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二話

  さて、今日も今日とて日銭稼ぎである。いつも通り武具を装備し、小物類はリュックに詰めていく。

  ……一応リュックはもっている。例によってボロいリュックだが、機能的にはそこまで問題ない。ほんの少し汚れていて、ちょっとだけ穴が開いている程度……問題ないのだ。



 ――探索者ギルド内


 

  いつもは起きてから準備を整え魔塔に直行コース。なんだが、今日はギルドの依頼を確認してから行くとしよう。少しばかり余分な金が欲しいからだ。理由は背中に背負っているコイツ(大剣)。自分で研いだり手入れをしているが、さすがに素人仕事じゃ限界が来る。だから本職がいる鍛冶屋に持って行きたい。ちゃんとした整備をしないともしもの時がこわい。だから俺は定期的に多めに稼いでいる。痛い出費だが、すべては日銭稼ぎのためだ。


 今日のギルドはいつもより人が少ない。たまにこういう日もある。多分今日が休日な人間が多いのだろうと推測。探索者にもよるが、ほとんどはパーティを組んで魔塔を探索する。そのメンバーの一人でも休んでしまえば、パーティ全体がストップだ。欠けた状態で探索しても痛い目に合う可能性が高いだろう。だからパーティ単位で休日を作っている、と先輩探索者に聞いたおぼえがある。

  まあソロの俺には関係ないけどな。


「おっ……」


  俺の目当ての依頼があった。ゴブリンの素材収集である。内容はいたって簡単。ゴブリンたちが所持しているよくわからない木の実を手に入れればいい。つまりいつもどおりゴブリンをぶった切るだけだ。実に簡単。


 依頼ボードに張られたその紙を剥がし、受付へ持っていく。持っていくの先は総合受付だ。ギルドへ入って真っ直ぐのとこだ。ここの担当の職員は美人なお姉さんだ。


「これ、お願いします」


「はーい。……いつものね。受諾しました」


 正直俺はこれしか依頼を受けていない。だから受付の女性もこなれた様子で紙を受け取る。その紙にサラサラと何かを書き足し、横の受諾ボードに貼り付けた。


「気を付けてね。君、ソロで塔に行ってるみたいだから」


  今日は心配してくれた。ちょっとうれしいな。


「はい。無理はしません」


  俺はそう返した。

  日銭さえ稼げればそれでいいからな。





 ――魔塔 第一階層




「……おかしい」


  魔塔に入ってから30分は経った。けれどもまったくゴブリンが見つからない。とりあえず人を見かけたら襲い掛かってくるあの低能どもがまったくいないのは明らかに変だ。


  「誰かが先に狩りつくした?……いや、ないな」


  そう口に出したが、即座に否定する。

  俺以外にゴブリンなんて狩ってるやつは見たことない。

  新人になりたての探索者は最初の練習相手にゴブリンを選ぶが、慣れるとさっさと上の階層に行く。もしくはそのままおっ死ぬかの二択だ。


  だからおかしい。何か異常が起きている、と思う。



  ちなみに魔塔の魔物は時間経過で復活する。原理は解明されてないが、魔物は塔の魔力で生成されているらしい。ギルド内にある資料室で読んだ。


 それはさておき。


  ……あと少し探して見つからなかったら、今日は帰るか。


「けど、あらかた探しつくしたが……」


 リュックから地図を取り出し眺める。ほとんど歩きつくした。あと残っているところは……


「そうか。2階層への階段付近か」


  すっかり階段エリアの存在を忘れていた。


  普段まったく近づかないエリアだから無意識に足が離れていたみたいだ。

  魔塔の次階層への階段があるエリアは、ほかの通路より広い作りになっている。よくそこで休憩している探索者がいるらしい。これも聞いた話だ。俺は直帰するから関係ない話だった。


 もしかしたら階段付近にゴブリンが集まっているかもしれない。そう考え足を進める。


「待ってろよゴブリン今行くぞ」



  ……それにしても他の冒険者も見かけないな。




  階段エリアに徐々に近づいていくにつれて鉄同士がぶつかる剣戟のような音が聞こえてくる。

  やはり階段エリアにゴブリンがいたのだろうか? そこまで考えて違和感を感じた。

  この距離なら騒がしいゴブリンたちの興奮した声が聞こえていてもおかしくはないが……


  嫌な予感がする。


  階段エリアに足を踏み入れると一人と一匹が激しく戦っていた。


「アイツは……」


  パッと見は甲冑を着込んだ騎士だが、中身はおそらく違う。見たことはなかったが……多分ゴブリンナイトか? 鎧の隙間からチラリと見える肌は緑色。それに少しだけ損傷している兜からは凶悪な顔がのぞいていた。

 

「加勢する」


「!? た、助かるよジン君!」


  戦っていたのは、俺によく絡んでくる探索者のレイラだった。

  レイラとゴブリンナイトの間に入るように滑り込み、大剣を逆袈裟に斬り上げる。


  ――ゴギィン!


  重い撃音が鳴り響く。ゴブリンナイトは俺の剣撃を己の得物で受け止めたが、大剣を振り切って膂力で吹き飛ばす。

  だが、体勢は崩せていない。


『グルル……』


 突然介入してきた俺に警戒しているのか動きが様子見に変わっている。俺も油断なく武器を構え横目にレイラを見る。体のあちこちがボロボロだ。皮鎧も裂けており血がにじんでいる。トレードマークの二本のショートブレイドも片方が折れていて悲惨だ。


「話してる暇があるかわからないが、一応聞こう。なぜここにゴブリンナイトが?」

 

  事情を知ってるかわからないが、俺はそう訊ねる。


「……進化したのさ。この階層のゴブリンを犠牲にね」


「それは……」


  存在進化……というやつだろうか。魔物の中には縄張りを持つ個体もいる。その魔物同士が争い、勝ったほうが負けた魔物の力を奪う。そうやってたまに魔物が進化すると本で見た。中には稀に頭のいい個体が自らを強くするためにそういうことを思いつくらしいが……ゴブリンがそんなことを? にわかには信じられなかった。


「あの低能どもにそんな知恵があるとは思えないが……」


「そのとおり! このゴブリンは私が育てたと言っても過言じゃないね!」


 

  ……は? なにを言ってるんだこの女。



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