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ドラゴン討伐

   ――Another Vision――


「こちらです」


 一度確認を取ると、フォロススィギルがエリンディスの居る部屋へと案内してくれる。


「お久しぶりです」


 開かれた扉をくぐると、相変わらずの奇麗な所作でエリンディスが迎えてくれた。


「クレア様と……ヴェルナ様で、よろしかったでしょうか?」


「そうじゃが――」


「すみません。目が見えないものなので、面識が少ない人は、少し見分けられないもので」


「そういう事か。了解した」


「はい。申し訳ありません。それで、今日はどの様な要件でしょうか?」


「要件はあれじゃ、依頼の件じゃ」


「依頼? 何の依頼のことでしょうか?」


「冒険者に出していた依頼の事じゃ。それに付いて詳しく聞きたい」


「ああ、あの件でしたか」


 尋ねると、すぐに納得したようにうなずいた。もしかしたら、誰かが騙ったものなのではないか? という疑念はこれで払しょくされた。


「立ったままというのは、あれですから座って話しましょうか。シア、お願いします」


「はい」


 そして、すぐ傍のテーブルへと促されると、それから話す事となった。



「冒険者に出した。警護の依頼の件でしたね。あの依頼について、何か不備でもありましたか?」


 席に付き、フェロススィギルがお茶の用意をしてくれると、すぐに尋ね返してきた。


「不備はない。じゃが、少々気になる事があってな。それを聞きに来た」


「気になる事。とは何ですか?」


 エリンディスが首を傾げる。


「報酬の事じゃ」


「報酬? あれではご不満でしたか?」


「いや、不満はない。不満はないが、少々額が大きすぎる。あれでは何かあると言っているようなものだ。それに、大使ならもともと警護の人員を持っておるはず。なのに、なぜわざわざ冒険者を雇うのじゃ? それが気になってのう」


 依頼に付いて出ていた疑問を、ヴェルナが全てエリンディスにぶつける。それにエリンディスは小さく笑みを返した。


「随分と警戒心がお強いのですね」


「当然じゃ。命が掛かっておる故、下手な判断は下せぬ」


「それもそうですね。失礼しました」


 ヴェルナの言葉に、エリンディスは小さく謝罪を返す。


「やはり、変に隠したまま、というのはよろしくありませんね。分かりました、お話させていただきます」


 そして、姿勢をただすと問題の案件について口を開きかける。だが――


「よろしいのですか?」


 すぐに、傍で控えていたフェロススィギルが静止に入る。


「確かに、この事を外の人間に話す事はあまり良い事ではありませんが……だからと言って話さないわけにはいきません。この事の責任は私が取ります」


「わかりました」


 エリンディスがそう反論を返すと、彼女はすぐに引き下がった。それを見て、エリンディスはニッコリと笑い、再度佇まいをただした。


「それで、何があったのじゃ?」


 ヴェルナが再度問い返す。


「実は、今から数日前に、エヴァリーズの近隣――暗き森で、一体の黒竜が確認されたのです」


「黒竜……じゃと!?」


 静かに告げたエリンディスの言葉に、ヴェルナは表情を強くしかめる。


 黒竜。ドラゴンだ。ほとんど伝承や昔話でしか耳にしないような存在。そのどれもがとてつもない力を持つとされる幻獣だ。


「それは……事実なんですか?」


 一瞬、どうしてもそれは本当なのかと疑ってしまう。


「私自身は確認していませんが、国からはそうだと報告を受けています」


「そう……ですか……」


 いまだに信じられない。けど、エヴァリーズやエリンディスが嘘を言っているようにも見えない。なら――


「まさか、お主等。冒険者でその竜を――」


「まさか。そのような事、出来るわけがないじゃないですか。黒竜の件と、あの依頼は無関係ではありませんが、そのような事ではありません」


「では、なんなのじゃ?」


「防衛力に問題が出るため、念の為に、です」


「どういうことじゃ?」


 少し、話が見えてこない。


 竜の件と依頼の件は無関係ではない。そうは言ったが、では竜と戦うための戦力として冒険者を雇わないとするなら、何のために雇うのだろうか?


「竜を討伐するためには戦力が要ります。そのため、討伐にはエヴァリーズの大半の戦力が投入される事になると思われます。ですがそうなると、一時的にですが、エヴァリーズの防衛力は薄くなります。なので。その為の補強のための人員が必要になってきます」


「なるほど。何となくじゃが理解した。じゃが、それならなぜ、直接そういった依頼を――ああ、なるほど」


 エリンディスの説明に、ヴェルナは一度納得し、そこからまた疑問を口にするが、それもすぐに何かに思い至ったのか口を閉ざした。


「どういうことですか?」


 クレアは首を傾げる。


 防衛戦力の人員を確保したいのなら、確かにヴェルナのいう通り、その旨を直接依頼すればいいはずだろう。なのになぜ、わざわざ別の依頼という形で出すのだろうか? その理由がクレアには思い至らなかった。


「エヴァリーズは隣国のアルガスティアとはあまり良い関係ではない。アルガスティアはエヴァリーズの肥沃な土地を欲しておるからのう。そんな状態で、大きく自国の防衛力が弱まる事態が起きます。と事実を口にしたら、攻めてくれと言っているようなものじゃ。じゃから、わざわざこんな回りくどい方法を取ったのじゃろう。

 大方、友好国の戦力を借りるなどの方法をせず、冒険者に頼ったのも、他国に借りを作りたくない。といったところじゃろうな」


「はい。その通りです。ですから本当なら、黒竜の件を口外したくはなかったのですが……」


「わかった。その件については聞かなかった事にする」


「ありがとうございます」


 ヴェルナの返答に、エリンディスはほっと安心したように息を付いた。


「じゃが、そのような事情があるとはいえ。依頼内容を偽るというのは感心せぬな」


「そこは安心してください。依頼自体に変更はありません。依頼完了後、エヴァリーズにて改めて、別途本題の依頼を出す予定です。それを受けなくて、元の護衛の依頼さえこなしていただければ、その分の報酬はお支払いするつもりです」


「なるほど。そこは考えてあると」


「我々エルフも、信頼を重要と考える文化はありますから」


 ヴェルナの言葉に、エリンディスはそうニッコリと返答を返した。

お付き合いいただきありがとうございます。


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