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生意気従者とマグナム令嬢  作者: ミドリ


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43 全貌が明らかに

 黒竜がムーンシュタイナー領に落ちてくるまでの経緯を一同に説明したサイファは、ゴホンと咳払いすると、続きを語り始めた。


「俺は双子に、黒竜がどこに落ちたのか確認してこいと命じられた。生きて暴れているならいいが、死んだのであれば、核に植え込んだ枷からゴルゴア王国の関与が疑われるかもしれない。お前はそれを看過出来るのかってね」


 双子の皇子のあまりにも勝手な言い草に、マーリカの開いた口が塞がらなかった。要は、国と父である国王を追い詰めたくなくば、自分の意思で回収してこいと言われた様なものだ。人の国に突然逃げてきて好き放題に振る舞い、問題を起こしたら他者に尻拭いをさせる。とんでもない身勝手さである。


 それはキラにしても同意見だった様で、思い切り顔を顰めながら、思わずといった体で吐き捨てた。


「そいつらは他国の皇子の癖に、随分と偉そうだな」


 キラの意見に反論するものなど、ここにはいない。サイファはへにゃりと眉を垂らすと、乾いた笑いを漏らす。


「そうだな。俺もそう思う。自分たちがやったことを何故人に押し付けて笑っていられるのか、俺にはさっぱり理解出来ん」


 平穏に暮らそうと思えば、母の祖国であれば出来た筈だ。彼らは、その機会を自ら壊した。自暴自棄になっているのか、それとも行動の根底には何か明確な意思があるのか。こればかりは、本人たちに直接聞いてみないことには判明しないだろう。


 サイファが続けた。


「だが、自国の保護の為には、時に理不尽と思える問題にも対処せねばならない。誰が問題を起こしたかに関わらず、問題が大きくなる前に動かねば周辺国に足許を見られるからな」

「それはまあそうだろうが」


 サイファの言うことは尤もであるが、本人とて納得はしていないのだろう。悔しそうに握り締めた拳には爪が食い込み、白くなっていた。


 黒竜が落ちた場所が片田舎のムーンシュタイナー領で、且つマーリカが水魔法で黒竜を消滅させてしまった為、対外的には大事にならずに済んだ。勿論ムーンシュタイナー領にとってはとんでもない厄災であったことに代わりはないが、たとえばこれが王都だったのなら。ムーンシュタイナー領では人死は出なかったが、王都であれば建物は崩壊し、幾人もの命が失われていただろう。


 だが、突如現れた黒竜が街を焼いたとしても、通常はこれを人為的なものだとは考えない。件数こそ多くはないが、大型の魔物が暴れることは稀にあると聞く。だが、先程のサイファの言い方だと、まるで誰が見ても魔物に人為的な関与が疑われてしまうかの様である。


 黒竜にはある程度近付いたが、黒竜は地面に倒れ伏しており、辺りには炎が燃え盛っていた。何か変わった特徴があったのでは、と記憶を辿ってみたが、マーリカの記憶には残ってはいなかった。後でサイファに聞いてみよう。マーリカは一旦この件は横に置いておくことにした。


 マーリカが考え込んでいた間にも、サイファの話は続けられている。


「知っての通り、ゴルゴア王国は五カ国に囲まれている。あっちの国が落ち着いたと思ったら、今度はこっちの国が問題を起こす。王家としては、対処する案件が尽きない。難民が流れてくる時もあれば、小規模な抗争が勃発することもある。国内が落ち着いていても、外的要因で内政はすぐに揺さぶられる」

「確かに、聞くだけで頭が痛くなりそうだねえ。僕だったら閉じこもって出てこないだろうなあ」


 ムーンシュタイナー卿が、彼らしい呑気な感想を述べた。心の中で、絶対これ以上責任なんて増やしたくないとでも思っているのだろう。


 ムーンシュタイナー卿の緩い雰囲気に和んだのか、サイファの顔の強張りが若干だが和らいだ。


「はは、俺もだ。まあでも、王である限りは逃げてはいられない。ならばせめて帝国に送り出した妹が祖国に支援してくれればいいのに、妹は皇帝の寵愛を得ようと躍起になるだけで、ゴルゴアの利益になる様なことは一切行なわなかった」

「それはまあなんと……」


 ユーリスが、呆れた様子で声を漏らした。それはそうだろう。何の為に帝国の皇帝にたったひとりの妹を嫁がせたのか。男同士はその意味が分かっていたとしても、姫が全く理解していなかったと分かった時の衝撃は、言葉には言い表せないものだったのではないか。あまり政治に精通しているとは言えないマーリカにだって分かるというのに。


「一夫多妻制でない国の姫が一夫多妻制の大国に嫁いだら、それまで蝶よ花よとチヤホヤされていたお姫様にとっては、一番でないことが耐えられなかったんだろうとは思うが……」


 サイファがボリボリと頭を掻くと、キラが小さく「はあ……」と溜息を吐いた。


 自分が一番だと思って過ごしてきた姫の嫁ぎ先には、様々な身分の女が妃としていた。しかも、帝国では子供が生まれた順番は関係がない。全てがあまりにも平等すぎて、気位の高い女には耐えられなかったのかもしれない。


「妹は一切役に立ってくれなかったが、その子供は力の使い方をよく知っている。……父は、国政に疲れ切っていたのだと思う」


 正妃が頼りになるのであれば、また違ったのだろう。だが、不仲である正妃は己の趣味に傾倒し、国政を助けようとはしなかった。妾は聡く頼りになったが、表舞台には立つことは出来ない。王太子は出来のいい息子ではあったが、あの正妃の子供だ。いまいち信じきれない部分があった国王は、誰を信じたらいいのか分からなくなってしまったのかもしれない。


 考えることに疲れてしまった。だから双子の甘言に心を癒やされた。そういうことなのかもしれないな、とマーリカは小さく頷いた。


「……父の命令もあり、俺は黒竜が通った道を辿り、ムーンシュタイナー領まで辿り着いた」


 だが、とサイファが視線を落とす。


「黒竜の死体があった場所に魔泉が出来水没した為、黒竜の枷付き核の回収は不可能との報告を送った。こんなことを続けていれば、いずれ他国から目を付けられるが、今なら辛うじてまだ戻れる。だから研究はこれを機に終了とし、実験体としてゴルゴアに囚われている魔物を早急に処分する様に、と伝えた」

「で、素直に聞いたのか?」


 キラの問いに、サイファは目線を落としたまま首を振った。


「報告書には、ちゃんと書いたんだ。これ以上ゴルゴアの手を煩わす様なら、帝国メグダボルに事情を説明しお迎えいただくこともお願いするかもしれないと。あいつらは、ゴルゴアからも追い出されたらもう行く場所はない。だからこれで終わると、そう思っていた」


 だが、とサイファは苛立ちを隠さずに続ける。


「あいつらは、俺に魔泉を広げてムーンシュタイナー領に魔物を溢れ返らせ、それから帰って来いと言った。これだ」


 サイファはそう言うと、懐から革袋を取り出した。中から出てきたのは、手のひらの上で転がる大きさの黒光りする球体だ。【マグナム】と同様、魔力を封じられた魔具だろう、とマーリカはあたりをつける。


「――は?」


 サイファの言葉を聞いた瞬間、キラが物凄い剣幕でサイファに掴みかかった。


「どういうことだ!」

「待て、キラ! 俺はこれは一切使っちゃいない!」

「当然だろうが!」

「まあまあ、キラも落ち着いて」


 相変わらず緩い雰囲気のムーンシュタイナー卿が二人の間にするりと入り込むと、キラはサイファを睨みつけながらもサイファを掴んでいた手を降ろす。


「俺は、これを受け取った。受け取らなければ、他の人間がこれを使って魔泉を広げるだけだと思ったからだ」

「……受け取ったのはいつだ」

「今日受け取ったばかりだ。あいつらからの使者は、市場に出てくる俺を監視していたらしいからな。普段はお前とマーリカと一緒にいるから、なかなか渡せなかったらしい」


 サイファは、監視が付けられたのはサイファが黒鳥に括り付けられた伝書を読んだ辺りからだと睨んでいた。あれを送ってすぐ闇の魔具を作成し、使者に持たせたのだろう。そして機会をずっと窺っていた。


「その時、伝言を伝えられた。もうすぐ、とある場所で実験を行なう予定だと。ゴルゴアで行なうのは危険過ぎ、帝国の領土で行なうのも現時点では憚られる。その為、今回黒竜が落ち甚大な被害が出たにも関わらず一切騒ぎもしなかった国なら、実験に最適だ。そこでの実験結果を確認して欲しいから、一旦帰国しろ、と」


 サイファの言葉に、キラとユーリスが目を見開く。


 マーリカは、これでようやく全てを理解した。何故サイファがしきりに「知らなかった、信じてくれ」と言っていたのかを。


 実験場に選ばれたのは、ウィスロー王国とゴルゴア王国の国境近く。


 キラとユーリスの出身地、メイテール領だったのだ。

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