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王族①

 玉座には、厳格な表情で座っている王の姿があった。

 

「フォルトナ。朕はお前の祖父、ウィリアムだ。」


「……で?」


 ウィリアムは孫との初対面に盛大にかっこつけていた。だが、孫に塩対応されてしまい一気に態度を豹変する。


「……それでって。……もうっ。フォルちゃんったら、おじいちゃんに冷たいんだなー。……実はね、私はフォルトナを王位の継承者にしようと決めたんだよー。」


「は? 王とはずいぶんと傲慢な生き物なのだな。初対面で、いきなり独りよがりな結論。それも継承などを決めるものなのか? 継承したいにしても、先に相談をすべきではないのか? ……俺は王になんか、なりたくないがな。」


「……困ったなあー。ようやく出逢えたたった一人の肉親なんだよー。世継ぎはフォルトナしかいないの。どうして王になりたくないんだい?」


「俺がこの国に来たのは、母親を殺した魔王を討伐する事を目的とし、その情報を集めに来ただけだ。」


「ふむ、それなら……フォルトナが魔王討伐を成功させた暁には、王位を継承するというのはどうだい?」


「いやだ。俺はただ魔王を討てればそれで良い。」


ウィリアムは、ここでフォルトナに嫌われる事はしたくなかった。やっと出逢えた、たったひとりだけの家族とは死ぬまで一緒にいたい。魔王討伐をするにしてもスリーダン王国を拠点にして欲しい。それに仲良くさえしておけば説得する時間はある。

 

「……わかった、わかった。じゃあ、魔王討伐の旅に必要なものは、私が何でも揃えてあげるね。だが、考え直す余地はないかな?」


「王になる気など毛頭ない。魔王を討つために力を貸してくれるなら、それだけで十分だ。」


 フォルトナの同意で、ウィリアムの異能が発動した。これでフォルトナには、前世のロイスと同じように序列一位の経験値ブーストが入る。

 

「エリック。お前や大将軍達を含めるスリーダン王国の兵士全員フォルトナの部下に付ける。全軍で魔王を討て。ただし、フォルトナに危険な事をさせるのは絶対に許さんからな。」


「は? 俺はあんたから部下や兵を求めないぞ。それは自分で決める。」

 

 フォルトナの後でエリックが反論する。エリックもまさかこれ程までに、孫馬鹿な王だとは思ってもみなかった。

 

「王様。全軍をフォルトナに付けてしまえば、確実にこの国が世界帝国に侵略されます。そうなればフォルトナに何も残す事が出来ませんよ? それにフォルトナは強いです。信頼してあげて下さい。」


 エリックの言葉にウィリアムは顔を真っ赤にして怒り出した。

 

「エリック。お前、ずいぶんと仲が良さそうじゃないか。なんでお前が、そこまでフォルトナの力を信頼しているんだっ。ずるいぞっ! お前なんてクビだっ。今すぐに出ていけっ。」 

 

 だがフォルトナは、嘘を見破る事が出来る。ウィリアムは、クビだとも今すぐに出ていけとも思っていない。

 

「じいちゃん。ただの会話にいちいち策略を巡らせるな。俺のスリーダン王国からの部下はいらないという言葉を受け、意図的に俺だけにフリーに見せてるつもりなんだろ? チッ。仕方ない。もう少しだけ態度を軟化するから話し合おう。」


「……じいちゃん。……なんと甘美な響きなんだ。フォルちゃま。さあ。こちらにおいで、じいちゃんに頬ずりさせておくれよ。」

 

「キモッ。」


ウィリアムは呼ばれても動く様子のないフォルトナを見て、我慢出来ずに玉座から立ち上がり駆け寄っていく。フォルトナを抱きしめ頬ずりしながら、涙を流していた。

 

「ぅ……フォルトナ。……照れている所も、冷たい言葉も、本当にかわいいのだ。……まるで愛するフローラに再会したような気分……。ぅう。フォルトナ愛してるぞ。よく来てくれたな。」 


「じいちゃん。泣くな。……フローラの仇は俺が晴らしてやる。」 

 

ウィリアムは、声をあげて泣いている。

 

「ぅうっ。……聞いたかエリック! この子は、なんて優しくて、頼もしい子なんじゃ。……うわーん。」

 

ウィリアムはしばらく、フォルトナを抱きしめた後で、アルバートとオリバーを見て睨む。


「……そなた達はフローラを城から連れ出した犯罪者だ。それは知っておろう?」


「陛下。本当に申し訳ありません。連れ出した挙句に守り切れず、死なせてしまいました。」 


「私達はいかなる罰をも受ける覚悟です。しかし、旦那様が魔王を討伐するまでは待っては頂けないでしょうか? 私達は旦那様が小さい頃からお世話をさせて頂きました。旦那様の過酷な仇討ちを前に、このままここで死ぬ訳にはいきません。旦那様が魔王を討伐するまでで良いです。どうか、お慈悲を。」


「……何を言うか。犯罪者だったのは朕が真実を知るまでの事だ。それを知っていて、ここまで来た勇気に朕は感動している。」


 ウィリアムは二人の前に手を付いて頭を下げる。


「……よくぞ。フローラを北の大地に連れ出してくれた。フローラが今まで生きられたのは紛れもなくお前達のおかげだ。王ではなく父親として、本当に感謝する。……そして、フォルトナをここへ導いてくれた事も、全てお前達のおかげだ。本当にありがとう。」


「そんな。陛下、頭をお上げください。」


「協議が必要になるが、王として二人には伯爵位と褒章を与えるつもりだ。国に財はほとんど残されておらぬが、伯爵領と宝物庫から貴重なアイテムを選ぶと良い。」 

   

「っ!!」 


「まさか。そなた達も王の申し出を断るつもりではあるまいな?」


「恐悦至極に存じます。その際には謹んでお受けいたします。」

「王のお心に深く感謝致します。」 

 

「「ですが、私達は生涯、旦那様の執事です。」」


「生涯をかけフォルトナ殿下のお世話をし、命を預ける事は何があっても変わりません。」


「陛下には、その事をお考え頂きたく存じます。」


 ウィリアムはにっこりと微笑む。


「フォルトナ。良き執事を持ったな。この国で一番有能で位の高い執事だ。」

 

「まあ。仕事は出来る。母ちゃんが一番大切にしていた人達だ。」

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