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剣 ~勇者のいないその後の物語のその後の世界で~  作者: .
はじまりの始まり ―終焉の森編―
9/38

9、「ココは?」今はただ前に進めばいい。

ミコト      ・・・創造主を自称する謎の存在。


ソラ       ・・・男。過去の事を覚えていない。名前は仮称。人。

アイリス・コーエン・・・獣耳と尻尾がある少女。

神無月イヨ    ・・・日ノ国の巫女。人。


百鬼       ・・・魔の王の復活を目的としている集団らしい。

獣人       ・・・人と同じ二本足で立ち、衣服を来た獣姿の存在。


「ソラ!」


 呼びかけと共に、ぼんやりとした視界から徐々にハッキリと映ったのは、目から涙を滴らせそうなほど滲ませ、口をキュッと(つぐ)むイヨの顔だった。


 どうやら元の場所へと戻ったらしい。


 背から伝わる地の硬い感覚が、俺が仰向けになっていることを伝えていた。

 そのまま顔を横に向けるとアイリスも仰向けに倒れている姿がみえ、囲んでいたはずの血の泉はいつの間にか無くなっていた。その先では暗がりの中でヤシロは気を失う前とあまり形を変えないまま今も燃え続けている。


「アイリスは、無事か?」

「え? ええ。……きゃっ!?」


 背筋の凍る感覚に身体が動き、イヨを庇いながら身体を転がして避ける。

 その直後、先ほどまで仰向けになっていた場所へ黒い槍が突き刺さった。


「え? 何これ? 黒い槍? どこから?」

「はじまったらしい」

「はじまった?」


 ようやく意識もハッキリとして出来事も、先に立ち上がるとイヨに手を貸して立たせ、空を見上げる。

 すると月明かりに照らされた真っ暗な天から不自然に無数の黒い点が微かに見えた。


 ……一発だけではないのか。と、考えている場合ではないな。


「イヨ、すぐに逃げるぞ」

「え?」

「先に走れ!」


 イヨは頷き方向を確認すると、こちらに顔を向けつつも鳥居に向かって走りだす。

 俺は横たわるアイリスを抱きかかえてその後に続くと、イヨは鳥居の距離を確認しながら俺の走りに合わせて横並びになった。

 直後、先ほどまで遥か先にあるように思えたいくつもの黒い槍が先ほどまで居た場所から広がるように何百本、または何千本もの槍が次々と地に突き刺さり、俺たちとの距離を縮めていく。


「なっ!? 何よあれ!?」


 再び振り返ってみてみると、突き刺さった槍からは黒紫色の煙ともに蒸発すると黒紫色の霧が広がり始めていた。


 穢れ。ミコトは抑えると言ってたはずだが。


「急ぐぞ!」


 アイリスを抱えつつ見えない足元に躓かないように身構えながらできるだけ全力で走る。

 黒い槍は尚も四方八方へとその範囲を広げてヤシロの境内へと次々と降り注ぐ音が聞こえていた。その音は逃げる俺たちすぐ後ろまで追いつき、鳥居を目前にして槍が俺たちを串刺ししようと降り注いだ。

 直後、光が俺とアイリス、イヨを覆うように半透明な傘となり、黒い槍は光に当たると光は盾のごとく防いで槍を次々と粉々に霧散させていく。


「なにこの光」


 驚きに思わず呟きながらも走り続けるイヨ。


「イヨじゃないならミコト、か。助かった」

「ミコト……様?」


 鳥居を抜けたところで黒い槍の雨は止み、光も消えた。

 イヨと俺はそこで立ち止まると無意識に振り返ってヤシロの方を見た。


「……助かった、の?」


 イヨがそう呟く。その質問に答えるように黒紫の霧がどんどんと広がり建物も炎すらも飲み込んでいく。そして鳥居から見えたヤシロを含む三つの建物すべてが黒紫の霧で覆われ鳥居のすぐ足元の地面さうら霧によって見えなくなり、鳥居のところで見えない壁があるかのように広がる行き場を失った霧は天を目指して高くなっていく。


「これは……、すぐに逃げないとな」


 イヨが顔を俺の方へ向けて睨んだ。


「ソラ、貴方何をしたの!」

「その説明している時間もなさそうだ。この森を出るぞ。案内を頼む」


 もの言いたげに口を震わせながら開けて、何も言わずに閉じてイヨは頷いた。それを見て、抱きかかえていたアイリスの状態を確認する。


 痛々しい傷はいくつもあるが、深い傷は一つもない。これなら気を失っている間なら背負っても大丈夫か。


 抱きかかえて転ぶ危険と背負って様子を確認できない危険を天秤にかけて想像し、傾く。


「イヨ、アイリスを背負いたいから手伝ってくれ」


 無言で頷いたイヨに背負うのを手伝ってもらい、森の道をイヨが白い光を灯して先に走り、アイリスを背負った俺が続く。


 悪い予感とはよく当たるものらしい。


 走って炎上していた村の所まで戻れたとき、霧はヤシロだけにとどまらず、徐々に森全体に広がり始めていた。

 鳥居からの囲いを霧は噴火でも起こっているように吹き上げ、透明の筒のような器から溢れるように霧が雪崩のように周囲の木々を飲み込んでいく。

 森のその方向からはからは異変を察したらしい魔のモノや獣、鳥が騒ぐ鳴き声が周囲を騒めかせ、霧を中心にして波状して広がるように一部の鳴き声が近づいてくる。が、その鳴き声から察して逃げる姿は一匹も見当たらない。

 村の中央にある広場部分で二人は立ち止まる。


「あの霧はいったい何? ソラの反応からして危ない何かのようですけど」

「穢れ、らしい。あの霧に触れたらおそらく死ぬ」


 精神的に。とは今はいうべきではないな。

 先ほどの光がまた守ってくれるかもしれないが、今はとりあえず危険という事さえ伝われば納得できるはず。それよりも。


「アレが何かより今は森から出る方法が最優先だ」


 イヨは口を開いて何か言おうとして止め、一度大きく吸って吐いてから頷いた。

 そして再びすぐに走り出して道なき道を進んで再び林道に出たところでただ迷いなく道沿いに走って進んでいく。


「人が通れる道はここしかないです。先でも百鬼達が待ち伏せしているかも」

「ココに居ても死ぬだけだ。それでもかまわない」

「……それもそうですね」


 イヨは何やら口ずさむと急に身体が軽くなるのを感じた。


「何をした?」

「私とあなたの身体能力を一時的に上げたのです。道を進んではいますが森を抜けるにはまだ距離がありますから」

「特別な力とやらは便利だな」

「……私の力は周囲から評価された事なんて一度もなかったです」


 眉を潜めて視線をそらすと俯いた。その心情を表すように火が揺らめいた。


「だとしたら周囲の目が間違っているのだろ」

「……そう、かしら? それよりももっと早く走りますよ」


 身体は体重を失ったかのように軽く、一歩一歩走って蹴る足は道中は急な坂道をただ動く足に任せて走っているようで帯剣による偏った重みすら羽程度に感じて気にならなかった。

 それでも万が一の百鬼達の襲撃に備え、途中で何度か息を整える休みを入れながらも走り続けると、その道は森の平面が多く緩やかな傾斜は上り坂へと変わった。


「霧とはまだ距離がありますし、走るのはココまでにしましょう。人族が出入りできる登り道はココだけなのですが……」


 その周囲には百鬼どころか獣の音も気配すらない。イヨは周囲を注意深く見渡しており、俺も周囲を見渡してみるが他に誰もいない。


「村の人たちは全滅か」

「おそらくは。それにココに居ないという事は村を襲撃をしていた百鬼たちも」


 道中でも遭遇はなかった。人どころか魔のモノさえも。ただ、村で遭遇した百鬼の姿を見ていない事を思い出した。

 周囲の音や視線がないかを警戒しながら少し休憩する。そして、俺はアイリスを背負ったままイヨと坂道を歩いて登り始める。森の方は暗闇が遠くでは濃く霧が迫っているかは見えない。


「夜が明ける前に登りきった方がいいだろう」

「暗闇で足場もあまり良くないのに最悪ですね。ただ、それなら少し力を温存したいので、身体強化は解かせていただきます」


 体力を消費しやすい山道での迷いない判断。


 経験則か。


 頷き山道を登る。坂もすぐに整備された石段の階段へと変わり、西へ東へを繰り返しながらその途中何度も休みを入れ、イヨの灯す光を頼りに登り続けた。

 こうして息を切らしながら森林限界も越え、息も切れ切れになりながらも進み続けると夜が明けると共に階段は終わり道もなだらかに変わったところで小屋らしき建物がみえた。お互いに無言に顔を見合わせて頷くと、小屋に入る。

 

「も、もう無理……」


 山頂の山小屋に入るなり、イヨは倒れこむようにしてうつ伏せに倒れ込んだ。

 俺はアイリスをその隣に寝かしつけ、同じようにしたい気持ちを堪えながら小屋の外で見張ろうと扉にてをやる。


「そ、外に出ない方が、いいですよ」


 イヨが息を切らしながらもそれを止めた。

 イヨは気だるげに手で上半身を先に起こしてから起き上がると、小屋の棚にあった予め隠していたらしい衣服をアイリスに着替えさせはじめる。


「どうしてだ?」

「ココは山頂付近なのですよ。……まぁ、身をもって理解した方がはやいので好きにすればいいです」


 ため息をつくイヨの様子に首を傾げ、確かめようと一歩外を出た瞬間、肌が凍り付くかと思うほどの寒さだと気づいた。

 一歩下がって小屋に入ると寒さは嘘かと思うほどに感じない。その意味を求めるようにイヨを見る。


「わかりましたか。私が調整しているのです。ただ、外気との温度差を調整するのは非常に難しいのでこの小屋くらいの範囲が限界です」

「なくなるとどうなる」

「この恰好では三人で凍える事になりますね」


 身体強化を解いた言葉を思い出し、その理由にようやく気づいて頷く。


 つまり、山を登っている間からは保温の方に力を使い続けていたのか。


「いつまで大丈夫なのか?」

「そうですね。そういう訓練はずっとしてきましたし、途中で何度も休憩を挟めたのでまだ大丈夫です。ただ、持続も限界はあるのでこの休憩の後にできるだけ早く山を降りたいです」

「わかった。アイリスが目覚めたらすぐに降りよう」

「……うぅん」


 会話が途切れたところで呻きとともにアイリスが目を覚ました。


「いっ!? ココは?」


 痛むらしい身体をさすりながらアイリスは周囲を見渡し、不思議そうに俺を見て目を見開く


「ソラ!? に、………………ん?」


 イヨを見て首を傾げた。


「私は神無月イヨです」

「彼女はアイリスの味方だ」

「かんな? 味方?」


 まぁ、目覚めたばかりでいきなり味方と言われても反応に困るかもしれない。

 アイリスはぽかんとしていたが、周囲を見渡し再び自分の傷をみて思い出したようだ。


「みんなは!?」


 慌てて小屋を駆けだすアイリス。

 外は凍り付くような寒さだというのに、気にする様子もなく、森のあった方を見ながら呆然と立ち尽くしていた。

 イヨが凍えさせないようにと慌ててアイリスに近づき、それに俺も続く。


「そんな、そんな……。……だって、私が……」


 森の方を眺めれば、日の当たる光景に映し出されたのは、山に囲まれた中に黒紫色の霧で覆われた雲がすっかりと森を覆いつくしていた。霧によって炎すらも消えたらしく、その中央に朽ちた古城らしきものが霧に浮かぶ別世界のような不気味というべき異様な光景が広がっていた。


「私が……、私のせいで……。そう!」


 アイリスは俺の腕を掴み目を向けた。


「村の人たちは! ねぇ、村の人たちはどうなったの!?」

「彼らは死んだ」

「え? でも……、だって…………!?」


 拒絶の言葉をうわ言のように呟き、手を震わせ、俺に何かを言おうとして口を開けたが何も言わずに閉じた。

 そして、アイリスは目から涙が溢れさせながら再び森の方を見て、声を上げて泣き始めた。


「もう少し言い方があるでしょう!」


 おそらくイヨの言うとおりなのだろう。

 ただ、俺が何を言ったところで彼らが百鬼に殺されたという事実は消えない。その悲しみはココで知り、流せる涙はココで流して前に進んで……というのはあまりに自分勝手で無慈悲な言い訳か。


 涙を流して今はただ霧に包まれた光景にその顔を向けるアイリス。


 俺は約束を守り。できる事をしてアイリスを救った。…………救えたのだろうか?


 出来事を思い返して結果ともいうべきアイリスの表情を再び見る。


 その結果が今であり、約束を守ったというのに誰一人として幸せにすらなっていない。それどころか、約束を守ろうとした故にこの地はなくなり、村の人たちはみんな死に、俺はミコトとこの穢れを祓うという新たな約束をした。

 本来であれば、嘆くべきところなのかもしれない。ただ、今の俺にはココで落ち込むような感情は持っておらず、次に進むべき道もハッキリとしている。


「東…………」


 そう呟き山の頂上から東を見れば、広大な平野とその南側に海が見えた。


 この先に何が待っているのか。

 結局のところ、(ミコト)には三つの質問内容まで誘導され、肝心な所はすべてはぐらかされてしまったような気がする。この霧の正体もわからず、約束の守れるかの未来すら見えず、記憶は今もない。

 ただ、それでも前に進まなければならない。自ら選んだ約束を守るために。


 ……俺に、できるのだろうか?


 思わず呟きかけた言葉を飲み込み我に返ると、隣にイヨとアイリスが指示を待つように立っていた。

 いつの間にか二人は仲良くなったらしく、イヨが優しくアイリスの肩に手をやりながら、こちらを見ている。

 そんなアイリスとイヨの頭をポンポンとして呟くように伝える。


「行こうか」


 目指すはイヨの暮らしていたという日ノ国。

 今はただ前に進めばいい。


はじまりのはじまり


おわり


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