新しい未来は始まっている。
アルレスのターンです。
「何度も同じ事を繰り返してきた?」
「魔術で時を巻き戻すのでは無く、結婚式の時、あいつにミュラの毒を浴びせると決まった時間に戻るんだ」
オルセウスはアルレスの話に驚愕した。
アルレスはもう何度もこの時間を生きているらしく、幼い顔に似合わない、疲れた顔で話をする。
アルレスの話をまとめると、何度もあの女、エリスが学園に入学する所から始まり、聖魔法の保持者と認定されると、亡き聖女アリアンナの後継者として新しい聖女になり、自分の側近達や自分と恋をしてミルフィリアの嫌がらせを撃破し、ミルフィリアを断罪の上、毒杯で処刑をしてきた。
自分はけっしてミルフィリアを憎んでいないのに、嫌悪感を全面に出してミルフィリアを冤罪だと知りながら断罪し、エリスを擁護してしまう。
「見えない力に雁字搦めにされているようで、頭の中では否定しても体が動かない」
震える手が、その時の辛さを物語っている。
「だが、今回初めて、いろんな事が前と違う。兄上や叔父上が生きているし、聖女様も生きている。そして母が力を失った」
オルセウスとゼウリスが、顔を見合わせる。
「アルレス殿下、殿下は前の時と同じ記憶を持っていらっしゃるのですか?」
「ああ。以前は、学園最期の時の事しか覚えてないが、今回は8歳からの記憶を保っている」
オルセウスがあり得ない、と頭の中で叫んだ。
一族のものでも無く、オスカーのようにミルフィリアの為に命を落とした訳でも無いのに。
「俺は、此処にあるミルフィリアの遺髪にかけて、同じ轍を踏まぬよう出来る事を探していた」
アルレスが胸のポケットに触れ、切なそうに笑う。
「遺髪を……。なる程、だから殿下も記憶を保っているのですね」
「えっ?」
「我々は、トーラス一族の秘術で時を巻き戻し、貴方達に復讐をしようと思ってました」
「えっ?兄上も?」
「いや。私はトーラス侯爵から話を聞いた」
ゼウリスは組んでいた足を外し、アルレスをまっすぐ見詰め、大きく息を吐いた。
「消し去った過去の記憶の中で、アルレス、君がミルフィリアの婚約者であったとしても、今は私がミルフィリアの婚約者だ。彼女を譲る気はない」
ゼウリスの言葉にアルレスは、涙を流しながら首を横に振った。
「俺は、俺の望みはミルフィリアが生きている事。彼女との結婚は……。彼女の幸せは兄上にお任せします」
ずっと大切に思っていたが、自分との縁が結ばれるとまた、同じ事の繰り返しになりそうで、アルレスは自分の思いさえ願う事はしなかった。
「アルレス、君が愚か者で無かった事が、私は嬉しい」
ゼウリスに掛けられた言葉にアルレスは、更に涙を流した。
この記憶も前には無かったものだ、と学園の制服に腕を通しながら頷いた。
あの、忌々しい過去は繰り返されていない。
うーん、アルレスのターンは少し暗かった気がする。