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生意気従者とマグナム令嬢  作者: ミドリ


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69 討伐後

 マーリカたちが閉じたもの以外にも、魔泉はまだ複数存在していた。


 先に捕まっていた魔導士の自白を元に森を探したところ、隠れ潜んでいたゴルゴア王国の魔導士は一網打尽にされた。枷を付ける者と魔泉を広げる者がいなくなっただけでも、今後の危険度は随分と下がる。


 こうして数日に渡る魔導士の捕縛は、メイテール側にも怪我人は出したもの、なんとか無事に完遂した。残すところは、全ての魔泉の封止と森に残された魔物の殲滅だ。


 キラが参加するだけで、兵たちの士気はとてつもなく上がる。その為、キラは引き続き討伐隊の司令官として、先陣を切って殲滅にあたった。


 魔力は絶対必要だから自分もいくと粘ったマーリカだったが、残念ながら今回は叶わなかった。


 セルム捕縛の翌日に、ムーンシュタイナー領から物資が届いた。そのほとんどは大量の魔魚の鱗の鎧だったが、荷物の中には追加の魔魚の核も含まれていたのだ。


 これを待っていた、とキラとマーリカは早速大量の【マグナム】を作る。だがその所為で、マーリカはとうとう魔力枯渇を起こしてしまい、数日寝込む羽目になってしまった。


 もしかしたら、キラはわざとマーリカが起き上がれなくなるまで魔力を使ったのではないか。寝台でクラクラする視界に耐えながら、マーリカは自分の恋人を疑った。あのキラなら、普通にやりかねない。


 尚、竜が通れるほどに巨大な魔泉は、帝国メグダボルの第五皇子セルムが自ら広げたあの一箇所だけだったらしい。だからもう心配いらないと言い残し、キラはさっさと出かけてしまった。


 キラの部屋の扉の鍵を、外からかけて。


 一切信用されていないことにマーリカは愕然としたが、これまでの己の行いを省みて、まあ仕方ないかと納得してしまった。キラの言うことを尽く無視してきた自覚は十分にある。今は身体も辛いし、と大人しく諦めた。


 捕虜の尋問を担当することになったユーリスは、キラへの報告の為にしょっちゅうキラの私室に訪れる様になった。森にいる時間以外はキラがマーリカの傍を離れようとしないからなのだが、おかげでマーリカも大体の事情を把握することが出来るようになっていた。


 青竜に枷を付けた後、セルムは次の魔泉に向かう予定だったらしい。だが、場所を知っていたゴルゴア王国の魔導士が先に捕まってしまった。その為、あの場から移動出来ずに枝の上に隠れ潜んでいたそうだ。


 他の魔泉を作っていた魔導士たちが迎えに来るまで耐え忍ぶだけの堪え性がセルムにあったら、戦況はもっとメイテールに酷いものに変わっていた可能性もある。


 言い換えれば、セルムの短慮さに救われたと言えなくもない。だが、そんな相手に振り回されたのかと思うと、素直に喜ぶことは出来なかった。


 勝手にやってきて勝手に魔泉と魔物を増やし、メイテールの人々を傷つけた。どう考えてもはた迷惑な行為である。


 結局セルムは黙って見ていることが出来ず、自ら存在をバラした。それは、如何に彼の行動がもたらす事柄に対しての先見性が不足しているか、の証明になるかもしれない。それほどに愚かな皇子を帝国メグダボルは放置し、ゴルゴア王国は来賓として遇していたのだ。


 友好国ウィスロー王国に対し、帝国の皇子セルムとゴルゴアの魔導士が明確な悪意を以て争いを仕掛けたのは、最早誰の目からも明らかだった。子供にだって、この身勝手な彼らの行動理論はあまりにも短絡的だと分かるだろう。


 言い訳のしようがない状況に陥ったゴルゴアの魔導士は、ようやく自分たちが犯した罪の重さに気が付いたらしい。本国は関係ない、悪いのは調子に乗った自分たちだと泣きながら、今更の様に謝罪を始めた。


 突然曇っていた(まなこ)が鮮明になったかの様な彼らの急激な変化に、メイテール側はうす気味悪いものを感じる。そして、ひとつの仮説に辿り着いた。


 セルムが得意とする闇魔法には、洗脳の類の魔法も存在する。彼が意図的に行なったかは別として、彼が研究に加わった途端に同じ思考に染まっていったこと自体が、本来は疑うべき状況だったのに違いないと。――ゴルゴアの魔導士は、気付かぬ内に洗脳されていたのだろう。


 捕縛後、セルムから距離を置いた彼らは、夢から覚めたかの様に一斉に己の非を認め泣き喚いた。ゴルゴアの魔導士たちの悲壮な姿を見て、おそらく推測は事実だろう、とメイテール側は確信する。


 操られていたとすれば、情状酌量も考えうる。だが、彼らにその意思はなかったのかと考えると、全くなかったとは言えないだろう。彼らは、日頃は抑えていた欲を表に出したのだ。


 事件が自国内でのことならともかく、これは明確な外交問題だ。洗脳され仕向けられていたとしても、為してしまったことは取り返しがつかない。


 森から魔物がほぼいなくなったと確認された頃、ようやくマーリカも寝台から起き上がってもキラに文句を言われない様になった。


 キラが命じた第四皇子アルムの身柄引き渡しは、当然ながらメイテール単体で行なうことは出来ない。その権力を持つウィスロー国王に謁見する為、現在領主代行をしている長男のオージンが王城へと向かった。だが。


 今回の有事の際、国防の要であるメイテールに対し兵力を一切割かなかった臆病な国王は、当初オージンが謁見を求めてもすぐには応えなかった。


 そこでオージンは、ダメ元で噂のムーンシュタイナー卿を頼る。これにははっきりとした理由があった。


 ウィスロー国王は、これまで忠臣の言葉を聞き入れず、佞臣(ねいしん)の甘言ばかりを受け入れていた。だというのに、たかが男爵にすぎないムーンシュタイナー卿は、ケチな筈の国王から支援金をもぎ取ったのだ。


 それを知ったウィスロー王国の若き王太子は、熱意を以て国王の心を動かしたムーンシュタイナー卿の手腕を買い、自分の助言役として熱烈に勧誘していたところだった。


 キラが、温度が感じられないひと言を吐く。


「熱意」

「うん……まあ、生真面目で真っ直ぐな殿下だからな。そう捉えられたのだろう」

「それは随分と善意的な」

「まだ年若いのだ。そう言うな」


 キラの言葉に、ユーリスは苦笑で返した。


 城勤めをしているユーリスにとって、王太子は身近な人物なのだろう。国王について語る時の様な嫌悪感はユーリスの顔には見られず、年の離れた弟を語る様な雰囲気だった。


「殿下は成人してもう二年が経つ。そろそろ国政にも深く携わりたいと再三陛下に訴えていらっしゃったのだが、陛下に『まだ早い』と相手にしていただけていなくてな」


 マーリカは王都の事情にはあまり詳しくない為、その辺りの情報は全くの初耳だ。だが、その内容の異様さは、大して政治に詳しくないマーリカにも理解出来た。


 本来王太子は、成人前から国政の一部に携わっているものだ。幼い時分は福祉などの国内事業に、成人後はもっと範囲を広げ外国との折衝なども覚えていくものだというのが、この国の常識だ。


 それをさせていないというのには、王太子側に問題があるのか、それとも。


 ユーリスの言い回しだと、後者の方が可能性は高そうだ。自国のあまり楽しくはない話題に、マーリカは背筋がひやりとするのを抑えることが出来なかった。


 耐え切れず、マーリカは尋ねる。


「……一体何故です? 後継者は早目に育てないとでしょうに」

「殿下曰く、権力を奪われると恐れているから、らしい」

「は?」


 思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまったが、キラはとっくに知っていることなのか、小さく頷いただけだった。


「我が国の規律は古臭く、諸外国から遅れをとっている。指摘した臣下は、国政の中枢から引き離されているのがここ数年の動きでな。殿下も改革をと再三国王に申し上げてきていたが、味方を排除されここ最近は議案にのぼることすら減っていたらしい」

「そんな」


 それとは別に、とユーリスが少し声を落として続ける。


「散々うちの邪魔をしてきた公爵がな、殿下に取り入ろうとしていた時期があった」

「えっ」

「あのバカ公爵親子ですか」


 キラの声は、恐ろしいほどに冷たかった。


「ああ。だが、殿下は寄宿学校時代の話を在学中に聞いていらっしゃったからな。公爵令息が何をやったのか、公爵がどうやって揉み消そうとしたのか、全てを存じ上げていたよ」


 だから王太子は、公爵を取り立てようとはしなかった。


「公爵は、陛下のお気に入りだからな。殿下は太子に相応しくないと、陛下に進言していたそうだ」


 それを忠臣から聞いていた王太子は、虎視眈々とその時が来るを待っていた。


 ユーリスが、にやりと人の悪そうな笑みを浮かべる。


「その起爆剤がムーンシュタイナー卿その人、ということだ」

「お父様が?」


 思ってもみない内容に、マーリカは目を大きく見開いた。

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