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お婆さんは人の姿になる黒い子猫を拾いました

作者: oxi

路面電車や車が行き交う街の片隅にひっそりと暮らしているおばあさんがいました。髪の毛は少し白くなっているもののとても元気に散歩していました。


そんなある日、おばあさんは怪我をして弱った黒い子猫を見つけたので、家に連れて帰り、手当てをしてあげました。


一人で暮らしているお婆さんは手当てした子猫を飼うことにしました。 


手当てしたお婆さんに心を許したのか「みやーみやー」とご飯をねだるようになりました。


まだ、元気を取り戻さない子猫を前に呟きました。

「あなたが来てくれるまでこの家に一人でさみしかったけれど、『みやーみやー』声を掛けてくれるから賑やかになったわね。」


子猫は「みやーみやー」と答えました。


「まるでお返事してくれてるみたいね。お話し相手ができて嬉しいわ。一緒に笑ったりお喋りできたら楽しいものね。」


お婆さんはふと思い出したかの様にはっとした表情になると言いました。

「せっかく家族になるのにお名前がありませんでしたね。……みやーみやー鳴くから、『みや』にしましょう。綺麗な美しい夜のような黒い毛並みだから、『美夜』ちゃんね!これからよろしくね。」


お婆さんが笑いながら子猫に声をかけると、子猫は「みやー」と答えるのでした。


そんなある日のこと、お婆さんに電話がかかってきました。白い固定電話がジリジリ鳴り出しました。電話の大きなボタンがピカピカ光って着信を知らせています。子猫はビックリして部屋の隅に逃げ出しました。


お婆さんが電話に出ると、お婆さんの一人娘からの連絡でした。お婆さんは受話器を肩と顎で挟んで手元を空けると、子猫を招き寄せました。子猫は受話器に話しかけるお婆さんを不思議そうにみあげていましたが、椅子に座るお婆さんの膝の上に丸くなりました。


お婆さんは受話器の向こうの娘に話しかけます。

『大丈夫よ、一人でやっていけてるわ。』

『そうそう、この家に家族が増えたのよ。子猫を拾ったの。みやちゃんっていうの。』

『身の回りの世話ならヘルパーさんが来てくれるから何とかなってるわ。』

『みやちゃんがお話し相手になってくれるから、淋しくなくなったわ。あらやだ、以前もなんとかなってたわよ。』

『身の回りのことを世話してくれる人が居たら助かるけど、あなたはあなたの生活があるのだから、……』


子猫は目を開くと、お婆さんの顔をじっと見上げました。


──


翌朝、お婆さんが目を覚ますと、部屋の中に黒い髪の毛に黒い服を着た幼い女の子が、椅子の上で眠っていました。


お婆さんは吃驚して「だれ!?」と声をあげました。女の子はお婆さんに気付くと目を擦りながら言いました。

「おはよう、お母さん。」


「わたし?美夜だよ?忘れたの?」


──

美夜はお婆さんに尋ねました。

「お母さんのお名前は何て言うの?」


「美里っていうの。美しい故郷に産まれたことを忘れないようにですって。」

「美夜の美とお揃いね!一緒ね!嬉しいね!」

美夜はぴょんぴょんと喜びました。


──


お婆さんは美夜に寝間着を買ってあげました。全身を覆う猫の着ぐるみでした。

「これを着れば、美夜はいつでも子猫ちゃんね。」

「お母さんはわたしが猫の方がいいの?」

「私は美夜ちゃんが大好きよ。猫着ぐるみの美夜ちゃんが可愛いんじゃないかって、気になったのよ。着てみない?」


お婆さんは美夜ちゃんが着ぐるみを着てくれるのが面白いのか、上機嫌なので困惑しながらも着替えるのでした。

「美夜ちゃんが可愛い!食べちゃいたい!」

「たべちゃだめよ!?」


──


お婆さんが美夜に何かを教えています。

「これが冷蔵庫、中に入っているものは勝手にたべちゃだめよ?いっぱい食べるとお腹こわすからね?」


「これが水道。水道の栓を捻ると蛇口からお水が出ますよ。」

流れ出る水を見つめていた美夜ちゃんが蛇口を押さえると水が飛び散りました。

「「きゃー」」

二人の声が重なりました。


「これが電話。掛かってきたらここに掛けてきた人の名前が出るの。でも、まだ文字が読めないわね。これだけ覚えておいてくれるかしら。悪い人が来たら受話器をもってから『110』を順に押して、誰か大きな怪我をしたりして動けなくなったら『119』を順に押すの。受話器を下ろして練習してみましょうか。」


美夜は上手にボタンを押せるようになりました。


「じゃあ、頑張ったから絵本を読んであげましょうね。」

──

ある朝、ヘルパーさんがやって来ました。

「あら、みさとさん。こちらの子猫は?」


美夜は子猫に戻っていました。

お婆さん以外の前では猫に戻ってしまうようでした。

──


ある日の夕暮れ、お婆さんが倒れて返事をしてくれなくなりました。

美夜はお婆さんが教えてくれたように119の順にボタンを押しました。


『消防ですか、救急ですか?』

「お母さんが倒れたの、返事がないの。倒れて動けない人が居たら119に掛けるのよってお母さんが言ってたの。」

『電話のそばに『お母さん』はいますか?』

「はい」

『今から電話のある場所に向かいます。救急車を外に出て誘導できますか?』


困りました。美夜は人前に出られません。猫になってしまいます。


でも……お婆さんを助けられるのは美夜だけです。

「はい、がんばります!」


猫の着ぐるみを着て、頭をパーカーで覆います。目元はお気に入りの仮面を着けました。それにもう、夕暮れです。きっと、きっと大丈夫。美夜が美夜だと分からなければ、きっと何とかなると信じて美夜は遠くから近づく救急車のサイレンと赤色回転灯を待ちわびました。


「わたしは着ぐるみ少女!スーパーにゃん!」


──

お婆さんは病室のベッドの上で目を覚ましました。

(気を失って、病院に搬送されたのね。美夜ちゃんが心配だわ。)

 

お婆さんは経緯を看護師さんに聞きました。


「家に小さな子を残してきてるんだけど、何か聞いてないかしら?」

看護師さんは伝え聞いていることを話しました。

「ご自宅から119番に電話を描けてくれた子は、家に救急車を案内した後に姿が見えないとのことですが、大丈夫ですか?『お母さんをお願いします』って言付けがあったそうです。」


お婆さんは自分の娘と、ヘルパーさんに電話をして退院手続きをすることにした。


──

お婆さんが娘さんに付き添われて退院した。家について玄関の扉を開けようとすると鍵が掛かっていた。

「ちさ、あなたが鍵掛けてくれたの?」

「いいえ。ヘルパーさんから直接病院に行くように連絡されたもの。」

「ヘルパーさんが鍵を掛けてくれたのなら、鍵を受け取らないと。ちさ、家の鍵を持ってたよね。開けてくれますか。」


お婆さんが家の中にはいると、猫の着ぐるみの上で子猫が寝ていました。


猫を見た娘さんがいいました。

「この猫が拾った子?」

お婆さんは嬉しそうに答えます。

「そうよ、この子が美夜ちゃんよ。美しい夜って書くの。」

「本当の子供みたいな名前ね。私は里をもらって『千里』、この子は美をもらって『美夜』なのね。初めまして小さな妹さん。」


二人が顔を見合わせて笑っていると、人の姿になった美夜がいいました。

「よろしくお願いしますね。おねえさん。」


娘さんは大絶叫しました。

「え、えー!?」


美夜ちゃんはきょとんとしながらいいました。

「だって、家族の前なら大丈夫かなって。」

──


お婆さんの亡くなった後、娘さんのお世話になる美夜ちゃんでした。


(了)

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