37/59

ミルフィリアと言う名の分岐点

やっとアドンとノドスの話が書けた。

この2人が自分の道を見つけるのにミルフィリアが関わっている事をアルレスは勿論、ゼウリスも知っていた。

エリスが入学する一年前、父親の愚かさに項垂れていたアドンに図書館で声を掛けたのは、歴史書を持ったミルフィリアだった。

「フレイス伯爵令息も声なき声を汲み上げているのですね」

「声なき声？」

「歴史書はそういうものです。遥か昔の多くの人たちの営みや思想を文字から読み取るものです」

各国の歴史に精通したミルフィリアとの謎かけの様な会話が楽しくて、アドンは暇さえあれば色々な歴史書を読み、いつの間にかその知識は教師達を唸らせるほどになっていた。

其処から自分の道を見つけたアドンは、

歴史学者を目指す様になった。

ノドスも退役後、下働きとして入った学園で生き甲斐を見つけられず、毎日馬の世話ばかりしていた。

そんな彼に、ミルフィリアが

「貴方がお世話をしている子達は皆、健康的ですね。きっと良い調教師の才能があるのね」

と、微笑みかけた。

ミルフィリアにとっては記憶に残らない、些細な一言だったかもしれないが、ノドスは天啓を授けられた気がした。

それから、下働きをしながら調教師の資格を取る勉強を始めると、次第に仲間ができ、毎日が充実してきた。

消し去った過去と違い、彼らに笑顔が溢れて生き生きとしているのをアルレスは満足そうに見ていた。

「アドン・フレイス伯爵令息は歴史に詳しい、か。叔父上に紹介したら面白そうだね」

初めてアドンのフルネームを口にしたゼウリスが楽しげに目を細める。

「何をさせるつもりです？」

「ちょっと、ね」

アルレスの心配そうな顔に、悪戯っ子のような笑みで、ゼウリスは明確な返事をしなかった。

ゼウリスは何をさせたいのか？