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お題シリーズ3

暑すぎる場所

作者: リィズ・ブランディシュカ
掲載日:2022/05/25



 その人間は、建物の中で方向を見失っていた。


 真っ黒な煙と、真っ赤な炎ばかりで、一向に青々とした空の下へ出られない。


 建物から脱出するための、出口が分からない。


 よたよたと歩いてみたけれど、焼け落ちた資材が通せんぼしていた。


 真っ赤になっていて、とても手ではどかせない。


 道がふさがれている。ここは通れない。


 引き返そうと思った。


 その瞬間、目の前の道が炎に包まれて、真っ赤に燃えていった。


 自分の未来を見ている気持ちになって、絶望しそうになった。


 このまま何もしなければそうなってしまう。


 当然だろう、ここは火事になった建物の中なのだから。


 消防士でもない自分が、長い事いたらこんがり焼けてしまう。


 知識もないし、装備もない。


 今、こうして無事でいる事が奇跡に等しい。


 ああ、熱い。


 そして、暑い。


 火の粉をかぶれば熱いし、そうでなくても熱気が空だから水分をもっていってしまう。


 火がない区画に移動しても、暑さがやわらがない。


 熱気があとからあとから、押し寄せてくる。


 もはや、ここまでか。


 そう思った。


 そして、自分の愚かさを呪う。


 建物の防火設備をおろそかにしてしまった。


 どうせ火事になるなんて事、ないと思っていた。


 だからこうなったのだ。


 なんて馬鹿だったのだろう。


 あまく見過ぎていた。


 客はすべて避難させたが、最後に確認のため建物に入って、煙で方向が分からなくなってしまった。


 自分が商売している店、建物の中だと言うのに。


 仕方がない。


 いくつもある店舗のうちの一つで、何度かしか来た事がなかったのだから。


 もうけてきてからは、ろくに核店舗を確認してこなかった。


 煙をすいこんで、倒れてしまう。


 ごほごほと咳が出た。


 息が苦しい。


 意識がかすんできて、とうとうあの世の光景が目に見えた気がした。


 数年前になくなった祖母が声をかけてきたような気もする。


 ああ、どうか罪を受け入れてこれからはまじめにするから。


 だから助けてほしい。


 それとも、人の命を危険にさらす人間に、そんな寛容な慈悲は与えられないだろうか。


 だが、「生存者発見! 大丈夫ですか!?」と声がかかって、体をゆすられる。


 俺は助かったらしい。


 消防士に発見されて、建物の外へ連れ出された。


 煙のない視界が、ひどく新鮮だった。


 たんかに載せられ、救急車に運ばれる間に見えた空がひどく綺麗で。意味も分からず心にひびいた。


 そういえば、親父がいってたな。


 幼い頃に職場見学をした時、親父が誇らしげにしていた。


 高層ビルの窓の向こう、街並みの中にあるいくつかのビルを指さしながら。


「利益を得る事も大事だけど、お客さんを大事にしてこその商売だぞ」


 父は「父さんみたいになるなら、覚えておくんだ」と言って笑う。


 熱い人だった。


 もう死んでしまったけれど。


 商売に関して、熱い心を持っていた。


 どうして忘れていたのだろう。


 俺は、救急車の中で生き延びた喜びと、間違えてしまった悲しみと共に、静かに涙を流した。



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