騎士団の粛清
騎士団はちょっとやばかった。
「貴様」
「模擬試合で、手を抜けとは笑えますね」
折れた剣を握りながら尻餅をついて自分を睨む男を、オスカーは冷ややかに見下した。
ついさっき、騎士団の昇進試験でもある模擬試合で、貴族の自分に花を持たせろ、と言ってきた阿呆を一切の手心を加えず、叩きのめしていた。
「やれやれ、戦場では貴族だからと言って敵は手加減などしない。むしろ、貴族を討てば褒賞が出るから、率先して狙うだろうに」
立会人として模擬試合を見ていたポセイダス王弟殿下の呆れた声に、地べたに座り込む男は唇を噛んだ。
「ポセイダス王弟殿下の仰る通りだ。お前は一兵士から出直せ」
「そ、そんな……。お慈悲を」
唇を噛んでいた男が青褪めた顔を上げ、震えながら騎士団の指導教官の足にしがみ付いた。
折角、金やコネで騎士団に入れたのに、兵士に戻れば馬鹿にされるし、相当努力しなければ騎士団に戻る事など出来ない。
「教官。騎士団はいつの間に金やコネがものを言う様になった?」
ポセイダス王弟殿下の言葉に、教官達は青褪める。
王弟に賄賂が横行しているなどと思われたら、国王の不評を買い、自分達も立場を失う。総入れ替えもあり得る。
「お恥ずかしい話ですが、身分のあるもの達の驕りは我らも困っております」
指導教官でも平民出のものに対して、身分のあるもの達は指示を聞かない、と教官達は苦い物を噛んだ様な顔をした。
「やれやれ困ったものだ。剣の強さや騎士としての誇りは身分に準ずるものでは無い。君、名前は?」
「オスカーです。ポセイダス王弟殿下」
抜き身の剣を鞘に戻し、騎士の礼を取るオスカーはまごう事なき、凛々しい騎士の姿。
「まだ荒削りだが、良い腕だ。アルレス殿下が学園在学中は殿下の護衛官となり、殿下が卒業されたら王太子となるゼウリス殿下の護衛官になるがいい」
王族の護衛官は騎士でも花形な役目。
まして王子だけでなく、王太子の護衛官になれば、身分は騎士団の中でも高く、平民出の騎士だけで無く、全ての騎士にとっては憧れの存在だ。
「有難きお言葉。これからも精進します」
オスカーは、ポセイダスに目だけで頷いた。
時が巻き戻されてから、進む方向が変わり、あの時とは違う日々が着実に進み始めている。
腐る一歩手前で踏み止まれたようです。