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4/10

第4/10話 ジルに気がある? 僕のただ一人の友達ワックス

昼休み。

食堂でワックスと昼ごはんを食べる。ワックスは1年4組にいる小太りなメガネ君だ。容姿にあまり恵まれていない。まだ16歳だろうに、頭髪は薄くて、おでこの生え際が後退しているように見える。例えるなら1歳の赤ちゃん、て感じかな。ん? てことはワックスはこれから髪の毛が生えてくるのかな。かもしれない。何事も前向きに考えよう。あと、笑った時に見えるんだけど、すきっ歯なんだよね彼。なんだろう、僕なんかよりよっぽど苦労してきてるんじゃないかと想像させる。彼にその辺の話は聞いてみたことがないし、彼の方から話してきたこともない。オシャレにも大して興味が無さそう。男子生徒の夏服は、上が長袖シャツから半袖シャツになるだけで、他は変わらない。ワックスは半袖シャツの下に白のタンクトップを着ていて、それがシャツの上から透けて見えてちょっと残念な感じになっている。オシャレという点では劣るが、校則違反には絶対ならないしむしろ模範的解答とも言える。メガネもシルバーの細いメタルフレームで、レンズの所は横に長い楕円形をしていて、ザ・無難というのにふさわしい。


でも実は彼は、見かけに反してパーティーピーポー顔負けのイケイケな性格で、スクールカーストの上位に君臨する、友達いっぱいクラスの人気者という珍しい存在…なわけがない。見かけ通りのおとなしい性格で、口数も少なくしゃべる時も覇気が感じられない。いわゆる根暗だ。その辺は僕と似ている。


僕は他のクラスに仲の良い奴がいたとしても、わざわざそいつに会いに行くほどアクティブじゃない。だってもし会いに行って、そいつがクラス内の仲の良い奴(僕の知らない奴)と一緒にいて楽しそうにしゃべってたらどうするんだよ。その間に割って入っていく勇気は持ってない。僕はなんとも言えない淋しさと共に自分のクラスの教室に戻るだろう。だから僕は基本学校では一人行動で、昼休みも一人で食堂へ行ってなるべく人けのない、テーブルの端っこで食べる。僕的にそういう所が落ち着くから。


で何故か、僕が選ぶ場所はワックスも選びやすい。逆にワックスの方が先に着席して食べてる所に、僕が人けの少ない場所を求めて来た結果辿り着くこともままある。別に約束してるわけでもないのに、なんでかそうなってしまう。ということで今日の昼休みもワックスと一緒に食べているのだ。


「そう言えばワックスは柔道経験者なの?」

「いや、違う」

「えっじゃあ柔道やるのはあの選択体育のが初めてってこと?」

「そうだが。なんで?」

「いや授業中のワックス見てると受身とか投げ技とか、身のこなしが様になってるから」

「そか? …まぁ確かにパラよりは上手いかな」

「うるさいよ。でも認めるわ。僕は柔道、というか運動全般が中の下以下だし」

「パラは見るからに文化系だもんな」

「…褒め言葉だなそれは。ワックスも見た感じ僕と同じ運動苦手マンぽいのになー」

「残念だったな!」

「急にクロムの真似するなよ!? よく今のタイミングで出せたな」

「ハハハ。今度対戦しようや」

「いいぞ。リアルスポーツよりはまだマシに動けるから」


不思議だ。ワックスとは友達同士のような会話が成り立つ。これは友達と言っていい関係なのだろうか。よくわからない。…どうでもいい。楽しいから。


そもそもワックスと初めて会ったのは選択体育の柔道の授業だ。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


ちょっと老けた見た目以外にも、彼には変わった所がある。授業中、急に棒立ちになってジルの方を向いてぼーっとしだす。自分から我に返る時もあるけど、先生や生徒の誰かが「おいワックス! ぼーっとすんな!」とか声かけたり肩たたいたりすることもままある。彼は我に返ると「あ、すみません」とか言って、何事もなかったかのように授業に戻る。


いやさ、わかるよワックス。あんな美少女が柔道着のコスプレして間近で生で動いてるんだもの。男として見ないわけにはいかないよそりゃ。しかも組み手・技のかけ合いまでできるなんて、そんなアイドル聞いたことねーよ。でもさ、さすがにオマエのはあからさますぎるよ。せめて動きは止めずにチラ見するくらいに止めとこうぜ。じゃないとジルもオマエの組み相手も困るだろうよ。


でも不思議なのは、ジルを見てぼーっとしている時、ほんとにただぼーっと見てるだけっぽいんだよな。顔がニヤけてるでもなし、赤らんでるでもなし。それでジルに自分から話しかけに行くとこも見たことがない。…つまり? ワックスにとってジルは高嶺の花子さんということか。遠くから見てるだけで満足なのかもしれない。だとしたら僕と同じだ。


その辺が気になったので、ある日の柔道授業後、一人で更衣室へ向かうワックスに僕は声をかけた。


「あのさ、そんなに気になるんだったら一度話し掛けてみたら?」

「? 今俺に話しかけた?」ワックスは数秒の時差の後こちらを向いてそう言った。

「かけた かけた」

「…なんて?」

「ジルのことがそんなに気になるんなら、一度話し掛けてみたら?」

「! …いや俺はそういうんじゃ…あっいや、別に仲良くなりたいとまで思ってないんだ俺は」少し慌てた様子でそう言った。

「僕は別にワックスのこと他人に言いふらしたりしないよ。というかジルとお近づきになりたいって思わない男子がいたら逆に教えて欲しいわ」

「いや、ほんとに俺は遠くで見てるだけでいいんだよ、ほんとに」

「あ、そう。…まぁ僕ワックスと話したの初めてだし、そんなよくわからない奴に本当のこと言えないよな」

「お前俺の言ったこと信じてないな」

「だって1回の授業で2、3回フリーズしてるし」

「え、そんなしてるか?」

「うん」

「そっか…。大丈夫かな…」

「えっ? ははっ!何? 自分で自分の心配してるの? しかも今マジで神妙な顔だったよ」

「違…! いや、まぁ…自分でも気付かない内にしてる事だからさ…」

「なんだよそれ、もう言っちゃってるじゃんか」

「だから違うって! てかお前名前なんて言うんだよ、まだ聞いてなかった」

「あごめんごめん。パラジウム。みんなパラって呼んでるけど」

「パラか。お前が俺のことどう勘違いしようが勝手だが、俺はジルのことそういう風には思ってないよ。だからパラ、俺はお前のこと応援してやるよ」

「ちょ! 僕もそういうんじゃないって!」

「何顔赤くしてんだ。お前こそそれ言っちゃっ…」

「違うって!!」

「違うの?」

「違う」

「わかったわかった」

「お前僕の言ったこと信じてないだろ」

「んー今はそうかもしれんが、おいおい信じるようにするよ」

「なんだよおいおいって」


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


まぁこんな感じで、話してみたら話しやすい奴だった。実は僕がこの学校でこのくらいしゃべる仲なのはワックスしかいない。…試しにちょっと相談してみるか。

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