鍛錬所!一目置かれるリュウキの力
3人が森から抜けると、そこには狩猟長の姿が。交わした約束もむなしく、1人で罰を受けることになったハルトを置いて、リュウキとツバサは鍛錬所へ向かう。
この小さな村の最も北に位置する建物
-鍛錬所ー
鍛錬所は狩人が魔法の特訓をするために建てられた建物である。
はるか昔、まだこの村が出来たての頃に、村一番の狩人が誰なのかを決める時に村人に被害が出ないよう土魔法を使える者が作ったらしい。
それがいつからか、魔法を鍛える場所として変化していったのだ。
噂によると、村一番の美女が、村人同士が争っている姿を見て涙を流したことがきっかけだとか。
しかし、どのような魔法を使ったのか分からないが、この年季の入った建物は意外と丈夫で、今もなお鍛錬所として愛用されている。
「お、誰も使ってないみたいね。良かった。」
「あぁ。」
使用者がいないことに安心した2人の少年少女は、鍛錬所の前に木の板を掛ける。
鍛錬所を使う際は、自分の名前を書いた木の板を扉の横に掛けることになっている。
「で、今日は何を特訓するんだ?」
「ん?そーね。まずは一回手合わせ願おうかしら。
ツバサはにやりと微笑む。
「勝てねぇだろ。」
「うるさいっ!私だってずっと弱いままじゃないの。リュウキを超える日がいつかくるんだから。」
「・・・・・・いつか。」
ムッとした顔で睨むツバサを置いてリュウキは鍛錬所の真ん中へと進む。
「来いよ。」
ツバサは腕を地面と水平に上げる。
ーヒュンッ
腕をリュウキの方へ振りぬいた瞬間、風の矢がリュウキめがけて飛んでいく。
ツバサは風魔法の使いである。
「ウィンド・アロー!」
ーキンッ!
リュウキの前には氷の壁。
「言われなくても行ってやるわよ。」
「確かに威力はあがった。でもまだ足りねえよ。」
「これだけじゃないわよ!ウィンド・ストーム!!」
鍛錬所内を暴風が襲う。
「くっ。」
「この魔法は初めて使うわ。場所によってはどんな嵐も起こせる、ここでは砂嵐よ!」
(これならリュウキだって目を開けてられない・・・!)
「今日は勝たせてもらうわ!」
ツバサの声と共に暴風は収まったが、砂嵐は未だ荒れている。
そしてリュウキの真上に、無数の風の矢が集まっている。
「ウィンド・レイン!!!」
ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ!!!
さらに砂ぼこりが舞う。
「よし、決まった!!これを避けられるわけがないわ!あ、ケガひどかったらどうしよう・・・。」
「心配どうも。」
「っっ!!!!!!なんで!?」
リュウキはツバサの後ろに立ち、氷で出来た剣をツバサの首に近付ける。
「俺の勝ちだ。」
「もーーーー!なんでよ!上は見えていなかったはずよ。」
「見えてなくても聞こえてる。うるせえんだよお前の魔法。声もか。いちいち何を言ってるんだ?」
「魔法の名前よ!かっこいいじゃない!愛着わくし・・。」
「それで敵に次何が来るかを予想させてたら愛うんぬんは言ってられねえだろ。」
「っ!いいのよ、当たれば。避けられたけど。」
「そうだな。」
「・・・・で。どうやって後ろに?」
「あぁ。砂が厄介だったから水の膜を周りに張って、後は砂ぼこりに紛れて移動した。」
「水の膜・・・。」
「砂は水の中に入ってこれない。それより問題は後だ。」
「あと?」
「砂嵐を起こすのは良いが、それでお前の視野まで奪われてたら意味がねえ。」
ツバサは、リュウキが真ん中にいると思い込んでそこに風の矢を打ち込んだのだ。
「あっ。」
「気づくのがおせぇ。敵の姿を確認せずに魔法を使っても魔力の無駄だ。」
「うぅ・・・。」
「あと」
「まだ何かあるの?」
自分なりに精一杯考え、一人で練習した成果がこうもあっさりバツ印つけられてしまったことで、ツバサのメンタルはかなりボロボロだった。
「いや・・・。魔法の組み合わせはよくできていたと思う。今言った問題がなければ少なからずケガはしてただろうな。」
「え・・・。」
「なんだよ。褒めてるんだ。」
「え、あ、うん。あ、ありがとう。」
「おー。じゃあ特訓だな。」
リュウキは珍しく微笑んだ。
10才の少年が笑うのは自然なことだが、普段のリュウキを知っているツバサはその笑顔に不意を突かれ顔を赤くする。
(べべべべ別に。照れてないし!!!魔法を使って体温が上がっただけだし!)
その現象に言い訳をしながら、自分の横に立つリュウキから顔をそらす。
「いいか。」
そう言うとリュウキは手を動かすことなく風を吹かせ始めた。
静まり返った鍛錬所内は再び、激しい暴風と砂嵐に飲み込まれる。
「はぁーーーー。やっぱりリュウキには簡単に出来ちゃうのね。」
ツバサは呆れるように言う。
この少年にとって、一度見た魔法を真似することくらい容易いのだ。
「ここからだ。ツバサがこの時にすべきなのは、風を操ることだ。」
「風を操る?そんなのやってるじゃない?」
「ちげぇ。ちゃんと操ることが出来ていれば」
リュウキは前へ腕を伸ばし、指をヒョイと動かす。
その瞬間、目の前の砂嵐が一瞬だけ消えた。
「こうやって見たいところを見ることができる。」
「えっ。でもこんな暴風をそんな簡単に動かすのは。」
「あぁ、大変だろうな。でも自分で起こした風だ。操れない方がおかしい。」
自分の魔法の核をつかれたようでツバサは再び顔を赤くする。
「確かに・・・その通りだけど・・・・。」
(リュウキは想像したら簡単に出来ちゃうから分からないのよ。)
この少年は、ただ魔力が人より多いとか、魔法を使うのが得意とかいうレベルではないのだ。
想像したらその通りに魔法を使えてしまう。
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数年前、村に魔獣が襲い掛かってきたことがある。
その日は長老の80歳の誕生日で、宴の準備にみな忙しくしていた。常に1人は村にいた狩人も、この日はご馳走を作るために出払っていた。この村の周りには魔獣が入ってこれぬよう結界が貼ってあり、その結界を超えられるような魔獣を最近見ていないことからも村人たちは安心しきっていたのだ。
しかし、その魔獣は突如として村に大きな影を作り降り立った。飛行型の魔獣だった。それもレベル6。
ー魔獣にはその危険度から世界が定めたレベルが10段階で割り当てられている
残った村人の中には、レベル6の魔獣を倒せるほどの魔法を使うことが出来る者はいなかった。誰しも今日が最悪の宴になると思っていた。
その瞬間
魔獣の全身に大量のツタが絡みついた。そして、その巨体を炎が覆いつくした。
「ウガァァァァァァァァァァァ!!!!」
激しいうなり声が森中に轟いた。
しばらくしてうなり声と炎が消えた頃、狩人たちは慌てて森から帰ってきた。
「おい!!!!何があった!!?」
そこには、こんがりと焼けた魔獣とその正面に立つ6歳の少年の姿があった。
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この少年こそリュウキである。村中が震撼した出来事であったが、同時に村人たちはリュウキの魔法に惚れ込み、さらに一目置かれるようになった。
ー将来は優秀な狩人になると
「もー!!もっと分かりやすく教えてよ!」
「だから、そこら辺の風をヒョイっとどかす感じだって。」
「その感覚が分からないからもっと分かりやすくって言ってるのよ!」
「そんなこと言われても・・・。」
リュウキは困った顔をする。それを見て諦めるツバサ。
「分かったわ。もう自分で何とかする。リュウキはあっち行ってて。」
「あー、そうか?分かった。」
「ガッハッハ!またやっとるのか!」
そんなやり取りをしていると、豪快に笑う一人の男が現れた。
「村長!」
彼の名はゴロウ。ハクオ村の村長である。59歳だが、過去に狩人として鍛えられた筋肉は未だ服の上からでも分かる。いまや魔力は衰えてしまったが、昔は狩猟長並みに強かったらしい。自称だが。
「やぁ!ツバサは今日も綺麗だなぁ。」
「ありがとうございます!」
優しく微笑んだ顔が優しく、村中の子供から人気である。
「リュウキ、お前さんも相変わらず美人さんだな。チューしてやるぞい!」
ゴロウの言葉に背筋が凍ったリュウキは、それに負けないくらい冷たい氷の壁を自らの周りに作った。
「いつも通りツンツンしとるのぅ!まぁそこも可愛いがな!ガッハッハ!!」
氷の壁はより一層厚くなった。
「まぁよい!今日はお前さんたちに話が合って来たんだ。熱心に特訓をしているところ悪いんだが、頼みを聞いてはくれぬか?」
「頼み?」
ゴロウは頷くと、一枚の紙きれをポケットから取り出した。
「これなんだが、昨日わしのもとへ届いたんだ。」
「これは・・・・暗号?」
「分からぬ。他の大人どもに頼もうかとも思ったんだが、みな忙しそうでなぁ。イサムも広場で誰かに罰を与えていた。」
「あ・・・。」
ツバサの脳裏にハルトの泣き顔がちらつく。
「まぁそこで考えたんだ。大人たちよりも君たちのような若い者の方がこういうのは得意だろうと。頭が柔らかいからな!」
「それは否めないな。」
いつののまにかリュウキは2人の近くへと来ていた。近くと言ってもせいぜい声の届く範囲だ。
「そうだろう!君たち3人組は・・・今は2人だが、子供たちの中でも頭は切れる方だろう?」
「ま、まぁそうね。」
ツバサが恥ずかしそうに答える。
「そうだろう!だから、君たちに頼みたいんだ。期限は特に設けないが、出来るだけ早いと助かるな。差出人も分からないんだ。いいか?」
「そ、そう!分かったわ!私たちに任せて村長!」
「おい、俺はまだ」
「うるさい!アンタの意見は聞いてないわ!」
「なんd」
「村長!私たちがを謎を解いてすぐに届けに行くわ!」
「・・・・。」
「ガッハッハ!頼もしいなぁ!それじゃあよろしくな。」
そういうとゴロウは扉に向き直って去っていった。一度リュウキに投げキッスをはさんで。
「おい、俺はそんなめんどくさそうなの手伝わねえぞ。」
リュウキはツバサを睨みながら言う。
「嘘よ。リュウキ、興味を持ったじゃない。」
「え?あぁ、まぁ何かは気になったけど、めんどくさいことはしたくねぇ。」
ツバサはリュウキの顔をジィっと見つめる。
「クッキー。」
「あ?」
「ママが最近よく熟れたイチゴがとれたって言ってたわ。」
「・・・・・。」
「イチゴジャムクッキーって美味しいのかしら。」
ツバサはニヤッとした顔でリュウキを見つめる。
「・・・・・・・・・取引だ。」
リュウキはゴクッと喉をならすと、そうつぶやいた。
それをツバサは聞き逃さなかった。
「分かったわ!!!ママにたくさん作ってくれるよう頼むわね!」
「・・・・。」
悔しいという顔をしながらも、この先自分が口にするものを想像し、リュウキの心は幸せに満ち溢れていた。
ツバサは知っていたのだ。リュウキがツバサの母親が作るお菓子が大好物であることを。
「そうと決まれば、ハルトを助けに行きましょう!」
「りょうかい。」
異なる理由だが、ココロの弾んだ二人は足早にハルトが罰を受けているであろう場所へ向かった。
特訓の最中、村長であるゴロウから暗号の解読を頼まれたリュウキとツバサ。ハルトにも手伝わせるため、罰を受けている彼の元へ向かう。そこで、受けていた罰の正体とは!
次回「容赦なし!ゴロウの厳しい罰の時間」