第7/10話 決戦の水曜日、3限。授業中に魔発信器を仕込む
3限は現代魔法基礎。
先週先生が言ってたが、今日は初めての前期期末テストに向けて、これまでの内容で大事なポイントを復習するらしい。塾行ってない身には助かる。チャイムが鳴る。授業が始まる。
「宇宙誕生のビッグバンから10⁻¹³秒が過ぎた頃、真空の相転移が起こり、真空がヒッグス粒子の場で満たされた。これが重力の始まりだが、同時にプースー粒子、いわゆる魔力子も真空を満たし魔場ができた。………ヒトが魔法を使う感覚は、古くから第7感とか魔感とか呼ばれてきた。生物でも物体でも自然現象でも、クォークやレプトンといった素粒子レベルで操ることができるのが魔法である。………」
先生の話が、黒板に書かれる言葉があまり頭に入って来ない。というのも、僕は3限の間にこっそり発信器を仕掛けなくちゃならないのだ。ジルの机横に下げてあるあの大きなトートバッグに、誰にも気付かれないように転送する。転送魔法は音も出ないし、光ったりとかそーゆーエフェクトもないので そんな難しくない。さっさとやってしまって授業に集中しよう。
はっそうだ。ワックスから借りた魔法許可証の注意書きに目を通しておこう。ズボンのポケットから茶封筒を取り出し、中身を出してみる。…もちろん机の下で。確かに魔法許可証の他に1枚メモ紙が入ってた。なになに…
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
パラへ
これは俺がコピーの魔法で作った
機能はオリジナルと全く同じだ
但し今の俺の力量だと
許可証くらいのサイズの
コピーが実体を保っていられるのは
5時間くらいだ
5時間経つと消える
作ったのが朝の8:30頃だから
午前中は使える
もし午後も許可証がいるなら
ラインしてくれ。作っとく
で昼休みに渡す
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
あいつ、コピーの魔法できるのか。具現化系の部活してるとは聞いてたけど、コピーが専門なのかな。てゆかそんなことしなくてもオリジナルを僕に貸せばいいのでは…? 貸してる間ワックスは魔法使えんくなるけど。…それが彼的に都合が悪いのかもしれん。まいいやいいや! 午前中問題なく使えるのなら十分だ。
メモ紙を茶封筒の中に戻し、茶封筒をズボンのポケットに戻す。…よかった、先生はこれまで授業で教えた内容の振り返りを口と黒板で説明するのに忙しそうだ。先生に目つけられたらやりにくいからね。
「………魔法を使うにはまず魔法域を展開する。この域内に含んだものに対して魔法が使える。つまり魔法使いの見習いが一番最初にやるべきことは魔法域の展開訓練である。使いたい魔法によって、展開する魔法域の範囲や数は異なり、また展開を維持したまま移動させたりすることもある。魔法の種類は現在国が認可してるものだけでも1000を超えるが、大まかに分けると心体操作系、物質操作系、具現化系の3つになる。………」
僕は机の上に置いてるデニム生地ペンケースの中から、1円玉大の鉄製のコインを2つ取り出した。
まずは、こいつら魔発信器に僕の魔法域を記憶させる。自分の魔法域は自分にしか見えないから、別に机の上でやったってバレない。…先生が魔眼を使ってない限り。
魔発信器を右手左手の中に1コずつ持ち、それぞれの手をすっぽり覆うくらいのサイズで魔法域を展開する。端から見ればシャーペンと消しゴムを持って、板書を取っているようにしか見えないハズだ。しばらくして、僕の両手の魔法域はスーッとしぼんで小さくなっていって消えた。魔発信器は10秒間同じ人の魔法域に囲まれると、その魔法域を吸収する。準備完了。
魔発信器は2枚組になっていて、磁石でできていて2枚がくっついている。2枚を剥がすと、円の真ん中に突起がある方(凸コイン)と、逆にへこんでいる方(凹コイン)とに分かれる。僕は2つの魔発信器の、凸コインの方をズボンのポケットにしまった。
さて、次は2枚の凹コインをジルの手提げ袋と、机のどこかに仕掛けねば。
…昨日ギリギリまで発信器は1コでいいと勘違いしてた。ジルの手提げ袋の中に1コ仕掛けて、男子トイレ個室に転送するまではそれでいい。でも、次ジルの机横に再転送する時、発信器が無ければ男子トイレに居ながら1年1組教室内ジルの机らへんに魔法域を展開できなくなる。つまり再転送できなくなる。トイレから女子の柔道着が入った手提げ袋を持って出ないといけなくなる。…考えただけで恐ろしい。そこを誰かに見つかりでもしたら、とても面倒臭いことになる。…ということに昨日、部活中ふと気付き、部室の魔発信器をもう1つ拝借したのだった。気付いて良かったぜほんとに。
僕は机の上に開いて置いてるB5の大学ノートの上に、タテヨコがノート1ページ分くらい、高さ15㎝くらいのハコ型魔法域を展開した。その魔法域の中に自分の両手を入れて、指を網目状に組む(網目の印)。すると魔法域の中にターゲットネットが生成する。そのネットで1つの凹コインを包んで、口を縛る。次にジルの机横、手提げ袋があるらへんに魔法域を球状に展開。ジルの机は僕の右隣の列の、僕より机3コ分前だ。このくらいの距離なら感覚で展開できる。
自分の手を大学ノート上の魔法域の中に入れたまま、魔手(魔法域の中にあるものを、直接手を触れないで触ったり掴んだりできる遠隔触知[リモートタッチ]の魔法)を発動し、ネットの小包を大学ノート上の魔法域外まで持っていく。凹コインが宙に浮いて見えたら目立つので、ノートの上を滑らすようにする。凹コインは魔法域外に出ると姿をフッと消し、ジルの手提げ袋らへんの魔法域の方にフッと姿を現す。それをなるべく速く手提げ袋の中の奥の方に突っ込む。よしok。両手の指で再び網目の印を作り、ターゲットネットを消す。…ふぅ、魔発信器1コ転送完了。
あと1コ、男子トイレからの再転送用の凹コインだ。昨日考えてみたが、一番気付かれにくいのは机の引き出しの裏面だと思う。そこに両面テープでペタッとくっつけておこう。昨日家にある両面テープを1㎝角に切り取ったやつをペンケースに入れておいた。ペンケースからそれを取り出し、凹コインに貼り、シールを剥がす。あとは1コめの魔発信器の転送と同じ要領で、ターゲットネットと魔手を使って、ジルの机 引き出し裏に凹コインをくっつける。…できた!
最後にターゲットネットを消して、魔法域も解いて、と。仕込みは無事終わった。あとは授業に集中しよう。