見解の相違
アクヤク令嬢の定義、ですかね。
「見つけました。やはり、ポセイダス王弟殿下の仰っていた通り、正式な歴史書は有りませんでしたが、物語として残されてました」
1週間後。
ポセイダスの執務室に興奮した顔で、何冊もの物語を持ってアドンとメフレスが現れた。
執務室の主人であるポセイダスは満足そうに頷くが、オルセウス達は首を傾げている。
アドンがテーブルに乗せたのは、様々な国の物語で、古い物は300年も前のものまである。
「ポセイダス王弟殿下が、王家の危機は余り表にしたく無いものだが、きっとその危機を見ていた者が後世のため何かしらの形で残している筈だ、と教えてくださいましたから」
流石に物語を端から読むのは時間が掛かるので、アドンは予め簡単に内容を書いたリストを皆に渡した。
「1週間で良くここまで調べたな」
「メフレス・パズス大公爵様がお力をお貸しくださいました」
オルセウスが感心していると、アドンは首を振り、自分の横に立つメフレスに視線を向けた。
「ポセイダスが面白いから手を貸してくれって言ってたから。最高に面白かったわ」
彼の行動基準は面白いかどうか、である様だ。
「物語の内容はかなり似ていて、魔女ヒロインの強欲をアクヤク令嬢が打ち砕くんです」
「アクヤク令嬢!ミルフィリアが呼ばれていた名称だ」
「この物語では、女神アクヤクの加護を受けた令嬢、即ち、アクヤク令嬢が魔女ヒロインの邪悪な欲望を打ち砕き、王国と王家に安寧をもたらした、とあります」
アドンが古く分厚い本を持ち、熱心に説明をする。
「面白いのは、この令嬢を見付けられるのが、魔女ヒロインだけなのよ」
メフレスも説明に乗り出してきた。
手近にある本を読めば、確かにヒロインと呼ばれるものが1人の令嬢を『アクヤク令嬢』だ、と言っている。
「しかも、だいたいアクヤク令嬢は王子の婚約者で、魔女ヒロインは平民出か男爵などの低い爵位のものばかりなんです」
アドンは物語を暗記しているかの様に何冊もの本を持って熱弁をふるっている。
「爵位の低い者が、か。王家の乗っ取りか、国を滅ぼすのが目的の様だな」
オルセウスの思案顔にローレルが本を手に取りながら
「突然王位継承者が変わった国などにも魔女ヒロインの毒牙が……」
「あり得るな。平民出や低位の貴族に国の在り方など理解出来るとは思えん」
ポセイダスの言葉に、その場にいる者達は大きく頷いた。
「お父様。私、あの人からアクヤク令嬢だと言われましたが、その時はなんですか?と思いましたが、今は、誇りにさえ思えます」
ミルフィリアの頬がうっすら赤くなり、キラキラした目には喜びの色が溢れていた。
話は魔女ヒロインことエリスをこのまま泳がせ、決定的な証拠を掴んだ後処罰する事となり、ミルフィリアとローレルは王妃のお茶会に呼ばれ退席し、オルセウスとゼウリス達は仕事に戻った。
見方を変えれば、王家の危機になるよね。




