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それは肥やしにもなりません。

アーモンは怒らせてはいけない。


「トーラス侯爵令嬢〜」


テーミスと魔法の練度を上げる為、裏庭で鍛錬をしていると、暢気な呼び声がして振り返ると、アーモンがグリフォンを抱えて、ぴょんぴょん跳ねながらやって来た。


「アーモン様。どうなさいましたの?」

「ノアルが寂しいって鳴くから連れて来た」


アーモンが言うより早く、グリフォンのノアルがミルフィリアにしがみ付いた。

出会った頃は子猫くらいの大きさだったが、今では中型犬にまで成長している。


「ノアル、昨日あれだけ撫でたのに」


呆れたような口振りだが、嬉しそうに微笑むミルフィリアに抱かれ、プルルと気持ち良さげな鳴き声で甘えていた。


「ノアルは甘えん坊ですね」


テーミスも、ノアルの頭を撫でながらクスクス笑ってしまう。


「あれ、なんだ?」


アーモンが嫌そうな顔で、校舎の方からズンズンと言う音がしそうな足取りで向かってくるエリスを睨んだ。


「ああ、役立たずさんですね」


テーミスも不快そうに眉を顰める。


「テーミス様」


テーミスの態度を咎めるミルフィリアの声に、でもぉ、と言うがノアルがミルフィリアの腕の中から飛び出し、毛を逆立て漆黒の羽を広げ威嚇した。


「悪い奴だな」


アーモンの起伏の無い声に2人がエリスから目を離すと


「ぎゃあ〜〜」


と、淑女らしからぬ悲鳴と共に姿が消えた。


「アーモン様、どちらに飛ばしたのですか?」


魔族が使える転移魔法を使ったと思ったミルフィリアが慌ててアーモンを見たが


「飛ばして無いよ。落としただけ」


そう答えた。

落とした?アーモンの答えに2人が首を傾げると、少し離れた場所から文句をエリスが叫んでいる。


「すごい。こんな穴、一瞬で作れるなんて」


テーミスが感心したようにアーモンを見るが、丁度人一人分の幅の細い穴の下で、エリスがもがく事も出来ないまま、何かを叫んでいるが、よく聞こえない。


「ノアルが威嚇したって事は、こいつ、トーラス侯爵令嬢に敵意を持ってたって事だ。生き埋めにしようか?」


物騒な言動だが、テーミスは


「こんなの土の肥やしにしても役には立たないでしょう」


と、サラリと返す。


「それより早めに助けないと。雨が降る気配があるので」


風を読みながら、ミルフィリアが校舎に戻ろうとした。


「俺に助けろって言わないんだ」


アーモンの顔がへにゃっと緩んだ。


「アーモン様の行動を否定するつもりはありません。それに、私もこの方にあまり良い感情は持っておりませんが、見捨てると夢見が悪そうなので」


人は呼びます、と穏やかな口調だが、ミルフィリアは全てを許すお人好しでは無い。


エリスの救出だけ頼み、そのままテーミス達とカフェに向かってしまった。

テーミス様は容赦なく切り捨てます。

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