気が滅入る報告
アルレスは激怒してます。
「兄上、やはり何かしらの力が働いていると思います」
ゼウリスに今日の出来事を報告するアルレスの顔色はかなり悪い。
「何があった?」
ソファに座るゼウリスが心配そうな顔でアルレスに話の続きを促した。
「あの女と目が合っただけで、引き摺られるようにそちらに行きそうになりました。オスカーが居なければあの女の元に行っていたと思うと、背筋が寒くなる」
あの時を思い出して苦しげな顔をするアルレスを見ると、事態はかなり深刻そうだ。
「厄介だな。目が合うだけでそうなると、対策が必要だが」
理由が分からなければ、対策方法も後手に回る。
「今すぐミュラの毒を掛けたくなりましたよ」
不安に顔を歪めているのかと思っていたのに、どうやら腹の中は怒りで煮えくり返っているようだ。
「……アルレス、君は随分過激な思想を持っているね。まっ、気持ちは理解できるけど、ね」
これならアルレスの心が弱って、術にかかる心配は無さそうだ。
ミュラの毒とは、魔毒蛇から作る猛毒で、触れた場所が爛れ、皮膚から吸収し、のたうち回る苦しみが死ぬまで続くが、この毒で死ぬ事はない。
所謂、拷問用の毒なのだ。
それをアルレスは自分の結婚式の時、エリスの顔に掛けた。
「あと、トーラス侯爵令嬢が侯爵と共に会いに来たい、と言ってました」
「ミルフィリアが?」
あれ程ミルフィリアの名前を大切そうに呼んでいたアルレスだが、過去と決別を決めた途端、一切名前を呼ばなくなった。
その精神力の強さはゼウリスも驚きだが、そうやってアルレスなりにミルフィリアを守ろうとしている思いを理解し、何も言わずにいる。
「その時は、私も同席しよう」
ミルフィリアが突然アルレスと接触して来た理由をゼウリスも知りたかった。
ミルフィリアは何を見たんでしょうね。