行き先の不安は?
「大分集まったなぁ~……」
迷宮都市アリアスト。城塞都市であるこの都市の城門の前に、多くの一団が集まっていた。
集まった人員のほとんどは、各々武装している。おそらくエヴァリーズ大使から出された依頼を受けた冒険者達だろう。
見たところ7、8PTはある。全部で40人弱ってところだ。当たり前だが、護衛というのは多すぎる数だ。けど、本来の目的を考えると、もっと欲しいと思えてしまう数だった。
「私達、必要なかったんじゃないかって、思える数だよな」
集まった冒険者達を前に、若干厭味ったらしく聞こえる声で、イーダがそんな事を漏らした。
「お前、まだ根に持ってるのか?」
「別に。お金には困ってるから、それなりの額がもらえる依頼はありがたいよ」
「じゃあ、何が不満なんだよ」
「不満はない。ただ、何となくお前がムカつく。ただそれだけ」
「だから、なんでだよ……」
理不尽だ……。なんでこうなる。もしかして、ちゃんと自分の意見を固められなかった事を怒っているのか??
いつもの様にギロリとイーダに睨まれる。ちょっと、居心地が悪い。
そんな俺の姿を見て、イーダは小さく溜め息を付く。
「あんなんで足りると思うか?」
そして再び冒険者たちへと目を向けると、そう尋ねてきた。
「何が?」
「今回の依頼に対しての人員」
「さぁ? 何が起こるか分からないから、何とも言えないかな。ただ――」
俺も再び冒険者たちへと目を向ける。
集まった冒険者達の装備は、お世辞にもあまりいいものと言えるものではなかった。中には中古品と思えるような装備で身を固めている者もいた。
冒険者の装備は、その冒険者の財力に比例する。そして、その財力はおおよそ冒険者の実力に比例する。つまりは、装備の質からおおよその冒険者の能力が把握できるわけだ。
「ただ、なんだよ」
「ただ、まぁ、不測の事態が起こらなければ問題ないんじゃないか?」
見たところ冒険者の装備は全体的に良くはない。おそらくここに集まった冒険者は、俺達と同じく地下迷宮へと下りられなくなった冒険者が大半なのだろう。つまりは下級冒険者だ。戦闘能力は一般の兵士よりかは劣る可能性がある。
もし、不測の事態としてアルガスティア帝国軍と衝突した場合、その戦力はあまり期待できない。
それ以上の竜との戦闘にでもなったら――
「なあ。お前って、竜と戦った事あるんだよね?」
「一応な」
「勝てると思うか?」
「さぁな。エルフの戦力につてはよく知らない。だから、今判断する事は出来ない。けど――」
記憶を探り、竜に関する事柄を思い出す。
「けど?」
「もし、竜と戦うことになったら、ここにいる冒険者たちはなんの役にも立たないだろうな」
「そんなに強いのか?」
俺の言葉に、イーダが小さく驚きを返す。
戦闘に置いて、数は力だ。それはある種の常識としてある。だが、竜などの強力な相手に対しては、それが覆る。竜相手に数など無意味だ。
「剣や弓は基本に鱗を貫けないと思ったほうがいい。それから基本的な魔術は竜には一切効果がない。だから、数なんて集めたところで、竜の餌になるだけなんだよ」
「それ……どうやって勝つんだ?」
「どうやって勝つんだろうな?」
イーダの問い返しに、俺はそう惚けた返事を返す。そして、睨み返される。……ちょっと怖いからやめてくれませんか?
まあ、実際、竜に対してパッと思いつく対処方法なんて存在しない。故に、最強ともいえる幻獣であり、伝説足りうる存在なのだ。
「はぁ。やっぱり、この依頼受けるべきじゃなかった……」
イーダが溜め息を付く。無理もない。
「けど、まあ。大丈夫だろう」
「何を根拠に」
「エヴァリーズには神子が居る。いざとなれば、神子の力を借りて対処できるだろう」
「神子?」
「祖霊の神子。エルフの主神によって選ばれた神の子供。その身は神の力を宿し、エルフを導くために、歴代の英霊の力をその身に降ろす。並みのエルフが敵わなくても、神子の力を使えば、竜にも対処できるだろう」
「へ~。そんな奴が居るんだ。良く知ってるな」
「まあ、一度会った事があるからな。大分前だけど」
「なるほどね」
エルフの神子。話には聞いたことがある。けど、実際のところその力を目にしたことはない。だから、単純にその力を信用出来はしないが、何かしらの策がなければこの様な依頼を出はしないだろう。とりあえず、そう納得して置く。
「何もなければ、それが一番だけどな……」
けど、まあ、それで不安すべてが消えるわけもなく。つい、そんな事を呟いてしまった。
* * *
アリアストを立ち、アルガスティア帝国を抜け、南東に一週間と少し進むと深い森へと入る。そこからさらに数日進むと目的の場所へとたどり着いた。
「「おおお~」」
目の前に広がった光景を目にすると、この場所へとたどり着いた冒険者達の間から多くの歓声が上がった。
生い茂る森にる暗闇と時折満たされる濃い霧が、一時的に薄まったかと思うと、そこには木々の間から差し込む柔らかい光によって照らされた、古い木々と古い建物が一体になったような都市が広がっていた。
荘厳で神秘的。端的にそう表現するしかない光景だった。
エルフの国エヴァリーズだ。
冒険者達の一団を先導していた、エヴァリーズ大使が乗る狼車が先行して前に出る。すると、エヴァリーズの巨大な城門が開かれる。
「では、私達に続いて中へお入りください。くれぐれも、私達から離れないでください」
城門が開かれるのを確認すると、狼車の御者台に乗っていたエルフの騎士が立ち上がり、冒険者達へと振り返るとそう警告した。
少しだけ冒険者達の間に緊張が走る。
エルフは排他的な事で有名な種族だ。その種族のみが暮らすエヴァリーズは、基本的にエルフでないものは入る事ができず、そうでないものは排除される。そんな場所で、特例とはいえ入れたものが、その集団から外れ何かしようものなら、命の保証はない。そんな空気を、少し感じた。
再び狼車が動き出す。それに冒険者達も続く。
多くのエルフの衛兵が見守る中、ゆっくりと、そして静かに冒険者達はエヴァリーズの城門を超え、中へと足を踏み入れた。
こうして俺達は、目的の場所であるエヴァリーズへとたどり着いたのだった。
お付き合いいただきありがとうございます。
ページ下部からブックマーク、評価なんかを頂けると、大変な励みになります。よろしければお願いします(要ログインです)




