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居るのに居ない扱い

完全に居ない者として扱われると、地味に辛い。

誰か一人でも心配して声をかけて来たらミルフィリアに嫌がらせをされた、と泣きつこうと思ってたのに、生徒達は遠巻きにするどころか、呆れた顔でエリスを横目で見ては通り過ぎていった。


「おかしいわ。こんな美少女が泥まみれになってんのに、誰も心配しないなんて」


泥水をポタポタ落として歩いても誰一人声を掛けない。


そう。誰も声を掛けないのだ。

心配の言葉はもちろん、嘲る言葉も馬鹿にする言葉さえ掛けず、皆、居ないもののように素通りして行く。


爪を噛みながら彼方此方に視線を向けると、廊下の向こうに攻略キャラのアドンの黒髪が見えた。


前の様に泣きつこうと走り寄ろうとしたら、アドンとノドスがもの凄い目で睨んだ。


「アドン……。どうしたの?そんな怖い顔で」


あんまりにも怖いから魅了が出来ない。


「僕の名前を勝手に呼ぶな。それに、お前、トーラス侯爵令嬢に酷い言い掛かりをつけたんだってな。最低だ」


ゲームでは、今までは知的な言葉で甘く愛を囁いてくれてたのに……。


「なんで。なんでアドン、そんなに冷たいこと言うの?アタシの事好きだって言ってたじゃない」


泣きつこうとした手を弾くように叩かれ、怒りに燃えるような青い目がエリスを拒絶する。


「お前みたいな恥知らず。お前を見るだけで虫唾が走る」


アドンのセリフは、断罪の時ミルフィリアに向かって言ったものだ。


「恥知らず?アタシが?アタシはこの世界のヒロインで、アンタは何度もアタシを好きだって言ってたじゃない」


誰も理解できない事をベラベラ喋るエリスをアドンは気持ち悪そうに見た。


「お前、頭の中が腐ってるんだな。お前が吐いた嘘、全部ばれてるのも気が付かないのか」


自分がついた嘘?

エリスの顔が真っ青になった。

断罪は肉体的苦痛と精神的苦痛。どっちがより辛いだろうか?

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