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エルフの都市

「すごい……ですね」


 門をくぐり、エヴァリーズの中へと踏み込むと、その光景を目にしたクレアが、感嘆の声を漏らした。


 見上げるほどに大きく、それでいて自然と一体となった巨大な都市。それは、人間が作り出す都市ではまず見ることが出来ない光景だろう。


「確かに、これは想像以上じゃな」


 クレアの感嘆に、ヴェルナも続く。


 釣られて俺もエルフの街並みを見上げる。


 あれから100年以上の時が経った。けど、昔見た光景と一切変わることはなく、あの美しい光景はそこにあった。けど――――


「嫌な空気だな」


 同じようにエヴァリーズの光景を見ていたイーダが、クレア達とは違う感想を漏らした。


「ずっと見られている感じだ。落ち着かない」


「そう……ですね」


 周囲からの視線を強く感じる。まるでこの巨大な都市全体が、ここに立つ俺達を監視している。そんな感じを抱かせる雰囲気が、昔と変わらずここにはあった。


「エルフは外の人間を嫌うからな。状況的に仕方なかったとはいえ、こうなるのは仕方がないだろう」


「なぜ、エルフはここまで人間を嫌うんですかね?」


 俺の言葉に、クレアがそんな疑問を返してきた。


 よく問われる疑問だ。エルフは人と同じように国を築き、人の国と外交を結び、交流を行っている。細かい文化、思想の違いなどは有れど、その文化や思想は人のそれと大きく変わる事はない。


 なのに、エルフは人という種を大きく嫌い、閉鎖的な対応を取る。人間からすれば、それに疑問を抱くのは当然と言えるものかもしれない。


「エルフはこの世界で生まれた種じゃないんだよ。これは知っていた?」


「えっと……どういう事ですか?」


 クレアは首を傾げた。まあ、いきなりこんな事を言われても、すぐに理解できる訳ないよね……。


妖精界(フェイワイルド)、じゃったか?」


 クレアに変わり、ヴェルナが代わりの答えを返した。


「そう、俺達人間が暮らす世界とは違う、妖精たちが暮らす妖精界。エルフはそこで生まれ、そしてこの世界へと移り住み、適合した種族なんだよ。

 だから、その妖精界および、それと大きな繋がりを持つ自然との繋がりが彼らのアイデンティティであり、それを常に大切に扱う。だからこそ、この世界の原住民である俺達人間という種と触れ合う事による、妖精界との繋がりが薄れる事を恐れ、極力関わらないようにしているんだ。

 彼らは同じエルフでさえ、人と強い関りを持ったものを嫌うほどだ。当然にその元凶たる人間なんかは……こんな対応にもなるだろう」


「そう……だったんですか」


「なんだか面倒くさい奴らだな……そうまで思うなら、なんでこの世界に来たんだよ」


 俺の説明にイーダは呆れた様に息を付いた。


「まあ、そうだよね……。けど、それ――なぜエルフがこの世界に来たのかっていうのは良く分かっていないんだ。エルフの伝承とかに、その辺りの事はほとんど触れられてないし、現在調査中って感じかな。

 まあ、だから、あまり下手な事をするなよ。中には人間を、完全に敵だって思ってる過激なやつもいるから」


 これ以上の説明は残念ながらできない。だから、適当に切り上げ、そう釘をさしておく。


「わかってるよ。こっちだって面倒ごとはごめんだ」




   *   *   *




 巨大なエルフの都市の通りを抜け、奥へと進むと、すると地下――と表現すればよいのだろうか? 都市の下層、絡み合う木々の下の薄暗く日の光がほとんど届かないエリアへと案内された。


「少々見苦しい場所かもしれませんが、滞在の際はここをお使いください」


 少し埃っぽい石造りの建物。ところどころひびが入り、崩れているところをみると、何とも言えない気持ちになる。


「これは……歓迎されてはいないって事でいいのか?」


 その光景を前に、イーダは率直な感想を口にした。


「歓迎する、しない。以前にここくらいしか場所がなかったんだろうな。エヴァリーズには外泊施設なんてないし、来賓用の施設すらない。外から人が入ってくる事がそもそも想定されていないんだよ」


 ここは、かつてエヴァリーズの都市の上層だった場所だ。エヴァリーズはそれを取り巻く木々の成長に合わせ、上層に新たな層を形成し変化していく。ここはそうした流れで使われなくなった区画だ。


 人の出入りがほとんどないエヴァリーズでは、上層に空き部屋、空き家などはほとんどない。となると、多くの人をまとめて泊めるために、このように使われなくなった区画を使うしかないのだ。


 見てくれはあれだが、これでもここは何百年も前に作られ、長い間都市を支えるための場所として作られているため、構造自体は強固であり、安全ではある。


「まっ、外だろうとあんな空気の場所なら、此処の方がまだいいかもな」


「それは……確かにそうかも……」


 イーダの言葉にクレアが苦笑を返した。


 ここにはエルフの目がほとんどがない。それ故に、外で感じた圧迫感の様なものはほとんど感じられない。そこはある意味でよかったかもしれない。


「部屋の確保が出来ましたら、すみませんがPTの代表者1名、こちらへ来ていただけませんか? 少し、お話があります」


 案内され、取り敢えずの宿泊場所を定めると、此処へと案内してくれたエルフの騎士がそう告げた。


「なんの話でしょうか?」


「あれじゃろう。例の竜に関する依頼の話ではないか?」


「ああ、そうでしょうね。誰が行きます?」


 クレアが尋ねる。すると、全員の視線が自然と俺へと向けられた。


 …………え?


「何? 俺が聞いて来いって事か?」


「私、そもそも乗り気じゃないし」


「お主が……PTリーダーではないのか?」


「え~っと……お願いできますか?」


 何だろう。ていよく押し付けられた気がした。


「分かった……行ってくるよ」

お付き合いいただきありがとうございます。


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