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問題発生

「え~と……ダメなの?」


「はい。ダメです」


「本当にダメか?」


「はい、ダメなものはダメです」


 なんだろう……どこかで見た事のあるやり取りを俺はこのギルド職員――ライラと繰り返していた。相変わらずの笑顔で応対してくれやがります。


 先日の王城でのクーデター未遂事件。それから時間が経ち、負傷した者の傷が癒えた頃、俺たちは再び地下迷宮へ降りるため、それの許可申請を行いに来たところこの様なやり取りをすることになった……。なぜだ。


 いや、まあ、理由はちゃんとあるんだけどね……。


 冒険者ギルドの受付カウンターの直ぐ傍のお知らせボードに、でかでかと『(重要)地下迷宮上層にて不測の事態が発生したため、10レベル未満の冒険者の立ち入りを禁止します。』と書かれていた。


 不測の事態。不測の事態ねぇ~……。これだけだとちょっと納得できないところがある。


「この、不測の事態って何?」


「不測の事態は不測の事態です」


「喋れないような事なのか? さすがにこれだけで納得しろって言うのは、ちょっと難しい気がするんだけど……こっちも生活とか掛かってわけだし」


「それは……」


 問い返すと、こちらの言い分に理解を示してくれたのか、ライラさは少しの間考えこんだ。


「ちょっと、こっちへ」


 そして、小さくそう告げると、手招きをして近寄るように指示してきた。どうやらあまり聞かれたくない内容のようだ。それに俺は身を乗り出して耳を近寄せる。


「これは、ドルフさんが見込んだ相手として信用して話します。ですので、この事は広言しないでください」


「わかった」


「実は、つい先日、地下迷宮上層で、下級冒険者を狙った殺人事件が起こったんです」


「殺人!?」


「はい。犯人はまだ見つかっていませんが、急所を的確に付いた攻撃方法などや周辺の荒れ具合などから、冒険者同士の衝突によるものではなく、もともと冒険者を狙った暗殺行為である可能性が高い。とのことで地下迷宮には、自衛能力の低い下級冒険者の立ち入りを禁止する事となりました」


「マジかよ……」


「ですので、現在あなた方10レベル以下、下級冒険者PTには地下迷宮へ降りる許可が出せないんです」


 話を聞き終えると、身体をもとの場所へと戻し溜め息を付いた。


「わかった。それなら仕方ないか」


「あら、今日は潔いんですね」


「そりゃあね。人相手だと仕方ないよ」


「そうですか」


 人間、それも聞く話によると暗殺者の可能性が高い。相手の死角を的確に付いてくる奴らのやり方は非常に厄介だ。俺だけなら自衛する自信はなくはないが、PTとなるとさすがに自身がない。だから、ここは引かざるを得ない。


「邪魔したな」


「はい。申し訳ありません」


 別れを告げると、俺はギルドの受付を離れた。




「して、どうであった?」


 冒険者ギルドの受付から戻ると、待っていたヴェルナがすぐさまそう尋ねてきた。


 掲示板にでかでかと書かれているんだ。何か良くないことがあったことなどは、詳細は別として職員に尋ねなくても分かる。


「それについては、あっちで話そう」


 話が話だ。こんな冒険者ギルドの入り口なんかで話す事じゃない。そう思って、俺はギルドの談話ホールの端の方の席を指示した。


 すぐに俺の意図を察したのか、ヴェルナ達は頷いて返事を返すとそこへと移動した。




「で、何があったんだ?」


 談話ホールの端の席に移動し、席に付くと今度はイーダが尋ねてきた。


「それは――」


 俺がライラから聞いた話をそのまま答えた。


「殺人か……」


「ああ、それも冒険者を的確に狙った暗殺といえるものかもしれない」


 しばしの沈黙。ライラから聞かされた話は、それだけ衝撃的なものだったのだろう。


 地下迷宮の中では警察権が働きにくい。衛兵を配置できるわけでもなく、人の目もほとんどない。ある種の無法地帯だ。


 だから、冒険者たちは自らを律し、犯罪行為を行わないようにと心掛けている。それだけに、ここまで直接的な犯罪は、衝撃的だったかもしれない。


 前に、ヴィンスという男が俺達を騙すという行為を行ったが、それでも殺人まではしていない。人を偽ることは明確に犯罪だが、殺人はもっと次元が違う。それ故に、イーダもクレアも表情が厳しかった。


「殺人なんて……なんでそんなことをするんでしょうか?」


「それは――」


 普通に考えれば、冒険者を襲うメリットはあまりない。上級冒険者なら高価な装備などで身を固めているため、メリットが大きいかもしれないが、下級冒険者となると装備も安く、実入りは少ない。けど――


『冒険者の情報と証の売買』


 少し前にドルフから聞かされた話が思い出される。


 事の真相や動機については正確にはわからないが。下級冒険者を襲う理由は確かに存在していた。


「なんでだろうな?」


 けれど、あの話を伝える気にはなれず、俺はそのままはぐらかした。


「ま、理由なんてどうでもいいや。それより、じゃあ、地下迷宮へはしばらく下りられないのか?」


「状況が収束したりしないと、無理だろうな」


「チッ」


 イーダの問いに返答を返すと、イーダは舌打ちを返しあからさまな不機嫌さを露わにした。


「じゃあ、どうするんだよ。しばらく収入は無しか? さすがにそれはきついぞ」


 確かに。地下迷宮で入手可能な魔晶石を換金して、それで生計を立てる冒険者にとっては割とシャレにならない事態だ。


 俺は貯えなんかがそれなりにあるからしばらくは困らない。クレアも実家が裕福な分そこまで困らないだろうが、ほぼ限界生活を続けていたイーダに、借金生活を続けていたヴェルナにとっては死活問題だ。


「どうするって……別途で稼ぐしかないんじゃない?」


「そんな事、簡単に出来たら苦労はしないよ」


「まあ、確かに」


 御尤もです。非常に困った事態だ。


「お金が必要なのでしたら、依頼(クエスト)を受けてみるのはどうですか?」


 そんな目先の悩みに頭を抱えた時だった。横合いからクレアが、そんな事を提案して出してきた。

お付き合いいただきありがとうございます。


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