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願い

「とりあえず、ここに居れば安全かな?」


 ようやく見つけた小さな物置の様な部屋に入り、扉を閉じるとそう安堵の息を付いた。


 ここは王城の中央辺りから離れた、少し奥まった場所にある部屋だ。探しに来るのも面倒だし、外から入り込めるような場所ではない。早々見回りになどこないだろう。そう判断する。


「助かった……という事なのか?」


 部屋に入り一息付くと、共に居たエーリスが不安げに問いかけてくる。


「最終的にどうなるかは、今度の展開次第だけど、ここに居れば事が終わるまで見つからずに済むだろうな」


「そう……か……」


 安心させるように、そう返答を返すが、エーリスはまだ不安なのか歯切れの悪い返事を返した。


 まあ、安全だと言い聞かせても、そう簡単には安心できんよな……。


 何とか安心させてやりたい。そう思わなくもないが、すぐに言い説得方法が思い浮かばず、あきらめて息を付く。


 静かに時間が過ぎていく。身を潜めている。そういう状況上あまり会話ができない。そして、会話なく過ごすこの時間は割と苦痛だ。そんな、割とつらい状況の中、最初に口を開いたのはエーリスの方からだった。


「このまま、何もなく終わり……なんて、事は……ないよな?」


 不安げな声のまま問いかけてきた。


「それは、この状況がって事? それとも俺たちがって事?」


「状況が……だ。このまま、国は……めちゃくちゃになるのか?」


「それは……」


 不安で揺れる瞳が問いかけてくる。


「正直言うとわからない。俺はこの国の事は詳しくない。けど、事の起こし方や、この進行の速さを考えるに、それなりの準備はしている様に思える。何もなしに終わるって事は……ちょっと考えにくいかな」


 取り繕うことは簡単だ。けど、目の前の瞳はそんな単純な安心を欲している様には見えなかった。だから、自分なりに正直な感想を返した。


「じゃあ、このまま……」


 エーリスが目を伏せると、悔しそうに手を握り締めた。


 国をより良くしていきたい。そう語ったエーリスにとってこの状況は、非常にやるせないものだろ言う。それも、この状況を引き起こしたのはエーリスと同じ、メルカナス人だという。より、なおさらだろう。


「ユリさん……」


「何だ?」


「無理なお願いを……してもいいですか?」


「お願い?」


「ユリさんには……戦う力が……あるんだよな?」


「う~ん、一応? 魔術師だからな、戦闘用の魔術とかも一応扱える。かな」


「じゃあ、お願いが……あります。この国を……救ってください」


 迷いながら、絞り出すようにして、エーリスはその言葉口にした。


 無理すぎるお願いだ。この状況を打開するためには、単純に考えてこの城を占拠した奴らを打倒す必要がある。


 騎士団一つが事に及んでいたと考えても、その数は100人を超える。その相手をたった一人の人間にお願いするなど、無謀すぎる。


 それだけじゃない。騎士団一つだけまだらまだいい。けど、その程度なら国の鎮圧部隊でどうにかなる。それを想定しての行動だとするなら、相手の戦力はそれどころではない。そんな相手に挑ませるなど、ただ死にに行けと言っているのと同義だ。


「やっぱり……無理ですよね。こんなお願い」


 自分が口にした願いが、どれほど無謀な事なのかを理解したのか、エーリスはすぐに言いつくろう。


 無謀な願い。けど、今のエーリスにはそんな願いに縋りたいほどなのだろう。


 正直に言うと、俺はこの件に関わりたくはなかった。理由は面倒だからだ。政治がらみの出来事は、難しく、そして正解を出しにくい。どのような形に収めても、遺恨が残りやすいし、しがらみに縛られやすい。だから、避けたい。


 けど、こんな風にお願いされたら、無視することも難しく――悩まされる。


「弱いな……俺って」


「何ですか?」


「いや、何でもない」


 そう答えると、俺はゆっくりと立ち上がり、この部屋の扉の方へと向き直った。


「どこか、行くのか?」


「あんたのお願い。できる限りの事はやってみるよ」


 軽く利き腕を振る。すると、その手に一本の剣が収まる。使い慣れた曲刀――魔術的なパスを繋いだ武具を魔術で手元に引き寄せたのだ。


「良いの……か? 僕の方から何か、支払えるものなど、何もないぞ……」


「できる限り、だよ。どうせ、ヴェルナ達の無事は確認しないといけない。そのついでだ。あまり期待するな」


「ありがとう……ございます。お願いした、僕が言うのもあれだけど……死なないでください」


「お前も死ぬなよ。ここに隠れていれば、見つからないはずだ。じゃ、行ってくる」


「お願いします」


 エーリスに別れを告げると、俺は扉に手を掛け、開くとすぐに駆け出して行った。




 火花が舞い散る。斬り合った剣の向こうで、驚きの表情を浮かべたガエルの姿が見える。あと一歩のところで間に合った。


(これは……感謝しないといけないかもしれないな。エーリス。あんたの御蔭で、俺は仲間を失わずに済みそうだ)

お付き合いいただきありがとうございます。


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