殿下を再教育して差し上げます!大丈夫!きっと賢王なれますから!
初投稿です。よろしくお願いします
ずっと私を憎んできた目が目の前にある。
私がどんなに彼好みになろうと見た目を磨こうが、彼にふさわしくあろうと勉強しようが、何も変わらなかったようだ。
それでも、私は彼を愛してしまっていた。
なんて。そんなわけがない。
「シエラ!お前を婚約破棄する!」
王家主催のパーティーで声高々とそう告げられたのは私、アリトス・シエラ。公爵家の一人娘である。
私の婚約者のはずの王太子は近くに男爵家の可愛らしい女をはべらせて威圧的な表情で私を睨んでいる。
こんな事態になったのは彼のせいでは無い。
彼の教育を間違えた人達が悪いのだ。
1人しかいない跡継ぎにもかかわらずこんな失敗作を生み出すなんて、末代まで恥ずべきことでは無いか。
ああ、可哀想な殿下。
繰り返し言うが彼に罪は無い。
だから私は彼を憎むことは無いのだ。
もう、12年も前から、私は彼を憎いと恨めしいと思ったことなどないと誓って言える。
もはや、母の気持ち!
私がこんな出来損ないを産むことはないが、達観した感情を持つうちに彼には聖母のように寛大な心を持つことが出来た。
またワガママ言ってらっしゃるのね?
今度は何が気に入らないの?ほら。お母さんに話してご覧なさい、、?
本当に聞き分けのない子なんだから、貴方ったら、、、
「シエラ!聞いているのかッ!」
「あら、、、ごめんなさいまし。ええと、婚約破棄でちゅね。承りましたわ」
「うけ、、っ承っただと!?しおらしい振りをしおってこの毒婦が!」
毒婦!まあまあまあまあ!この子ったら、そんな言葉をどこで覚えたのでしょう!
子供の成長というのは案外早いものなのですね!
それにしても、誰がここまで育てたと思ってるのでしょう。
私でしょ?
恩人に向かって。毒婦。
私を、毒婦と言うのですね?
あなたが、よりにもよって、あなたが言うのですね?
なるほど。、分かりました。
ええ、わかりましたとも。
「どっちなんですの?婚約破棄したくないんですか?分かりました。あなたがお望みとあらば、この婚約を継続致しましょう。」
私はお母さんだもの。
彼が独断で行った婚約破棄(仮)は現王と王妃によって当然のように無かったことにされた。
男爵家の可愛らしい子は身分剥奪の予定らしいが王太子が減刑を乞うているらしい。
私は彼の教育に夢中だった。
「まあまあまあまあまあ!また毒婦ですの殿下!!??
それは以前に何度もお聞きしましたわ!もっと語彙力はありませんの?どこに落としてきてしまいましたの?貧弱!!
恐ろしい程に貧弱なボキャブラリーですわ!
そんな言葉であの男爵家の女も落ちたなんてとんだ茶番ですこと
!
あなたの地位と権力にしか興味がなかったことの裏付けとも取れるんじゃなくって?!」
「、、、、、」
「もう!お黙りにならないでくださいまし?
これじゃあ私が殿下を詰っているみたいでしょう?
私はあくまで殿下のためを思ってこうして自ら教育しているというのに」
「、、、、、」
「ふふふっ!いいですわいいですわ!!!そこまできたら我を貫いてくださいまし!何を言われようとも、黙っていようと懸命な姿、さすが殿下ですわ!!
愚直に、ただまっすぐにそうやって生きてきたのを私は間近で拝見しておりました!
そんな殿下のこと、私とっても気に入ってますのよ!
面白いったらありゃしないんですもの!!!」
「、、、、、、、、」
最初の1ヶ月は、部屋の外に出ることが許されかったからだろうか、彼も口を閉ざしてしまっていたのだが。
「ありがとうございます!!ありがとうございます!!
身に染みます!!!」
その後の彼の成長ぶりと言ったら思わずほほ笑みを浮かべてしまいましたわ。
私の言うことは素直に受け入れ、言葉遣いや態度を改める立派な紳士へと成長しましたの。私が目をやれば何を言いたいのかを察しそれに応じた行動をとる。なんて素敵なんでしょう。
でもそんな彼も、半年をすぎる頃には何やら様子がおかしくなってしまいましたわ。
「ごめんなさいもう許してください、申し訳ありませんでした、、」
つまらない。
クソつまらない。
こんなことなら以前の殿下の方がマシでしたわ。
能無しの上に、傲慢で利己的な性格まで失ってしまったらそこら辺に転がるゴミとおなじ。笑いどころも使い所もないタダの穀潰しです。
1度殺してみようかと考えましたが、現王からのたったひとつの条件はかれを生還させることでしたから、やむなく断念致しました。
そして今。かれはとっても魅力的な人になってますわ。
「やははい!
ありがとうございます!!ありがとうございます!!いたみいります!」
文脈もクソもあったもんじゃありませんが、裸で踊り狂うさまは昔に見た道化の劇に少し重なるところがあります。
少なくとも、あの謝るしか脳がない頃の殿下よりはずっと面白いですしたまにうるさいと思っても、足を踏めばすぐに黙ってくれます。
でも、さすがの私も少し飽きました。
この様子ではもう私を毒婦などとのさばることはないでしょうし、
そろそろ現王もお年ですから王位継承を迎えてもいいかもしれませんね。
裸の彼に、私がここを去ることを伝えましたがなにやら理解できない様子です。
まあここ数日は最後ですし特に厳しい教育をして差し上げましたから、おつかれになってるのかも知れませんね。
大丈夫ですわ。貴方はきっと賢王になりますから〜!
そういって国を出ていって1年後、彼は精神的なものを患ってしまって王位は王弟の子供になるだろうと風の噂で聞いた。
精神的なものだなんて。
私が教育してあげたのに、本当に出来損ないなんだから。
とはいえ、教育とは難しいものですわね。
ありがとうございました。
自覚がないシエラでした。




