫し静かに内容を聞いていたが、挙手すると軽快に告げた。


「魔魚料理は捨てがたいので、その代わりの提案なのですが」


 マーリカの提案に、それまでは緊張と探り合いでピリピリとしていた場の雰囲気が、一気に和やかなものへと切り替わったのだった。



 午前中の協議を終え、昼食を挟むと午後は、アルムの処遇及び処罰内容についての協議が残されるのみとなった。


 マーリカは、キラと共にキラの部屋で昼食を取ることになった。侍女が準備をするまでの間、二人で部屋の露台から城下町を見下ろす。


 キラはゴキュゴキュ、と凝り固まった身体を伸びをして解しつつ、隣で風を受けて穏やかに目を細めているマーリカを見た。キラの端正な顔に浮かぶのは、面白がっている様な小さな笑みだ。


「またしかし、とんでもない提案をしましたね」

「だって、お金が掛かるじゃないの」

「いやまあそうなんですけど」


 マーリカの提案は、まず魔泉は閉じないというものだった。折角生まれた名産品を手放すのは勿体ない。だが、いつまでも領民が領主城内で暮らす訳にもいかない。


 そこでマーリカは、領主城を中心とした水上都市の建設費用の負担を頼んだ。土地がなければ、水上に作ればいい。折角一から作るのなら、観光地にもしていきたい。領民を増やしていくには、大胆な建築が必要となる。


 だがそうなると、相当な費用が必要だ。いくら賠償金とはいえ、多額にすぎる。


 そこからのマーリカの提案に、重かった人々の表情はどんどん明るく変わっていった。


「第五皇子を中心にゴルゴアの魔導研究所職員含めて魔具制作に携わらせようなんて、よくそんなこと考えつきましたね」

「だって、あの魔力は勿体ないわよ!」


 拳を握り締めて力説するマーリカに、思わずキラは苦笑する。


「勿論監視はつけてもらわないといけないけど、あの人たちはメグダボルにいてもゴルゴアにいても、肩身の狭い思いしかしないでしょう?」

「そりゃまあ、やった内容がやった内容ですからね」

「甚大な被害を受けたメイテール領にとっては、面白くないでしょうけど……」


 申し訳なさそうな表情に変わったマーリカの髪を手に掬うと、キラは赤味を帯びたそれにそっと口づけを落とした。


「……いいえ。恨みに対しての報復は、更なる怨嗟を招くだけですから」


 どの国に置いても持て余す存在になるだろうセルムの身柄を引き取り、同時にゴルゴアの魔導士たちも丸ごと引き受ける。彼らに行なってもらうのは、魔具制作だ。


 マーリカが提案したのはここまでだったが、その後を何だか嬉しそうな様子のムーンシュタイナー卿が詰めていった。マーリカの横では、キラが漏れがないよう補足を入れていく。そしてあっという間に、マーリカの提案は立派な国家戦略に生まれ変わった。


 ウィスロー王国が加害者に寛大な態度を見せることで、新たな国王の国内外にからの評価は高くなる筈だ。それと同時に、町を丸ごとひとつ分湖の上に作らせるという莫大な費用をもぎ取った事実は、それが新たな宰相となるムーンシュタイナー卿の出身地ということで、とんでもない宰相かもしれないと思わせることも出来る。


 新たな国作りを始めるにあたって、一番厄介なのは国内の前王派の反対勢力だ。初っ端に大国と隣国と対等に渡り合えるところを見せれば、父親に退陣を迫る形となってしまったロイ国王の出だしとしてはまずまずといったところだろう。


 旧態然とした全てにおいて遅すぎた前国王の判断は、国を緩やかに衰退させていっていた。だが、これを機にウィスロー王国は、物事を迅速に意思決定出来る活気ある国としての舵を切っていけるかもしれない。


 これではメイテール領への補償が少ない様にも見えるが、先にムーンシュタイナー領が他国の侵略により湖に変えられたと伝わればいい。更にメイテール領の危機を救ったのがムーンシュタイナーの令嬢であり、メイテールの三男が令嬢と恋に落ち公爵領となったムーンシュタイナー領を継ぐとなれば、話題性はたっぷりだ。


 メイテール領とムーンシュタイナー領は姉妹領となり、以後は関係を強化していける。公爵領と辺境伯の結びつきは、双方に利益と安寧をもたらすことだろう。


 この話を早速王都の劇場で演じさせようとロイ国王が爽やかな笑顔で言ってしまった為、キラとマーリカは「嘘だろう」と内心思ったが、国王に反対など出来る訳もなく。


「……お手柔らかにお願いします」


 と引きつった笑顔で言うことしか出来なかった。


 ロイ国王曰く、「これでムーンシュタイナー領の観光収入も上がるのではないか? これまで何もしてやれなかった私からの罪滅ぼしだと思ってほしい」としんみりとした笑顔で言われたが、横に立つムーンシュタイナー卿が物凄い顔で睨んでいたので、きっとそんな優しいだけの理由ではないのだろう。


 ロイ国王がムーンシュタイナー卿を見て小さく笑う。


「帝国メグダボルとゴルゴア王国とも和解してこれからは手を取り合っていく仲になったと劇の最後に盛り込めば、政治批判も起こるまい」

「……うちの娘のことよりも、ご自身の評判を一番気にしてるじゃないですか」


 ムーンシュタイナー卿に突っ込まれ、ロイ国王は笑顔でのたまった。


「新国王は賢王であるという噂が立つ方が、そなたも国の舵取りもしやすかろう?」

「……怖いなあこの人」

「その言葉、そっくりそのままそなたに返すぞ」


 尚、二人のこのやりとりは、小声で行われた。なので誰も他の人間に聞こえていなかったのは、よかったのか悪かったのか。


 ちなみに身柄を引き受けた者たちは、魔具制作に従事させる。ただし作るものは、攻撃性のないものに限るとした。


 魔具は、防御魔法、治癒魔法だけでなく、闇魔法でも結界となるものを作ることが出来る。防御や癒やしに特化したものならば、新たな争いに使用されることもない。


 これを各国のギルドに流通させ、旅人や冒険者の役に立ててもらえたら、観光客もどんどん入ってくるのでは。


 逞しいムーンシュタイナー民ならではの考えであった。


「それにしても、まさかサイファが先にメグダボルに向かっていたなんてちっとも知らなかったわね」

「なんでも、真っ先に皇室付き魔導士のスタンリー・ウォルシュに取り次いでもらったみたいですね」


 ムーンシュタイナー領を出発したサイファは、そのまま真っ直ぐメグダボルに向かったのだそうだ。おたくの第四と第五皇子の捕獲に協力してくれと半ば脅しに近い形で迫り、スタンリー・ウォルシュをゴルゴア王国に引っ張っていった。


 その時に一緒に行動したのが第七皇子のジリアスで、彼は全権を第二皇子から託されてきた。とてつもない信を置かれているとそのことから知ったサイファは、ここは双子皇子だけでなく、自国の国王も同時に退陣させる絶好の機会だと感じる。


 ゴルゴア王国に到着した三人は、密かに第一王子に連絡を取り――そして一気に全てをひっくり返したのだ。


 サイファにとっては、従兄弟とはいえ他国の皇子である。どこまで厳しく対応していいのかと悩んでいたが、スタンリー・ウォルシュが逃げ回るアルムを遠慮なく魔法で攻撃し、最終的に空間魔法の檻に閉じ込め転がし始めたのを見て、笑った。


 ムーンシュタイナー領を後にして、初めての笑いだったそうだ。


 そして今度はウィスロー王国メイテール領へ急行し、後はマーリカたちも知る流れとなる。


 キラが、嫉妬を滲ませた笑顔で言う。


「サイファはマーリカの為に必死で頑張ったんでしょうね。成し遂げたことについては感謝しますが、理由は腹が立って仕方ない」


 剥き出しの敵意に、マーリカは驚くと同時に嬉しくなった。いつもしれっとして何を考えているか分からないことの多かったキラが、こんなにもはっきりと嫉妬を見せる様になるとは、思ってもみなかったのだ。


 だから、マーリカは伝えることにした。


「……私の初恋はキラよ」

「えっ」


 キラが、驚いた顔になる。


「叶わないと思っていた初恋が叶って、キラに恋したままキラのお嫁さんになるのよ」

「お、お嬢……っ」


 真っ赤になって、呼び方がお嬢に戻ってしまっていた。マーリカはにこりと笑うと、照れながら伝える。


「キラしか見えてないから、安心して頂戴?」

「……――お嬢っ!」

「きゃっ!」


 キラはマーリカを勢いよく抱き寄せると、愛しそうに見つめ。


「……俺も、お嬢しか見えてません」


 キラの言葉の後、二人は長い長いキスを交わしたのだった。

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