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生意気従者とマグナム令嬢  作者: ミドリ


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18 ムーンシュタイナー家の晩餐

 サイファの生国であるゴルゴア王国は、ムーンシュタイナー領があるウィスロー王国の西側に位置している。


 国土は縦長で、西側は全て大国である帝国メグダボルに面していた。大陸の中では、中程度の国土を持つ。


 帝国メグダボル、ウィスロー王国の他に三カ国と国境を接しており、大陸の東側の国々の中には好戦的な国もあれば荒れている国もあったりと、地理的に常に気が抜けない国だった。


 そんなゴルゴア王国は、自国の安全の為、帝国メグダボルの皇帝に自国の姫を差し出した経緯がある。完全なる政略結婚だ。


 ゴルゴアの姫は皇帝の第二妃となり、現在は双子の皇子の母となっている。その為、現皇帝下では、ゴルゴアの思惑通り同盟国扱いとなっていた。


 だが、帝国メグダボルには厄介な決め事があった。その結果如何によって今後この大陸の平和を左右する、と言っても過言ではないものだ。


 次期皇帝の選出方法である。『英雄の称号』という精霊からもらえる祝福の(あかし)を手にした皇子のみが、その座を手にすることが出来るのだ。建国時に結んだ精霊との盟約がある為、約束を(たが)うことは許されていなかった。


 つまり、他国とは違い、嫡子であろうが太子となるとは限らない。これが代替えの度に国だけでなく大陸に存在する列国が揺らぐ原因ともなっていた。


 風の噂では、現在すでに第二皇子が次期皇帝に決定しているらしい。ちなみに帝国メグダボルには全部で十人の皇子がいるが、最有力候補だった同腹の第一皇子と第三皇子は旅の最中で行方不明となり、現在も見つかっていないそうだ。


 ゴルゴアの姫、第二妃が生んだ第四・第五皇子は現在、「旅の疲れを癒す」目的でゴルゴアに遊学中となっている。


「――で、どちらに付くか、ここ最近国の中でも議論が割れていまして。国内がざわついて落ち着かないので、こうして国を出、旅をしながら各地の名産料理を楽しむことにした訳です」


 ひょい、ぱく、とムーンシュタイナー領新名物『魔魚のホクホク目玉揚げ』を摘んではホクホク口の中で転がしながら、そのゴルゴア王国からやってきた元傭兵・サイファが説明した。


「どちらに付くも何も、皇帝が存命な間は同盟が続くんじゃないの?」


 と、これはムーンシュタイナー卿の言葉だ。


「それが、皇帝は後継が決まったなら早く引退したい、と言っているとか」

「まあね。気持ちはよーく分かるよ。跡継ぎが決まったら、僕だってさっさと引退して余生を楽しみたいもんねえ」

「そ、そうですか……」


 サイファが、引きつった笑いを浮かべた。


 居心地が悪いのだろう。サイファは今度は魔魚の甘辛煮付けに手を伸ばすと、口一杯に詰め込んだ。正面に座るマーリカと目が合ったのでマーリカが微笑むと、サイファの強張った表情が少しだけ緩まり微笑み返される。そしてマーリカの隣に座っているキラの目を見て、サイファは笑みを引っ込めた。


 視線を料理に落としてパクパク口に運んでいるサイファを見たマーリカは、サイファは余程魔魚が好きなのね、と感心する。検討外れなことに、本人は一切気付いていない。


 何故こんな状況になっているかというと。


 現在、ムーンシュタイナー卿、マーリカ、サイファとキラは、四階にある、元は空き部屋、現在は領主一家の居間となっている小広間で食卓を囲んでいるところだった。給仕は、執事ゴーランの妻マーヤとキラが行なっている。ちなみにキラは「俺従者なんですけどなんで一緒に食事するんですか」とよくこぼしているが、キラを片時も離したくないムーンシュタイナー卿とマーリカに漏れなく無視されていた。


 そんな中、マーリカの護衛役を宿泊代の代わりにすると名乗りを挙げてくれた奇特な人物がいると聞きつけ、ムーンシュタイナー卿が是非一緒に食事をとサイファを誘ったのだ。


 さすがに相手が領主ともなれば畏まった喋り方をしていたサイファだったが、ムーンシュタイナー卿が気を遣わなくていいとサイファに親しげに話しかける為、サイファは距離を測りかねている様だった。普通では考えられない距離感に、サイファは戸惑いを隠しきれていない。


 ムーンシュタイナー卿が用足しで席を外した際、マーリカとキラに「あの方は領主だろう? 不敬だとばっさり切られないか?」と不安げに尋ねていたから、どこまであの領主は本気で言っているのかと勘ぐっているのかもしれなかった。


 なお、「俺従者ですけど」と言いながらマーリカの隣に座るキラを見て、一応は安心したらしい。幾度も首を傾げてはいたが。通常であれば、サイファの反応が一般的な反応で正しい。おかしいのはムーンシュタイナー側の人間である。


 ムーンシュタイナー卿が、虚しそうな笑いを浮かべる。


「それにしても、そっかあ。ゴルゴア王国がそんな感じだから、だからうちの領に援助が回ってこなかったってことだよね……ははは」


 ムーンシュタイナー卿の言葉に答える者はいなかった。そうですね以外の言葉が思い浮かばなかったからである。悲しい事実を重ねて肯定されてもあまり気持ちのいいものではないだろう、というマーリカの配慮でもあった。


 キラに関しては、泣きつかれるのが嫌なので黙っているとみた方が正しいかもしれないが。


 誰ひとり声を発しないので、ムーンシュタイナー卿は更に続ける。


「……はあ。本当いい迷惑だよ、全く」


 しょんぼりと肩を落とすムーンシュタイナー卿に、見かねたマーリカは励ましの言葉を掛けることにした。いくらムーンシュタイナー卿が情けない領主であろうとも、マーリカにとってはたったひとりの大切な家族だ。大好きな父親の笑顔の為だったら、マーリカは張り切るのだ。


「お父様! 私が頑張りますから、元気を出して下さい!」


 勇ましく両方の拳を握ってみせたマーリカを見て、ムーンシュタイナー卿のそれなりに領主然としていた表情は一気に崩れ去った。


「へへ、やっぱり僕のマーリカは優しいなあ!」

「私はいつでもお父様の味方です! 私だって頼りになることを証明してみせますから!」

「お嬢、突っ走る前に必ず俺に相談ですよ。分かってます?」


 実に嫌そうに自身の主人に生意気な口を利くキラを見ても、マーリカもムーンシュタイナー卿も一切気にしない。むしろ、二人とも目を輝かせてしまっている。


「やっぱり僕らのキラは頼りになるなあ!」

「キラ、必ず相談するから!」

「そう言って俺に一切相談なく市場で勝手に口上述べ始めたの誰でしたっけ」

「う……っ」


 キラにジト目で見られてしまったマーリカは、思わず目を逸らした。そこに都合よく「口上って?」とムーンシュタイナー卿に不思議そうに首を傾げられたので、渡りに船だとばかりに父親に今日あった出来事を説明するマーリカなのであった。






※帝国メグダボルと『英雄の称号』については、R18のBL小説『愛しのハズレ皇子観察日記』で詳しく説明がありますが、読まなくてもストーリー上問題ありません。

なお、こちらはHENTAI天才魔術師スタンリー(攻め)xハズレ皇子(受け)となっており、かなり色々攻めた内容で書いてますので、HENTAI攻め視点でもイケるという方はよろしければ覗きに来て下さい。完結済です。

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