容赦なし!ゴロウの厳しい罰の時間
鍛錬所で特訓をしていたリュウキとツバサの元へ現れた村長のゴロウ。その村長からの頼みにハルトを手伝わせるため、2人はハルトのいるという広場へと向かおうとしていた。
リュウキとツバサは扉の横に掛かっている板を外しポケットにしまう。
「広場って言ってたわよね。」
「あぁ。」
2人は村長から頼まれた暗号解きをハルトにも手伝わせるため、彼の元へ歩き始めた。
鍛錬所から広場までは、村長の家の横を通り、真っ直ぐ南側に歩いていけば着く。
その間に2人はこんな会話をしていた。
「ハルト生きてるかな?」
「死んでたら困るだろ。」
「まぁそうだけど。新しい罰ってどんなのかしらね。」
「分からねえよ。ただ、あの人はガキだからって容赦しない人間だ。」
「そうよねぇ。幸運を祈っとくわ。」
「おせぇだろ。」
彼らは、狩猟長であるイサムからの罰を受けた経験がある。例えば、
「ただ罰を与えるだけではもったいない。」
という理由で、氷でできた10㎏の重しを素手で3時間持ち続けるという筋トレと称した罰を受けたことがある。女の子であるツバサでさえ6㎏であった。
この罰の後には、リュウキでさえぐったりとしていた。
そして、2人が村長の家の影から広場覗き込むと、なんとも恐ろしい光景が待ち受けていた。
「いいか、ハルト。鍛錬というのはな、身体を鍛えるだけではダメなんだ。精神を鍛えてこそ真の強さを手に入れられる。そして、今の君のように未熟だった私が、初めてその重要性を知ったのがレベル5の魔獣を仕留めた時だ。」
そこには、巨大な氷塊の周りを何かを語りながら歩いているイサムの姿と、その氷塊の中に首から下が埋まっているハルトの姿があった。
「あんなことって!!」
「マジか。」
ハルトは門の方を向いていたため、2人は彼の後ろ姿しか見ることが出来ないが、首が青白くなっているのは近くでなくても確認することが出来た。
広場の周りには、村人たちが何人か憐れんだ目でその様子を見ていた。
「もう30分はあのままじゃないかしら?」
「いやいや、もう1時間はたったでしょう。」
「そんなに!?」
「いつものことだが、今回は少し可哀想だ。」
「ママ、何あれ?」
「あなたも良い子にしてなきゃあのお兄さんと同じようになっちゃうわよ。」
「やだぁぁぁぁ!」
(どうしたものか。)
そんな中リュウキは解決策を考えていた。
「このままじゃ本当に死んじゃう!」
ツバサは恐怖で震えていて、頭なんか働いていないようだった。
(殺しはしないだろうけど。)
そう心の中で思いながらも、決意したリュウキは話し始めた。
「俺があの氷を溶かし、狩猟長を遠くへやる。その隙にツバサはハルトをどこかへ持って行って暖めてやれ。」
「そんな!それじゃリュウキが罰を受けることになるわ!」
するとリュウキは一言だけ発した。
「大丈夫。」
ツバサが心配そうな顔でリュウキを見ていると、突然ハルトが埋まっていた氷に火が着き始めた。
「なんだ?」
イサムはその火を見て目を丸くした。
「うわあああぁぁぁあぁぁ!ぼえ死ぬだんでいやあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
(燃え死ぬなんて嫌だ)
凍えて意識がもうろうとしていたハルトだが、自らの周りが炎で覆いつくされていることに気付き、死の恐怖に叫びだした。しかし、呂律がまわっていない。
ーーーが、すぐに気づいた。
「あれ?あづぐ、、、、、だい、、、?」
(熱く、、、ない?)
「なんだと?」
「熱いわけねぇよ、ハルト。」
「っ!!!ユウギ!ずげぇっ!」
(リュウキ、すげぇ)
リュウキの登場に安心したハルトは、氷に埋まりながらも感心していた。
火魔法を扱うことが出来る者は、実力次第だが温度を調整する事も出来る。つまり、氷を溶かす火は高温に、ハルトの周りの火を低温にすることもやろうと思えば不可能なことではない。
「鍛錬をしてたんじゃないのか?」
「そうなんだけど、用が出来たんだ。ハルトも。」
「まだ罰は終わってないぞ。あと1時間」
「長い。狩猟長が罰にストイックなのは知ってるけど、見逃してくれたりしませんか?」
リュウキは眉間にしわの寄った男を見つめながら首を傾げる。狩猟長たるイサムでさえ、首を傾げた美しい少年に心拍が急上昇する。
「くっ!!ダメだ!私もこの村の狩猟長だ。威厳がなくてはいけない!!!」
「ダメか。じゃあ、森の中で手合わせ願おうか。」
「なんだと・・?」
ーヒュウウウウウウウウウウウウ!!
イサムがリュウキの発言に疑問を感じていると、激しい突風がイサムの全身に直撃した。
「なっ!?なんだ!!?」
周りの村の者たちは、巻き込まれないようにと、家や柵に必死にしがみついた。
しかし、風が直撃していたイサムはそのまま森の方へ飛ばされてしまった。
「よし。じゃあ後は頼んだぞ、ツバサ。」
「ま、待ちなさいよ!アンタはどうするつもりよ!?」
「うーん、5分後に戻る。」
「5分!?」
驚くツバサを置いて、リュウキいはイサムが飛んで行った方へ走り出した。
小さくなっていくリュウキを見届けると、ツバサはまだ動けそうにないハルトをおんぶした。
「行くわよ?」
「あいがどう、つばあ。」
そして、馬小屋の方へ向かうのであった。
(勝手なんだから!)
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「やってくれたな、リュウキ。」
「悪い。怪我でもしました?」
「そんな思ってもないことを口にするんじゃあないぞ。」
「そうだな。」
イサムは木の根元に腰かけていた。氷を木に伸ばし掴んだおかげか、それほど遠くまでは飛んでいなかった。
「お前たちが、ハルトを救い出したかったのは分かったが。今回はそれだけじゃないようだな?」
「うーん。しかえしでもしようかと。」
しかえしという言葉に、立ち上がろうとしていた腰が止まる。
「しかえし?ふんっ、言ってくれる。容赦はせんぞ?」
「俺も。5分って言っちゃったからな。」
「大人を舐めてると、痛い目を見るぞっ!!!」
イサムは威厳とやらを取り返すため、リュウキをめがけて巨大な氷の手のひらを伸ばす。
しかし、それは簡単にリュウキの炎によって溶かされてしまう。
「中々腕をあげたようだな。」
「どうも。」
そう言うと、リュウキは人差し指をクイッと上にあげる。イサムの足元には芯のしっかりしたツタが絡みつく。
「おっと。まぁこれらいのハンデはあっていいかもな。」
「そうか。」
ーゴォォォォォォ
「ん?」
イサムは音がした上を向く。
「何だこれは?」
「火の檻だ。」
「っ!」
ーズドォンッ!
激しい音と共に、イサムが火の檻に閉じ込められる。
「あちぃな。これで閉じ込めたつもりか?」
それを聞いたリュウキは檻に向かって手を伸ばす。みるみるうちにイサムから流れる汗の量が増えていく。
「くそっ。いい加減にしろよ。クソガキ!」
ーパキッ
イサムが足に力を入れると、一面中氷の地面となった。その氷は、リュウキの足まで凍らせた。
「っ!」
「そう簡単に狩猟長を負かすことが出来ると思うなよ。」
氷はどんどんと上半身まで登っていく。
「すみませんでしたと、謝れば許してやるぞ!」
「言ったろ。これはしかえしだって。」
リュウキは両手を地面につける。
「何をする気だ?」
「何だろうな。」
ーゴォォォォォォォォォォォ
地面からうなり声がする。そのうなり声と共に表面の氷が割れ始め、リュウキの足を覆っていた氷も消える。
ーボコッ、ボコッ
「何だとっ!」
うなり声をあげていた地面はボコボコとドーム状の膨らみをあちらこちらに出現させる。そして、イサムのいた地面も膨らみ始める。
檻の中に閉じ込められていたイサムは燃え盛る炎に皮膚を焼かれる。
「あちぃ!」
すぐに氷で全身を覆うが、炎に溶かされ続ける。
(くそ。これじゃあ魔力を消費し続けるだけか。)
そう思うイサムの頭には、降参という二文字が浮かんでいた。
(アイツの魔法はこの戦いに決着をつけようとはしていない。脅しのようなものか。)
「あーーーーー。分かった!分かったよ!!」
(これ以上争っても無駄だな。)
「私の降参だ!悔しいが今回に限っては見逃してやってもいい。」
「そうか。」
降参という言葉を聞き、リュウキは火の檻とツタを消し、地面を平らに戻した。
イサムは、多少出来た火傷を自らの氷で冷やし始めた。
「全く。恐ろしい魔法ばかり使いやがって。」
「良い魔法の間違えですよ。」
「その時々敬語を使うのは何なんだ!なめやがって。」
「敬意を」
「ウソはいい。とにかく、今回だけだぞ。私だって村の子どもを無駄に傷つけるようなことはしたくない。」
「それこそウソじゃねえか。ハルトにあんなことしておいて。」
「あれは罰だ!精神を鍛えるためのな!」
フンッと鼻を鳴らす狩猟長にため息をついたリュウキは、村へ戻ろうとする。
「待て。」
歩き出したその腕をつかまれる。
「何だよ、もう終わっただろ。俺は村へ戻る。」
「いや。今回のことだが。確かにお前は強くなった。私も全力だったという訳ではないが、負けは認める。」
「・・・?」
「だが、これでは威厳が保たれん。」
リュウキは目の前の大男に呆れた。
「それは、村の奴らには黙ってろってことか?」
「違う!負けを隠すことなどただの恥だ!」
「じゃあ何だって言うんだ。」
何が言いたいのか分からない大男にイライラし始めたリュウキだったが、その男に腕を思いっきり引っ張られる。
ーブチュッ
「っ!!?????」
イサムはリュウキの頬に勢いよくキスをした。
「テメェ!!!!何しやがる!!!」
「ただ負けっぱなしというのも癪だから、お前の悔しさで歪んだ顔を見ようと思ってな。」
「っ!!!ふざけんじゃねえクソ筋肉!!」
ードガァァァン!!
そう怒鳴ると、火を纏った拳でイサムの頬を殴った。
吹き飛ばされたイサムの体は思いきり木に打ち付けられる。
「ぐはっ!!」
「二度と俺に近づくな!!」
リュウキはイサムを睨みつけ、空を飛んで村へ帰っていった。
その後ろ姿を横たわりながら見ていたイサムは考えていた。
(あそこまで強くなっているとはな。村長が言っていた通りリュウキはやっぱり持っているかもしれない。この村にいるのはもったいねぇ。)
「それにしても・・・・・・可愛いな。」
イサムはそう呟き、リュウキの怒りに満ち溢れた顔を思い出してにやけるのであった。
彼は独身である。
罰を受けていたハルトを助け、この状況を見逃すよう狩猟長であるイサムに戦いを挑んだリュウキ。無事降参させることが出来た彼は、村へと戻りツバサとハルトの元へ向かう。ついに暗号解きの時間が始まる!
次回「謎解きの時間!村長の元へ届いた手紙の正体を暴け」