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生意気従者とマグナム令嬢  作者: ミドリ


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47 キラの過去

 キラという名は、家族やごく親しい者だけが呼んでいた愛称だ。本名を、キーラム・アルバトナ・メイテールという。


 西側の国境を守る役割を担う辺境伯である、メイテール侯爵家の三男。ウィスロー王国建国の際に重要な役割を果たした祖が持っていたとされる、銀髪に青目を持って生まれた。


 その色味を持つ者は、精霊の血が混じっていたという祖の血を色濃く受け継ぎ、魔力操作に非常に長けた特性を持つのだという。


 キラもその特性を見事に受け継ぎ、子供の頃から魔力操作はお手のもの。残念ながら魔力量は並程度で、大技を繰り出すにはやや心許ない量ではあったが、それを余裕で補えるほどの能力があった。


 幼い頃のキラは背が低く、元々やや中性的な顔立ちなのも相まって、女の子と見紛う可愛さであった。元が中性である精霊の血の特性だろうと周りは言ったが、キラは父や兄の様な逞しい武人に憧れを(いだ)いていた。


 その為、兄たちに混じり日々剣の鍛錬を行ない、少しずつ筋肉も付き、段々と男らしい見た目になってきていた。


 それでも「大きくなったら俺の女に」と言われることもあったが、鍛え上げた腕力と持ち前の魔力を駆使し、キラをからかう輩は叩きのめしてきた。


 ウィスロー王国とゴルゴア王国の国境には、幅広い河川が存在している。水の恩恵を受けているからか、川沿いには広大な森が広がっており、時折中型から大型の魔物が現れることがあった。


 魔物退治は、メイテール軍のいい鍛錬ともなる。十歳を超えたあたりから、キラもその討伐隊に混じり森へと入っては、魔物を倒す様になった。


 メイテール領主である父は立派な武人で、長兄はその後継ぎとして既に父の補佐を十分にこなしている。次兄のユーリスは当時王都の寄宿学校に入っていたが、成績は優秀で、一年目にして既に騎士団から勧誘を受けていた。


 ある日、次兄の婚約者である、幼馴染みではとこのアリアが、「騎士団て格好いいわよね」と言った。ユーリスにベタ惚れなのをよく知っていたキラは、アリアがユーリスのことを指しているのは理解していた。


 だが、確かに騎士団という響きはなかなかにいいかもしれない。キラは、ならば自分も目指そうと考えた。


 理由は単純だ。


 領地内では、気の置けない友人が非常に作りにくい。立場の所為か、それとも親から懐に入り重用される様に振る舞えとでも言われているのか、近寄ってくる歳の近い令息は、キラが理不尽なことをしても諌めたりはしなかった。


 その為、共に笑い合える様な友がいなかった。寄宿学校に入学し、そこで得た友と騎士団で活躍するという未来は、当時のキラにとってはとても魅力的に映った。


 ちなみに令嬢はどうかというと、まだ婚約者のいないキラに気に入られろとでも親に言われているのか、やたらとベタベタと触れてくる者が殆どだった。


 まだ色恋沙汰などよく分かっていない、アリア曰く『脳筋』のキラは、結果としてこちらに色目を使ってこない、キラに遠慮なんて全くしないアリアとばかり過ごす様になっていた。


 そして十三歳になり、キラとアリアは寄宿学校に入学した。ユーリスは既に騎士団員として王都に住んでいた為、アリアの卒業後、社交界デビューでユーリスがアリアをエスコートし、その場で正式に結婚を申し込む予定になっていた。


 弟のキラを溺愛するユーリスは、キラの友で居続けてくれるアリアにとても感謝しており、いつしか愛しいと思う様になっていた。アリアのユーリスに対する熱意が物凄かった所為も、もしかしたらあるかもしれない。


 だから、ユーリスは小さな騎士であるキラに言ったのだ。「俺の大切な婚約者殿をしっかりと守ってくれ」と。


 その言葉が、キラの未来を狭めるとも知らずに。


 宿舎学校に上がると、キラは勉学に励んだ。周りには上は公爵から下は男爵の子が通っており、これまで領内で領主の子息という窮屈な立場に置かれていたキラは、これを喜んだ。


 すぐに友人も出来、毎日を楽しく過ごした。時折権力を振りかざす馬鹿令息もいることにはいたが、学生の本分は学業だ。成績上位を収められない者がいくら威張ったところで、認められはしないことが分かると、彼らは次第に大人しくなっていった。


 初年度は、大きな問題もないまま恙なく過ごせた。


 問題は、二年制の上級学年になった時に起きた。


 下級学年の時は上級学年がいたからか大人しかった者たちが、幅を利かせ始めたのだ。その筆頭が、公爵令息とその取り巻きたちだ。


 公爵令息は、無類の女好きだった。自身には正式な婚約者がいたが、五つも歳が離れており、さすがに子供に手は出せない。その為、公爵令息が多少の火遊びをしても、公爵は大目に見ていたという。子供さえ外に作らなければいいと言われたらしい公爵令息は、段々と調子に乗った。


 週末に王都に繰り出し、商売女やすれた町娘と遊んでいた公爵令息だったが、休日だけでは我慢が出来なくなったらしい。やがて、学園内で女生徒をつまみ食いする様になった。


 相手が「あわよくば」と考える様な女生徒である内は、それでもまだよかった。だが、やがて彼はやる気のある女生徒では物足りなくなってしまった。


 次に手を出したのは、下級学年でその美貌が有名な、子爵令嬢だった。


 彼女には、婚約者がいた。卒業後、結婚することも決まっていた。だが、公爵令息は公爵の名を利用し彼女をひとりおびき寄せ、無理やり自分のものにしてしまった。それを知った婚約者は、公爵家に賠償金の請求をし、あっさりと支払ってもらった後、即婚約を破棄。誰ひとり庇ってくれる者がいなかった子爵令嬢は、そのまま公爵令息に好き勝手されていた。


 そんなある日、避妊魔法を掛けられていない時に子爵令嬢は妊娠。途端、公爵令息は興味を失い、公爵令息の取り巻きのひとりに押し付けてしまった。お前の家の誰かが面倒を見てやれと。子供が生まれた後には、また自分が可愛がってやるからと。


 だが、実は公爵令息の相手はその子爵令嬢だけではなかったのだ。他にも何人も、知らない間に公爵令息の毒牙にかかっていた。もういらないと公爵令息が思った令嬢は、公爵令息に楯突いた令息の家に圧力を掛け、無理やり嫁がせた。その中には、最初の子爵令嬢同様、妊娠している者もいたという。


 ここまで好き勝手にやると、さすがに学園としても黙ってはいられない。幾度か公爵家に訴えたが聞き入れてはもらえず、逆に寄付金を削るとまで言われる始末だったそうだ。


 学園を黙らせてしまった公爵令息は、更に好き勝手に振る舞い始めた。


 そして最後に目を付けられたのが、アリアだったのだ。


 アリアははっきりとした性格の持ち主で、メイテールの血を受け継いでいることもあってか、キラにもよく似て美しく成長していた。


 公爵令息は、相手に婚約者がいようがお構いなしだ。当然の様にアリアに粉をかけ、きっぱりと断れたことにより、燃えてしまった。初めは大人しく。やがては大胆に。


 このままだと、アリアの貞操が危ない。そう判断したキラは、アリアの傍を騎士の如く離れなくなった。だが、キラの見た目はまだ可愛らしさが残っており、公爵令息はキラを舐めてかかった。


 ある日、キラとアリアが同時に、公爵令息の取り巻きに攫われてしまった。それまでは、曲がりなりにも相手は公爵家だから、とキラも我慢していた。だが、連れ去られた場所で待っていた公爵令息が、アリアの服をキラの目の前で脱がせにかかったのを見た瞬間――。


 キラの理性が吹っ飛んだ。

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