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魔女の形相

魔族の大公爵がホイホイ現れたら学園は大騒ぎだろうな。

「……メフレス・パズス大公爵。いつ此方に?」


アルレスは、少し驚きながら目の前に立つ、自分よりも背の高い男の名を呼んだ。


「さっき。アーモンが楽しいから来いって何度も言うから、遊びに来たの」


金色の猫の様な目に、濃い紫色の髪は片方で結ばれ、緩いカーブを描きながら腰あたりまで伸ばしている。

姿はほぼ人間と変わらないが、尖る耳で魔族であるとすぐに分かる。


「メフレス・パズス大公爵。他の者が困惑してますので、出来れば事前にご相談ください」


アルレスが丁寧な対応をしているから、息が出来ないほど色気を撒き散らすメフレス・パズス大公爵が誰なのか、その場に居る者達はだいたい理解したが、エリスだけはまるで理解していない。


「メフレスって言うのね。アタシ……」


エリスがメフレスに擦り寄ろうとしたが、メフレスもアルレスもエリスを見ないで会話を続ける。


「え〜、アーモンは好きに出入りしてるのに」


メフレスは、妖艶な美女の様に拗ねて身体をくねらせているが、かなりがっしりした体型の男なのだ。

怒りに顔を赤くしていた2人も、突然現れたメフレスの、態度と容姿の差に目を丸くしている。


「アーモンはトーラス侯爵令嬢の友人ですから」

「なら、あたしも彼女のお友達になるわ」


メフレスの背筋が寒くなる程の美貌が、へにゃっと緩んだ。


「それはいいですね。トーラス侯爵令嬢も喜びます」


アルレスも、柔らかな笑みを浮かべて頷き、アドン達を連れ、メフレスをカフェへと案内した。


「なんであんな美形まで、あの女に」

アルレスだけでは無い。


美形が現れた後、あの場に居た者全てに話し掛けても無視され、1人取り残されたエリスが、怒りに任せて地団駄を踏んでも、誰も声を掛けない。


それどころか、すぐ側でエリスが騒いでいるのに誰一人、エリスの事を気にしないで廊下を行き来し、友人同士で笑い合っている。


「なんでアタシを誰もチヤホヤしないのよ」


話し掛けないの、と言うのではなくチヤホヤしろ、と言う者を誰が友人にするだろうか。


自分が間違った選択をしていることにエリスはまだ気が付いていない。

今までがあり得ない状況だ、と言うのが分からないのだ。


「絶対に殺してやる」


唇を噛み、目を吊り上げる姿は、愛らしく保護欲を擽る存在と対極の、魔女の様相だ。

エリスが本格的にやばい奴になってきた。

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