守りたい未来
ノドスさんは見事合格しました。
アルレス達の卒業が後1ヶ月となった。
消し去った過去では、卒業式の後にあるパーティーで断罪され、その3日後にミルフィリアは処刑された。
アルレスやオルセウス達はエリスの動向を警戒し、ミルフィリアを出来るだけ1人にしないように配慮した。
警護の人間が増えた為、エリスはミルフィリアに近づくことも出来ず、忌々しそうに遠くに居る彼女達を睨んでいた。
ふいにミルフィリアの周りに居た女子生徒が輪を離れ、誰かと話し合っているのが見え、エリスはそちらに足音を忍ばせて向かった。
「エルフ伯爵令嬢。ありがとうございます。無事、調教師の資格が取れました」
嬉しそうな声とそれを喜んでいる声がして、校舎の影から覗き込むと、そこにはノドスと名前も知らない女子生徒が立っていた。
「おめでとうございます。ノドスさん、すごく頑張ってましたもの。ミルフィリア様もきっと喜んで下さいますわ」
「あっ、いや、そのぉ。俺は……エルフ伯爵令嬢に誉めていただければ」
少し強面のノドスが顔を赤くしてモジモジしている。
「ノドスさんは今でこそ家を出ていますが、れっきとした貴族。フローラ様、良き伴侶と腕の良い調教師を手放してはいけないですわ」
2人の様子を伺っていたユーリアがクスクス笑っている。
ユーリアの言葉にフローラが顔を赤くしながら、チラッとノドスを見た。
「はっ、あの、俺、いや、私と結婚して下さい」
片膝を突き、右手を差し伸べながらノドスが真っ赤な顔でフローラに求婚した。
「……喜んで」
エルフ伯爵家の長女で、将来女伯爵になるフローラにとって、ノドスは望んでも得られないほど良い婿候補だ。
しかも、良質の馬の産地でもあるエルフ伯爵領にとっては、騎士であった経験を活かした軍馬の調教も出来る彼は喉から手が出るほど欲しい人材である。
幸せが幸せを呼び、ミルフィリアの周りに居る令嬢達はそれぞれ最良の相手と縁を結んでいる。
「やはり、ミルフィリア様は女神様の様です。お側に居るだけで幸せが訪れますもの」
真っ赤な顔をしているフローラが、ノドスと手を取りながらミルフィリアを見詰めた。
もし、ノドスに消し去った過去の記憶があったら、物凄い勢いで頷いていただろう。
誰一人幸せになれなかった過去を誰が呼び戻したい、と思うだろう。
誰もが今掴んだ幸せを守る為、過去を切り捨てる覚悟を決めたはずだ。
それに記憶が無くても、体や魂に染み付いた苦しみや憎しみを昇華する優しい空気に包まれている今を、彼らは必死に守りたい、と思っているのかもしれない。
そろそろ暗躍部分を書きたい。




