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再びの地下へ

 瞼の裏を鋭い日の光が赤く焼く。


 ゆっくりと目を開くと、崩れた天井の隙間から朝日が差し込み、あたりを照らしていた。


「朝か……」


 身体を起こす。身体中が痛い。固い地面の上で寝たからだろう。なんだかんだで、やはりこういう所での睡眠は慣れない。今更ながらちゃんとした宿屋に泊まっておいたほうがよかったんじゃないかと後悔。


「う~んんん」


 一度大きく伸びをして身体をほぐす。それでようやく目が覚めてくる。うん、いい感じ。


「ふぁ~。もう起きたのか、早いんだな」


 丁度よくイーダを起きてきたのか、そう声がかかる。


「まあ、こういった生活は慣れてるから――」


 振り返る。そして、固まった。


 振り返った先にいたイーダの姿は――薄着というかほとんど下着だけのようなあられもない姿だった。


 ローブでよくわからなかったけど、意外と良い身体つきしてるんだな――


「あん?」


「あ……」


 俺の視線をたどり、イーダの視線が自身の身体へと向かう。そして――


「殺す」


 銀色の閃光が目の前を掠めた。どこから取り出したのか、ナイフが俺の眼前を掠めていた。


 とっさによけなかったら確実に入っていたぞ……。


「よけるな」


「いやいや無理だって」


「殺す」


 斬撃からの蹴り、そして斬撃と華麗なコンボが繰り出される。やばい、これ本気だ。


 そんな容赦ないイーダの攻撃に俺は――


「待った、待った。これは不可抗力だ」


 受け流し、組み伏せていた。


 眼前に、手足を押さえつけられたイーダの姿。これは……。


「死ね!」


 戦いにおいては一瞬の判断ミスが死につながる。力が抜けた瞬間、イーダの膝が俺の胴を貫いた。




   *   *   *




 昼過ぎ。都市の広場――指定した集合場所に俺達はいた。


 『達』というのはもちろん、イーダと一緒だ。同じ屋根の下で寝泊まりしたのだから当然である。


 イーダは集合場所からどこかを眺めていた。ずっと、どこか……さっきから視線を合わせてもらえていない。


「あの、イーダさん、まだ怒ってらっしゃいますか?」


 さっきから無視し続けるイーダに、どうにかこうにか声をかける。


「怒る? なんで?」


「いや~、今朝の事まだ引きずっているのかなぁ~って」


「ああ、別に、怒ってないよう」


「そ、そうか――」


「ただ、どうやって殺してやろうかなぁ~って殺意が湧いてきてるだけ」


「う……」


 人はそれを怒るというのではないでしょうか……?


 ちらりと陽光を反射して光るナイフに目を移しながら一歩引きさがる。いつの間に抜いたんだ……さすが斥候(スカウト)隙が無い。


 いきなり最初から悩ませる事態だ。こんなんでいいのかPT内関係!




 しばらくして鐘がなる。広場の近くに建てられた時計塔の鐘の音だ。これが、昨日決めた集合時間の合図だ。


「ごめんなさい。待たせました~」


「すまない。待たせた」


 鐘が鳴り終えると、集合場所にクレアとヴィンスが息を切らせながら駆け寄ってきた。


 今日は二人とも鎧に武具とフル装備だ。


「ぎりぎりになっちゃってごめんなさい。待たせちゃいましたか?」


 息を整えながらクレアが訪ねてくる。


「いや、俺たちも今来たところだか」


「そうでしたか。よかったぁ……」


 クレアはほっと息を付く。


「遅かったじゃん。珍しい。何してたの?」


「え? あ~。実は初めての地下迷宮に降りるので少し不安になってしまって、出発前に道具屋に寄っていたんです。ちょうど行く途中でヴィンスさんにあったので、いろいろレクチャーしてもらってたんです」


「なるほど。クレアらしい」


「準備はしておいて損はない。と思って付き合ったのだが……結果的に、君たちを待たせてしまった。許してくれ」


「許す。というか、それ以前の問題な気が」


「そうか、ありがとう」


 ヴィンスも軽く息を付く。


「それじゃあ。全員そろったかな? では出発だ――と言いたいところだが、その前に装備の確認だ。

 知っての通り地下迷宮は危険な場所だ。装備一つ忘れてましたでは許されない。そんなことが無いように出発前に改めて確認してくれ」


 俺たちの前に立つとヴィンスは胸を張り忠告を告げた。


「はい。わかりましたリーダー!」


 ヴィンスの忠告を聞くとクレアはビシッと背筋を伸ばし、元気よく返事を返すと、すぐさま装備の確認を開始した。それにイーダも一度ため息を付いた後、装備の確認を始めた。


「……」


 装備の確認は大切だ。うん。そこは理解できる。理解できるけど……なんだろう、これは……何かの講習か?


 人が行きかう往来の中で、いそいそと武装した集団が荷物をあさる。なんかちょっと不気味な光景に見えてきた。


「君もやらないのかい?」


「俺? 何を?」


「装備の確認。ちゃんと必要な物はそろっているかい? 大丈夫?」


「ああ、問題ない。朝ちゃんと装備が整っているかチェックした。問題ないよ」


「そうか……ならいいけど」


「?」


 それの返答に少し弱気な返事をヴィンスは返してきた。




「リーダー。問題ありません!」


「こっちも問題ない」


「そうか、じゃあ出発しようか」


 装備の確認を終えると、俺たちはようやく冒険を開始する運びとなった。




   *   *   *




「許可証を確認しました。では、開きます」


 衛兵のその声とともに目の前の大きな扉がゆっくりと音を立てて開かれた。


 地下迷宮への入り口。幾度となく見てきたその入り口は、時が経ちそれを取り巻く設備が変わったせいか別物のように見えた。


 重々しい石の城砦に、地下への門(ゲート)を閉じる鉄の扉。それだけで、ここがどれだけ危険であるかを暗示しているように見えた。


「どうぞ」


 扉が開ききると衛兵達が中へと促す。それにうなずいて答えると、俺たちは一歩踏み出し門をくぐった。


「気を付けてください。では、ご武運を」


 最後にそう告げられると、背後で音を立て門が閉じられた。


 そして、外との繋がりが断たれると、あたりは暗闇で満たされた。




「待ってて、今明かりを灯すから」


 闇に包まれるとヴィンスがすぐさま松明を灯す。


 灯された揺らめく炎が、地下へと続く冷たい階段を照らし出す。


「これで良し。念のためクレアも灯してくれるかい?」


「わかりました」


 ヴィンスの指示に従いクレアも松明を灯す。これで明かりが二つだ。


 まっすぐと地下へと続く階段へと目を向ける。階段の先、松明の明かりが届かぬ場所は闇で満たされていた。


 その闇を目にすると、ここがどれだけ深く広いのか、そしてどれだけ恐ろしいものかを想像させられ、ちょっとした恐怖を覚える。


「ここが……地下迷宮、なんですね……」


 同様にそれを見ていたクレアがそう呟き、息を飲んだ。


「何? 怖いの?」


「そ、そんなんじゃないですよ。ただちょっと、気持ちが高鳴って、胸が痛いだけです」


 茶化すようなイーダの言葉にクレアは少し慌てたようにぐらかした。けど、よく見ると彼女の手は少しだけ震えていた。


 まあ、それも仕方ない。だってここは、多くの人を死に至らしめてきた危険な場所なのだから……。


「大丈夫だよ。俺が付いてる。だから、君たちはそう簡単に死にはしないよ」


 震えるクレアに、ヴィンスがそっと手を置き励ますように告げる。そうすると、クレアの震えが収まったように見えた。


「はい。ありがとうございます」


 ほっと安心したようにクレアが返事を返す。


 なんというか……カッコいいね。うん、ちょっと嫉妬するわ……。


「チッ」


 どこからか小さく舌打ちが響く。そちらへ目を向けるとその正体はイーダのものだった。


「何?」


 目を向けると、鋭く睨み返された。


「いや、別に……」


「そう」


「なあ、一つ聞いていいか?」


「何?」


「あの二人ってどういう関係?」


 クレアとヴィンスを指して尋ねる。


「さぁ? 知らない」


「え? なんでだよ。同じPTメンバーなんじゃないの?」


「あんたもそうでしょ」


「いや、そうだけど……けど、そっちの方が付き合い長いだろ?」


「長いって言っても一か月もないよ。と言っても、ヴィンスは私より後にクレアがPTに入れた相手だけど」


「もともと知り合いだったのか?」


「いや、違うみたい」


「そうなのか……」


 再び二人へと目を向ける。


 随分と仲が良さそうだ。うらやま――いや、うん。


「クレアはヴィンスの事強く信頼してるみたいだし。あいつ、冒険者には強い思い入れとかあるみたいだから、仲がいいのはそのせいでしょうね」


 イーダがぶっきらぼうに答える。


 確かこのPTで俺を除けば、ヴィンスが唯一地下迷宮に潜ったことのある冒険者だったはずだ。レベルは確か10。つまり10階層まで進んだことのある冒険者ってことだ。


「なるほどね」


「けど……」


「けど、なんだよ」


「いや、ただ私は、あいつはなんかキナ臭くて好きになれない。ただそれだけ」


 ヴィンスに睨むような目を向けるとイーダは答えた。


「そ、そうですか……」


 なんか、まとまりが悪いPTだなぁ……。


「ついでにあんたもね」


「あ、はい……」

お付き合いいただきありがとうございます。


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