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27-1、「私は護人だよ」

「ソラさん! よくぞご無事で」


 夜道で二度ほど(つまづ)きつつも駆け寄り、俺が抱きかかえていたアイリスに気づいて喜びらしき表情は驚きに変わり、顔を曇らせる。


「あの、アイリスさんはご無事なのですよね?」

「今は眠っているだけだ。いずれ起きる」

「そう。よかった」


 心から安堵してホッと息をついた姫夜。

 少し遅れて近づき会話を聞いていた才加もアイリスを心配そうに見ていた。


「すまない。命令を無視して牢屋を出た。罰は受ける」

「そんな事、今はどうでもいいのです」


 どうでもいいのか?


「それよりも、です。アイリスさんを今すぐ九条さんに診てもらいましょう。文式九条さん!」


 有無を言わせぬ姫夜の声に九条は眉を潜めてため息をつく。そしてアイリスの顔に手を当てて様子を見て、手首に手を当てて確認はじめる。それらが終わると再びため息をついた。


「異常は見つかりませんでした。呼吸も脈も安定しています。ただ、この世界の医学知識のない素人判断でですからわかりませんでしたの方が正しいかもしれません。私見として目覚めるまで安静にするのが一番かと」

「そう、ですか。ではココで野宿としましょう。予定でも合流したら夜明けまでその場で休む予定でしたし」


 姫夜の即決によって焚き火の準備をし始める。その夜の見張りは俺から始まり、イヨ、ヒミコ、そして名乗りを上げた才加と九条も加わり交代で行う事も決まった。

 

 その野宿。座って目を瞑りつつもしっかりと耳を澄ませてすべてに警戒するイヨとヒミコ。それとは対照的に目を開けて立ち、姫夜を中心にして大空団以外の周囲を警戒する才加。周囲というよりも大空団の一員に対して警戒する九条。

 朝まで砦からも百鬼からも、賊からの襲撃気配はなく、何事もなく朝となった。


 新しく加わった四人は野宿には慣れていないらしく、表情には眠気と注意散漫さが伺える。ただ、最後に気だるそうに起きたのはアイリスだった。

 それとは対照的に、イヨやヒミコ、調子が良いのか朝の食事を手際よく準備していた。姫夜も疲れはあるようだが昨晩より元気なのか笑顔がよく見られた。


 全員が各自で身だしなみを軽く整え、姫夜の提案により食事は全員が揃ってからはじめ、それぞれ簡単に名を名乗る。

 そして、出発前に大空団の所持する食料を確認し、一日分の携帯食と水が各自に配られてから先を進む。


 廃道らしき道は酷く、荷物多くは慣れている俺とイヨで分け、それでも溢れた物は九条、荊井、小梅内、中竹境の四名が体格に合わせて分けて持つ。それらイヨから姫夜に提案して姫夜と才加が荷物を持つ提案はイヨが却下したうえでの指示だった。


 大きな荷物を背負って歩き始め、アイリスに話しかけられいた九条より更に後ろの両手で担ぐための縄に手をやりながら足元ばかりを見て歩く三人の姿を眺める。


「ソラ様、後ろが気になりますか?」

「俺とイヨの分も含めた荷物を運べたという事は、それなりに体力はあるのか?」

「それはどうでしょう。合流した時、新たに加わった四人に加えて、聖宮様、逢野様、ヒミコも荷物を持っていました。夜間ではありましたが、足場の良いなだらかな下りの道でしたし、ヒミコと逢野様が多くの荷物を持ち、砦からもそれほどでもない距離でしたから」

「だが砦を守る戦いをした後だろ」

「ヒミコからの報告では戦いはほぼヒミコと逢野様、判断は聖宮様がしていたそうです。ソラ様が過大な評価や期待をしても彼らに負担を与えるだけです。それに聖宮様へは能力は今日の結果を見てからと荷物の分量や役割の調整をしましょうと伝えています。それよりも……」

「どうかしたか?」


 イヨが俺の顔をじっとみている事に気づいた。

 その理由が俺にはわからない。ただ、俺の言葉にイヨはなぜか軽く笑って首を横に振った。


「いいえ。ですがそのような疑問を持たれたのであればソラ様にもお伝えしておきますね。

 荷物を持つあの四人は旅路の間ずっと荷物持ちと雑務をしてもらう予定です。理由は人里もない廃道の山道ですが、確実な成果となる仕事を与えて団員としての体力づくりが目的です。加えて、疲れは余計な考えを起こさないようにする手段でもあります」

「イヨは四人を信用していないのか?」

「無能なら気にする必要すらなかったでしょう。ですが、あの四人には魔法という力があります。聖宮様が団長になる事を躊躇った事情を考えますと、命令を軽視したり従わない事を懸念しています。最悪、力の過信による不満から団長の地位を奪おうと考えるかもしれませんから」



 と、冷ややかな視線を向けていた。

 そこへ姫夜が才加を引き連れて近づくと頬を膨らませた。


「イヨさん。今は信用すべき仲間ですよ」

「これは失礼致しました。ですが聖宮様も信用されるからにはご覚悟ください」

「私もイヨさんの意見に賛成です」


 二度も頷く才加。


「えっと……」


 二人の反応に姫夜が俺に助けを求めるように俺を見た。

 ……なぜ?


「大丈夫だろ」

「そうですよね!」


 なぜか姫夜は頷き表情を明るくする。

 そして俺の顔を見たイヨはため息をつき、話も途切れて姫夜との距離ができたところで隣にくっつくようにし、耳元近くで姫夜に聞こえないように囁く。


「ソラ様は聖宮様のご覚悟を大丈夫と言ったのでしょう、ですが聖宮様は四人が問題を起こさないと解釈しました。その責任(・・)はとってくださいね」


 と。




 山道の旅路はひたすらになだらかな昇り降りを繰り返す山肌に沿う廃道をひたすら進む。


 数日で隊列は似たようなものとなり、大空団の全体を見渡す。先頭には長弓を持つイヨと剣を持つ俺、その後ろに姫夜と刀を所持した才加が続き、そのすぐ後ろに短弓を持ったヒミコとアイリスが歩く。そして、少し遅れつつある荷物を持った新たに加わった四人が小型の刃物も身に着けていた。

 その廃道の山道では必然的に旅に慣れていない四人の体力とその足取りに合わせてゆっくりと進む。慣れない道に苦労しながら個々で努力はしているらしく、そのおかげか姫夜も自力で歩いていた。


 一日五回に分けての食事は姫夜の団長としての方針に基づき九人の全員がその役割に関係なく同じものを食べ、夜になれば焚き火を三か所つくっての体力に余裕がある俺とイヨ、そしてアイリスが交代で行う。


 大空団の多くはきれい好きなのか小川があればそこで身を清め、小川がなくても日暮れ前に野宿する場所が決まると水の魔法とやらでかからず身体を清潔に保つようにし、その事はイヨも満足にそうにしていた。

 ただ、その度に監視と見張り役として使われる俺にとっては少々うんざりする時間でもあり、中竹境、小梅内の二人は水の魔法は使えないらしく、女性たちが終わってから目の見えないヒミコの特別な力を借りて男たちでで身体を洗う。





 来る日も来る日もひたすら歩き、休み、歩き、食事し、歩き、休み、歩きを繰り返し、日が傾けば身体を洗い、野宿する。

 俺が稽古できる時間は見張りを担わない休みと早朝の時間だけ。旅から数日して周囲には様子を伺う魔のモノや遭遇した獣もいた。ただ、その戦いのほとんどすべては先頭のイヨが真っ先に理晶を使った火や水などで退治するか追い払った。


 ただ、そんな平穏とも思える旅路でも歩き続ける日々と見張りを必要とする野宿では疲れは溜まっていく。らしい。


 アイリスと俺を除き、今も健気に強気をみせている姫夜を含めて大空団からは疲れがみえ、特に荷物を持つ四人も既に疲れが露骨なまでに見て取れた。休みの時間では荷物を持たない姫夜や才加、ヒミコに対しての密やかな妬みを聞き流す事もあった。一方で、イヨは姫夜に対して「不満の声が聞こえるのは良い事です。率いるとは常に目的と全体の現状把握に勤め、我儘は聞き流して、良い提案がなされたときは採用する事を心がけてください」といった話をしていた。



 そんな旅路から数日で山中の湖に辿り着き、警戒のために迂回して湖を通り過ぎたその日の朝の全員での食事での事。

 イヨから提案があった。


「聖宮様、少しよろしいでしょうか」

「はい。なんでしょう?」

「このまま北上すればもう少しで日ノ国の国境に至ります。ヒミコ、日数の予想は?」

「およそ五日」

「まだ五日も……」


 姫夜の呟きは他の者たちも同意だったらしく、落胆が伺えた。

 一方で、姫夜はイヨの目を真っ直ぐ見ていた。


「それで、どうしてその話を?」

「お察しかと思いますが、今の道のりでは途中で食料が不足しそうなのです。水については私たちの特別な力や魔法のおかげで荷物としてはかなり減らて食料を余分に運んでいましたが、三、四日後には。体力を消耗する旅路で食事の量を減らすという選択は望ましくありませんし」

「それは…………困りますね」


 困る。そういう姫夜に戸惑いはなく、頷くと才加と目配せして頷いた。


「イヨさんは何か考えがお有りなのですね?」

「これは提案です。ソラ様とアイリス様に狩りをしていただいてはどうでしょう。お二人であれば体力に余裕もあるでしょうし、ご自身で身を守る事もできます。アイリス様も同行しているので別行動をしても遅れるや迷うといった事も起こらないかと思います。大空団は既に私とヒミコで余裕がありますから」

「それは……」


 なぜか姫夜がちらりと俺を見た。


「聖宮様、ソラ様を見ても能力を疑問視されたと思われるだけですよ」

「えっ?」


 なぜか驚いた表情をする姫夜。


「アイリス様はどうですか」

「わたしぃ?」


 妙に言葉の伸びた返事をして耳を動かし尻尾をうねらせる。

 そして、おもむろに地面に手をやり、目を閉じて何かを考え、更に地面に耳を当てた。そして顔を上げると頷く。


「うーん、別行動は大丈夫な気がする」


 再び耳をぴょこぴょこ動かし首を傾げる。そして尻尾を交互に三度振ってから答えた。


「でも、狩りがうまくいくかは運しだいかも」

「運、ですか?」

「だって、ソラの得手は弓じゃないし」


 視線が一斉に俺の剣に向かい、そしてヒミコの短弓とイヨの長弓へと向かった。


「獣は警戒心が強いから。多少は近づける事もあるかもだけど、ソラだと獣が先に逃げちゃうかも」


 周囲の納得したという表情がした、のは気のせいではないようだ。


「ソラ様、弓の腕前は?」

「弓を引けば矢を飛ばせる」

「……なんとなくわかってしまいました。それではソラ様以外に弓を扱える方は挙手をお願いします」


 真っ先に挙手をしたのはヒミコ、才加、そして意外にも姫夜だった。

 だが、その三人を見てイヨはため息をつく。


「では、聖宮様、逢野様、ヒミコ以外で多少は使えるかもという方は?」

「えっと、魔法じゃダメなんですか?」

「火で炭となっては食料になりません。そうでなくても下処理ができる状態なければ味を覚悟して食べる事になります。一応、水の魔法が可能なら窒息という手段はありますが、溺れて気を失うまで動きを封じるか追跡する必要があります。出来るなら矢で射殺した方が時間も労力も少ないでしょう」


 イヨの言葉に荊井が首を傾げた。


「それならどうして、聖宮さんや逢野さんじゃダメなの? 弓を扱えると言っているのに」

「聖宮様は団長です。大空団を指示できなくなる行動は好ましくありません」

「私は別に……」

「そうでなくとも私どもの護衛対象が聖宮様と逢野様です」

「何よそれ。私なら死んでもいいって事みたいじゃない」

「その通りです。皆様は聖宮様のお願いで守られているだけですから」


 荊井がイヨと睨み合う。


 そんな二人を前にして「あらあら仲良くなれそうですね」とほほ笑む姫夜に、「そうですね」と淡々と頷く才加。その二人に「いや違うでしょ」と正す(・・)九条。

 つまり、多数決では二対一で仲良くなれそうという姫夜の言葉が正しいと判断した。


「それで、荊井は弓を使えるのか?」

「呼び捨てしないで!」

「えっと、たしか荊井さんはアーチェリー部で弓を扱うのが得意だったと思いますよ。ねぇ、才加」

「はい。そうです」

「勝手に答えないで!」

「大丈夫、私とソラが守るから一緒に頑張ろう」

「頑張らない! ……じゃなくて行くなんて言っていないから!!」


 荊井はキーキー喚く。が、ヒミコからの短弓と矢を渡されるとあっさり受取り、行きたくないと言いながらアイリスと手を繋いで引っ張られながらも歩き出す。俺も獲物を捌いて担ぐ杖と袋、そして小刀をヒミコから受取る。

 こうして、三人で別行動をする事となって大空団の他の者たちが見えなくなった森に入った直後だった。


「あの……、ちょっと待って」


 荊井が急に身体を震わせ自身の腕で自身を抱きしめだした。そしてうずくまる。


「そうだよねぇ」


 アイリスは周囲を見渡し、頷き「よし」と呟く。


「ソラ、背負ってあげて」

「わかった」

「わかったって……え?」


 荊井は嫌がるかと思ったが、姿勢を低くして背を見せると意外にも大人しく背負われた。

 耳を動かすアイリスを先頭にして、ひたすら歩く。足場を的確に選びながら軽快に進むアイリスに続くなので背負っている苦労もなく、足取りも軽い。

 背中からは不安を感じるような気配はずっとあったが。


 大空団であれば一日以上かけて進む距離を半日で歩き終えたところで三人で休憩して軽く食事をとる。

 そして、体は休めながら周囲に警戒をしていたアイリスの耳が高く立った。


「ソラ、獲物の野豚はあっちにいる気がする。たぶん一緒だと失敗するから一人で向かった方が大丈夫だと思う」


 ……それは大丈夫なのか?


「アイリスは大丈夫か?」

「私は護人だよ」


 自信ありげに胸を叩く様子とその表情。

 俺はアイリスに道具を渡すと剣を抜き、言われるままにアイリスが指さした先を目指して斜面を進む。




 ……

 …………

 ………………




 下りとなった坂の木々の隙間から見えたのは、緩やかな谷間となった所で何かを鼻で探して食べているらしい獣だった。茶色く棘のような毛を持ち、つぶらな瞳に反して鋭い牙、こじんまりした角、そして小回りの効く小柄。丸みもあり短足。


 まだ距離があるからかこちらが見ているのに気づいた様子はなく、一見すれば矢で狙いやすそうな格好の的。ただ、アイリスの言った意味がすぐにわかった。


「あれは囮か」


 野豚を囲むように感じる俺を狙う気配。どうやら魔のモノがいるようだった。

 俺よりも先に気づいて狙いを定めていたらしく、俺を取り囲もうと間合いを詰める不自然に地を踏みしめる音が微かに聞こえる。

 その音も人が逃げきれない間合いまで詰めたところで走る足音に変わり、距離も位置も異なる三つの足音に気づく。そして、俺にもっとも近づいていた一帯が背後から近づき、振り返った直後に覆いかぶさるように大口を開けて襲い掛かる六本脚の黒い魔のモノ。が。


 ――シュッ


 魔のモノの隙間を的確にすり抜け、突如として見えた正確に俺の頭を貫いたであろう矢を間一髪で姿勢を低くしてかわした音が鳴った。

 そして、矢に続いて襲ってきた魔のモノを低い姿勢のまま胴元をかわし際に斬った。直後、痛み悲鳴をあげて消滅する魔のモノ。ただ、矢を飛ばした相手を見たい気持ちを止める。


「先にあと二体を。だが」


 嫌な予感。今度は二体で背後から襲い掛かろうとした魔のモノへ振り返ろうとし、その時に再び視界に映り、そして正確に俺の胸めがけて飛んできた矢をかわす。

 そして、一体目の魔のモノがまったく同じ姿勢、同じ状態で襲い掛かるところまったく同じ方法で避けながら胴元を斬る。そして、残りの魔のモノに対しては足を一本、二本と斬り、バランスを崩したところで大口から放たれた奇妙な液体をかわして斬り捨てた。


「これで全部か」


 息を吐き、戦い終わってから気づく。

 明らかに俺を狙ったとしか思えない矢は、魔のモノの虚を突き、一撃で仕留めるための最適な間合いで避ける位置に飛んできた事に。


 偶然か?


 魔のモノの気配がなくなったのを確認し、剣を振り払って鞘に納めてから矢が飛んできた方を見る。笑顔で近づくアイリスと恐がる荊井。


「わ、わざとじゃないから!」


 つまり、本気だったのか?


 アイリスの方はニコニコしていた。これはその様子からして口をまげて物言いたげな荊井は()は言っていないらしい


「ソラ、狩りはどうだった?」


 狩り。魔のモノの理晶が三つ、そして矢の行き先を見る。

 そこには野豚が二本の矢が刺さった状態で倒れていた。


「…………」


 狙ってできる芸当ではない。だが荊井は本気で狙ってすべての結果をだした。

 そこで考えるのを止めた。


 理晶を拾うととりあえず三人で倒れた野豚の所へ行き、血を抜く処理をはじめ、内臓は取り出して運ぶ。

 荊井は終始キャーキャーと騒いで罵詈雑言を俺に浴びせ、表情は嫌がりながらもしっかりとその様子を見ていた。頼めば水の魔法を使って手伝う余裕もあるほどに。

 そんな簡単な作業を終え、さっそく合流を目指して道に戻る。


 そんな山道を歩いていると、ずっと不機嫌にしていた荊井が立ち止まった。


「どうして……」


 声を震わせ、弓を手を強く握って堪えようとした感情が溢れる響き。

 それとは対照的に思った事を素直に言葉にして首をかしげるアイリス。


「どうしたの?」

「わ、私は、人殺しなのよ!」

「人殺し?」

「そう! 私は人を殺しをしたの! それもクラスメイトを。理由があっても許されない事なの! なんで! なんで聖宮さんも文式さんもアイリスちゃんもみんな普通に接してくるわけ。おかしいでしょ! 私の世界では犯罪なんだよ。警察に逮捕される事をしたんだよ」


 …………俺を狙った事は含まれないのか。いや、それよりも警察とは?

 俺から見てわかる事。それは荊井は囚われの身であった事だけ。そして殺した男は戦いにも参加していた敵だ。ましてやあの荊井の世界がどうであろうと関係ない。

 警察が何かはわからないが、それは大空団の団員となる前の事。姫夜も承知して団員としている。


 アイリスを見る。

 後ろ姿から見えるしっぽの迷いある動きと考えているらしい仕草をして、頷いた。


「それはイズ美の居た世界での話なんだよね?」


 イズ美。荊井の名前らしい。


「そうよ! でも、どうしても許せなかったの! だって私は……あの三人に」


 荊井は身体を震わせ自身の腕で自身を抱きしめた。


「今もあの二人が恐い。殺すだけじゃ足りないほど憎い。視界に入るだけでも許せない。……でも、消したい、過去も、この世界からの事も、それなのにできない」


 声から溢れる憎悪、嫌悪、悲痛。

 喚きながら泣き、語りだした。とても感情的なその姿にアイリスは一つも否定せず、「そっか」とか「うんうん」と話を聞き、かつ一緒に歩き出す。その道のりも、狩りが成功した事で背負う余裕がない事に荊井は悪態をつきつつアイリスを抱きしめながら歩き、俺は肉を担ぎながら大人しく続いた。

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