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23-1、「ようこそ。大空団へ!」

 徒歩での旅。旅に慣れていない姫夜と才加には一日中歩けるだけの体力はなかった。荷物は俺とヒミコが持ち、周囲の警戒はアイリスが行い、イヨが守りや全体の把握を担った。

 ヨは姫夜が足を痛める前にその様子で判断して無理はやめさせ、イヨは俺は姫夜を背負うように指示し、俺の荷物を代わりにイヨが背負う。


「なぜ俺が姫夜を背負う?」

「それは、ソラ様は経験を何度もしていますし、大きな背中は背負われる方も安心感があると思うのですよ。たぶん」


 ……たぶん?


 そもそも姫夜は荷物より軽い。指示とあれば断る理由もない。

 加えて、イヨはその時だけ特別な力って全員の荷物を軽くするのでさらに軽く感じる。


 旅路は才加の体力も考慮しているらしく、休憩を多めにとり、歩く時間も二人の様子で調整し泊まる場所を決めていた。村に着けばそこからはイヨが村の空き家または村長の家、協会があれば協会に交渉して泊まる。交渉に失敗はない。

 食料についてもイヨが日ノ国の通貨または衣類等の物々交換で食料を調達しながら進む。寝る時は護衛という事もあって俺、ヒミコの二人が交代で見張りをし、協会に泊まる時はその必要もなかった。


 コユルギからソウへと向かう道のりを二日かけて関所にまで辿り着き。来た時と異なる北北西への道を進む。

 道は荷車が行き来で通れるくらいの砂利道へと変わり。周囲の景色も閑散とした村と田畑、もしくは林ばかりとなった。時おり異なる景色は砦や領主らしき目立つ館を見かけた時だけ。そんな道のりを国境沿い山地へ向けて歩いていく。

 そして、今日もイヨが気づいて俺に顔を向ける。


「ソラ様、聖宮様を背負ってあげてください」

「わかった」

「私はまだ……いえ、よろしくお願いします」

 

 姫夜は頷き、俺は背負う。いつものように、その特別な力で荷物よりも軽々と持ち上げ、イヨも荷物を背負ったところを確認してから歩む。


「その……、毎日お手を煩わせてすみません」

「これが俺の役目だ」

「でも……」


 いつもと同じやりとり。アイリスの方を向けば、才加とヒミコの方に加わっていて後ろの三人だけにぎやかな気づき、イヨが俺を見て姫夜に話しかけろと言いたげに見えた。


「今日は晴れだな」

「はい。いい天気ですね」

「……。」

「……。」

「…………旅は楽しいか?」

「あ、はい」


 なぜかイヨがため息をついた。


「ソラ様って。その、話が下手ですね」

「そうなのか?」


 イヨの一言を姫夜に尋ねる。


「いえ、その。旅はこんなに歩くは初めてですが、その、お話も楽しいです。たぶん」


 ……たぶん? 


「そうなのか?」

「どうして私の顔を見て確認をするんですか……」


 背負っている姫夜から堪える笑い声が聞こえ、イヨにはまたため息をつかれてしまった。


 それからイヨと姫夜の俺についての話が始まった。ただ、その会話も疲れていたらしい姫夜の眠りで終わった。

 無言で歩いているとふと思い出してイヨに尋ねる。


「そういえば、なぜ姫夜と才加が歩いている時はこの特別な力を使わないんだ?」

「あぁ。ソラ様からはそう見えるのですね。たしかに説明しておくべき事でした」


 イヨは納得したように頷いた。


「この力は元となる能力を増強している力。百が倍となれば二百となり、一を倍にしても二としかならない力なのです。

 一方でこの力は増強した分だけ体づくりも楽した事となります。二百としたなら百に、二としたなら一といった感じに。また、一時的な使用であれば問題ないのですが、長時間を何度も使い続けると特別な力を得ている時こそ『本来の力』と勘違いしはじめる。……という残念な人もいます。

 聖宮様や逢野様がそうなるとは思えませんが、それでも今後を考えお二人には本来の体力を正しく認識し、努力から人並みには体力をつけていただく必要があるのです」


 増強が楽した事となるのは矛盾している。説明通りならイヨの特別な力は身体そのものを増強しているのではなく、身体の動きに影響する空間そのものに干渉している気がする。そういえば、終焉の森から抜け出す登山では寒さを調整していた。


「詳しいな」

「これでも一時期は師士、侍士、それに政官までもが私の力に興味を持ち、誘いや拐かされそうになった事もありましたから。神子人様がその事に心を痛めてソウで身を隠して師走様のもとで働くよう直々にご命令下さるほどには。

 ですが詳細に調べてもらってからは使えないと思われたみたいで……。あ、調べてもらったのは師走様からで能力についてです!」

「わかっている」

「その結果、中央に戻って冠四位、月ノ巫女、神無月。その名を頂いてからはずっと暁の聖堂に居るだけの身でした。今、思えばこれも護人に任命するだけのための地位だったのでしょうね」


 そうだろうか? 有能ほど更に有能とする力。存在を危険視されて守るためのソウであり、匿う限界となっての月ノ巫女の地位と考える方が自然に思える。それも本人にも周りに使えないと流布する事でイヨを守ろうとしたものと考えれば、その失敗の結果が護人であり追放という意味であったとすれば。

 冠四位、月ノ巫女という地位も、俺たちと同行しなければ死であった事も、城郭都市でイヨが連行されそうなった事も、辰義経が妙にイヨを気にかけている事まですべての説明がついた。そして、初めて出会った時の如月の敵か味方かの問いも、日ノ国ではなくイヨにとってのという見方もできる。


 ただ、これらはすべて憶測。伝える意味も価値もない妄想にすぎない。


「そうか」

「すみません。暗い話となってしまいました。ですが、ソウへ移動したときは師走様とたくさん行動を共にして、如月様からも可愛がっていただき、日ノ国のいろんな場所を訪れて、似て異なる景色をみて、多くの経験をしました。師走様と共に行動した事は……、その、移動だけは大変でしたが、ヒミコとも出会う事ができたりと楽しい思い出はたくさんあるのですよ」

「そのようだな」

「……ソラ様にしては、随分と優しい言葉ですね」

「?」


 顔を見合わせ、イヨが珍しくこぼれた笑いをした。


「考えすぎでした」




 そこから更に歩き、静かとも思える道のりを進み、畑や村を通り進む。

 空の様子を見て、そろそろ泊まる場所を決めようかという頃。


「あぁ、そういえば」


 イヨが何かを思い出したような仕草をしながら声を出した。


「何だ?」


 背中の姫夜の手に少し力が入り、短い息を数回とこすりつけるような僅かな身じろぎをしたので背負い直す。


「ソラ様はコユルギでの襲撃の件、狙いが誰だと思います?」


 イヨにしては時と場所を選ばないあまりに単刀直入な質問だった。

 後ろでアイリスが花を指さしヒミコ、才加と道草をしているのを確認してから答える。


「歩きながら話す事ではないだろ」

「もっともな言葉ですね。ソラ様は、先日のように夜に襲われながらの方が好みですか?」


 背中の姫夜の手がまた少しだけ力が入れ、それにイヨが気づいた。


「聖宮様、起きていますよね?」

「ぇ!? あ……、その……すみません。はしたない事をして」

「大丈夫ですよ。そのつもりで話していましたから」


 つまりはわかっていて話したらしい。


「それでソラ様は誰だと思います? 聖宮様も知りたいとは思いますよ」


 頷いたらしい姫夜の動きを感じ取り、何か答えるしかない事を察して振り返りながら考える。


 …………なぜ狙われたのか。姫夜と才加は協会に預けられてた。そこからアズマハヤ砦炎上が発生し、さらに二人への襲撃未遂が護衛依頼のきっかけとなった。そして出会ったときの二人の怯え。出発時の異様な警戒態勢の護送。そして狙ったかのような集団での護送襲撃。

一見すれば、この襲撃事件は姫夜と才加を狙った行為にも見える。


 それが姫夜と才加を中心として起こった概要の事実。ただ、事実は詳細をその目で見た襲撃事件の現場で起こった事に奇妙な点がある。


 まず、如月を狙った裏切り者の行動。味方と誤認させる護衛という位置に居ながら、この二人より先に如月を狙う行為が目的と矛盾する。

 続いて、如月の護衛はコユルギの城門までだった事。外敵からの襲撃があったとするならコユルギを出てから狙われる事を警戒すべきなはず。


 特に後者については如月たち師士は襲撃者の狙いも狙われている人物もわかっていてコユルギを出るまでとして護送をしていたとなる。

 そして、その狙われていた相手を考えればその推測は今のところ二人に限定となる。一人は神無月イヨ。そして今答えるべきもう一人の名前は。


「おそらくは如月だろう」

「なぜ如月様は狙われたと思いましたか?」


 如月は自身は敵が多いような事を呟いていた。ただ、そんな理由はどうでもいい。

 自身の命を守る事が何よりも重要であり、殺意を向ける敵は殺し、降りかかる火の粉は振り払うもの。そこに『なぜ狙われたのか』を考えるのは理由があれば殺してもいいと考える者の主観的な論理でしかない。またの名を正義ともいうらしいが。


「興味ない」

「ソラ様はそういう方ですものね。そして今回の事に限ればきっとソラ様の考えている事が正しい」

「そう……でしょうか?」


 おそらく首をかしげた姫夜。

 そして、見透かす目が笑っていない含みある笑みをするイヨ。


「すぐそこにちょうどいい木陰があります。後ろの方々とも少し離れていますし休憩しましょうか」


 イヨの提案に頷き、木陰で姫夜を降ろす。

 律儀に頭を下げて感謝の言葉まで言うその姿は見慣れたもの。


「実は聖宮様にひとつご提案があるのです」

「えっと、それは、何でしょうか?」

「聖宮様が、ソウに辿り着くまで私たちの指揮をとってもらいたいのです」


 唐突な提案に驚き呆然とする姫夜。がすぐに我に返った。


「で、でででですが、私などに…………で、でき、ません!」


 動揺して助けを求めるように俺を見て、来た道へ目を向ける姫夜。

 道草からこちらに走って近づいているのはアイリスだけ。そのさらに後ろで歩くヒミコと才加は声が届くには距離があった。


「突然な話に驚いたとは思います。ですが落ち着いて聞いてください。今、私たちを指揮しているのは誰かわかりますか?」

「えっと、イヨ……さんですよね?」

「帝都まではそうでした。ですが帝都から私たちを率いているのはアイリス様です」


 その言葉で思い出した。たしかに、そんなやりとりを弥生とした記憶がある。イヨの行動を思い返してみれば帝都からの重要な決定にはアイリスの判断を優先していた。気もする。


「アイリス、さんが……? ソラ……さん、その、疑うわけではなのですが本当なのですか?」

「本当だ」


 矛盾した言葉に頷く。そこへ追いつき話に加わったアイリスが耳をぴょこぴょこさせて笑顔で手を振る。

 それを戸惑いながらも律儀に笑顔を作って降り返して追いついたアイリスに手まで合わせる姫夜。


「えっと、でも……それはアイリスさんと交代するという事ですよね。でもそれは、よろしいのですか?」

「あぁ。立場を奪ってしまう心配をしているのですね。アイリス様、話は聞いていましたか?」

「うん。聞いていたよ。私が隊長なの。それで……何の話?」


 それは聞いていた……のか?


「聖宮様にソウの協会まで隊長をしていただいてはどうか、という話です」

「あぁ、その話ね。いいよ」

「えっ?」


 即答からしてイヨはアイリスへ事前に伝えていたらしい。

 対して姫夜はなぜか心の底から驚いているようだった。


「その……。アイリスさんは、いえ、そもそも他の皆さんは私が指揮を執るのを嫌だとは思わないのですか?」

「どうして?」

「私はまったく思いませんが?」


 心底不思議そうにするアイリスと偽りない笑顔のイヨ。

 そこへヒミコ、才加もようやく追いつき会話に加わる。


「イヨ、姫夜の疑問を俺とアイリスにもわかるように説明してくれ」

「あぁ、お二人にはわからないのですね。普通の人は役目を奪われる(・・・・)という行為を恐れるのですよ。存在を否定されていると感じて。それに実力もわからない者に任せるなんて嫌だ、不安だといった感じに従わない者も多いです。

 まぁ、理由があればまだまっしな方で、ただの憂さ晴らしや気分で嫌がらせをする者、それに面白半分で加わる者も少なからずいたりします。

 それら人たちは根も葉もない噂、命令無視、陰の悪口。あげくは容姿から言動に至るまで良い所や善行まで否定しはじめる。それも表向きは周囲に善人の顔をして、裏では言葉と行動で殺しにかかる。そのえげつない本性は筆舌しがたく、心はあるのかと疑うほど醜く。それを正しい行為、それが善い事だと確信して行うのです」

「…………」


 言葉にならならなかった。

 非合理的な説明を信じきれず、姫夜を見ても気まずそうに頷き。ヒミコ、才加と見ても神妙な面持ちで頷く。そしてアイリスと顔を見合わせた。


 うん。わからない。

 

 見解は一致した。そんな俺たちにイヨは羨ましいとも物言いたげにも思える目で見てため息をつき、姫夜はなぜか笑いだした。


「笑ってしまってごめんなさい。ですが、そういう事なら、その、お受けします」


 ……どういう事だ?


 アイリスと一緒に首をかしげる。


「ですが、その、本当に私でよろしいのですか?」

「それは愚問というものです。私たちが求めるのは過去ではなく結果ですから」


 まずイヨが頷き、姫夜が周りに確認し、皆頷く。


「そのようですね」


 そして、アイリスが姫夜に手を差し伸べた。


「ようこそ。大空団へ!」


 初めて聞いた?


「大空団……良い名前ですね」


 誰も異論はないままかくして大空団という名前がたった今決まり、姫夜は手を伸ばし、ためらった所をアイリスが手を掴んだ。


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